やっと付き合ったけど紆余曲折散歩するような現パロ遊京
※中途半端

*


俺も好きだ、ええと、そうだな、付き合ってくれるのか?
顔を真っ赤にした鬼柳の発したその言葉達が、二年にも及ぶ俺の片想いに終止符を打ってくれたのだ。それは先月の話で、そのお陰で俺は今絶賛幸せな日々を送っている。

春は出会いの季節であり別れの季節だというが、その通りだ。尊敬していた先輩が華やかな卒業式を終えて卒業して行き、中学を卒業したばかりの後輩達が緊張や不安や希望を持って入学して来る。

二年前、自身らの学年の入学式に俺は鬼柳に恋をしたのだ。あれは忘れもしない瞬間である。
プリントで配られた組分けの表に従い教室に入り席に座って、担任の教師の話を聞いた。真新しい内容に皆多少なりとも嬉々としていたのではないだろうか。俺はといえば、入学式に駆け付けられなかった多忙な父の事を考えていたのを今でもよく覚えている。
だから暗い表情をしていたのかもしれない。中学からの親友であるジャックとクロウとクラスが違ったからというのもあり、俺は少しだけ、いつもより無愛想だったかもしれない。自分ではよくわからないが。
後は簡単な説明と規律を話し、そうして解散になった。

保護者らと合流すべく移動する新入生徒らで騒がしくなる廊下を尻目に、プリントを意味もなく眺めて時間を潰していた時に、鬼柳が俺に話し掛けた。それが初めての出会いだった。
彼は緊張覚めやらぬか、頬を紅潮させて俺に話し掛けたのである。今思えば鬼柳は無愛想な俺に気を遣ったのだろう、そういう奴だ。

「俺、鬼柳京介。お前は?」

そう尋ねる彼の顔は素晴らしく輝いていたように思える。水色がかった銀色の髪は一挙一動に揺れ、大きな黄色の瞳はぱちぱちと期待に瞬いた。唇は薄いが色ははっきりとしていた、一言一言よく動く。机に着いた細い指先は白く頼りない。
全体的に華奢に思わせる彼だが、しかし爛々とする雰囲気は強く思えた。

「……遊星、不動遊星だ」

後日また登校した際にクラス全員にクラス全員へ自己紹介をさせると担任の教師は言っていた。だがそう彼に伝える事も忘れて、あまり人と馴染むのを得意としないのに自己紹介を口にしていたのである。
俺の名前を聞いた瞬間に綻ぶ鬼柳の顔はあまりに嬉々としていて、こちらまでとても嬉しくなったのを今でも鮮明に覚えていた。

「俺さ、こっちに越して来たばかりで中学の友人とかいないんだ」

「そう、なのか」

「うん。だからさ、友達になってくれないか、遊星」

机に置いていた両手を細い掌が救うのを、ただ眺めていたのを覚えている。白い指先は俺の両手を包み、そうして黄色の大きな瞳はこちらを覗き込んできた。
なんて図々しい奴だろうかと普段なら思っただろう。普段ならば過度のボディタッチに拒否反応を示してしまうのだ。しかしその時の俺は無躾に名前を呼ぶ彼の楽しそうに喋りながらする、悲しそうな躊躇いがちの多種多様で多彩な表情に見惚れていた。

一目惚れというやつを、俺は高校デビュー当日にボディーブローのような抜群の不意打ち威力で、遠慮もなく食らわされたのである。

白い掌を拙く握り返して、俺なんかで良ければ、と返した瞬間の輝かしい笑顔に心臓を持っていかれた。その日、鬼柳京介という存在が俺の高校生活に人生に壮絶に減り込んできたという事になる。ちなみにまだ減り込んでいる。


クロウ曰く「スキンシップ激しい奴に免疫ないから、鬼柳なんかに惚れるんだ」。
ジャック曰く「お前は自身と相対的な者に憧れを抱き易いな」。

だそうだ。どちらも間違っていないと思う。スキンシップが激しく素早く自身の間合いに入って来る人間に弱い、強く出られないのだ。まあ大体それは自由奔放さを振り回す子供だったりするのだが。
それにジャックの言う、相対的な者に憧れん抱くというのもそうだ。鬼柳はあまりに俺と違う。明るく元気で騒がしい。見た目もそうだ、肌は白く人懐こい雰囲気をしていた。

そうして俺は鬼柳と友人関係になり、二年を過ごしたのだ。ジャックとクロウともすっかり打ち解けた鬼柳は一年を過ぎた辺りですっかり親友に相成った。
同性へ向ける恋愛感情を侮蔑するでなく応援をしてくれるジャックとクロウは…いや、語弊があった、訂正する。同性へ向ける恋愛感情を囃し立てたり時々真面目に支えてくれたりをしてくれていたジャックとクロウは、酷く優しい。彼らのお陰もあり、俺と鬼柳は恋人同士になれたのである。

春休みの頭に恋人同士となったので、早々にその知らせを入れていたジャックとクロウは気を利かせて俺達二人の時間を多く作ってくれた。
四人で遊ぶ約束だった日を何日か二人だけにしてくれたり、四人で遊んだ後に進んで二人きりで帰らせてくれたりと。

恋愛になると存外奥手な俺達を応援してくれていた。

そう、恋愛になると奥手な俺達を。
……冒頭で、絶賛幸せな、と言ったが語弊がある。実は幸せは幸せだが悩みがあった。結論を急ぐと上記にある通りなのである。

俺達は……いや、鬼柳は恋愛になると一気に奥手になる。それが悩みだ。

高校三年の春。新学年、新学期だ。
クラス替えでジャックもクロウも俺も鬼柳もブルーノもアキも同じクラスになった。クジ引きで決めた席順では窓際の席を勝ち取り、更に真後ろが鬼柳の席になった。そう遠くない席にジャック達も並び、楽しい新学期に思える。
しかし俺の不安は春休み中に十分山積していた為に、拭い切れず新学期を迎えていた。ジャックとクロウにも相談出来ずにいる。


そうして新学期が始まり二週間が経った。
俺は高校に上がってからというもの、父の計らいで一人暮らしをしている。鬼柳の家にはお兄さんと弟が一人ずついるので、室内デートとなると必然的に二人きりになれる俺の家になるのだが、それがどうにも。

明日は祝日だからと鬼柳は泊まりに来ている。荷物を前日家に置いておいたので、放課後そのまま俺の家へ来て鬼柳は制服からラフな姿に着替えた。そうして今はソファに座ってニュースを見てくつろいでいる。俺はといえば、同じく着替えて来たはいいが今は体育座りをする鬼柳の細く白い首筋を後ろから眺めていた。
しかしすぐに雑念を振り払うように、鑑賞を終えるよう頭を振る。そうして来る途中にコンビニで買ったジュースをコップに注ぎ、ニュースに夢中の鬼柳に手渡した。

「なんか、変質者だって、刃物持ってるって」

「近くか?」

「俺の家からだと近いかも」

コップを受け取りながらもテレビ画面に目を遣る鬼柳は言う。近いかもと聞き少し焦ったが、どうにも昨夜捕まったらしい内容であったので安心した。確かに、発見場所は鬼柳の家のある地名である。
隣へ座って同じようにニュースを見遣った。次いで流れる内容の人気歌手の結婚報道に鬼柳が小さく落胆の声を上げる。幸せそうに柔道選手との結婚を話すのは今流行りの歌を歌う、可愛い女性であった。
ちらと見遣る鬼柳は残念そうにしていた。好きな歌手だったのだろうか。CMでよく聞く曲を歌っている歌手なので、一般的に人気な女性歌手なんだろう。

俺は、ふと鬼柳の顔を見た。盗み見るそれでなく、じいと見据えるそれで。
案の定鬼柳は一瞬遅れてこちらを見て、首を傾げて身じろぐ。戸惑う目は泳いでいた。

「鬼柳」

「え、あ、な、に?」

「………」

鬼柳の顔がみるみる赤くなる。触れてなんていない。距離だってそこまで近くない。ただ、ただただ見詰めているだけだ。
まだ親友であった時に鬼柳はこうではなかった。見詰めればどうしたのかと尋ね、その後触れたって首を傾げて笑うくらいだった。
だのに恋人同士になってからはこうである。妙に奥手ですぐに取り乱していた。

ソファに手を着いて少し身を乗り出し、片手を鬼柳の膝へ置く。ぎしっとソファのバネが擦れる音が聞こえた。ニュースは政治を語っている。
俺の鼻先が鬼柳の肩の辺りを過ぎた時に、ばさぁっと大きな音が室内に響いた。同時に鬼柳は丸まってソファに伏せっている。おまけとばかりに後から掴んだクッションを頭に被ってしまった。
浜辺で見付けたヤドカリにちょっかいを出して、そうしたら直ぐさま殻の中へ逃げられてしまった時の事を思い出す。慣れては来ていたが日に日にオーバーになるその反応に、傷付いてはいないだなんて言い切ったら嘘になるだろう。

付き合ってから、まだキスは疎か手すら繋いでなかった。意識した、触れるという行為もままなっていない。鬼柳がこうして真っ赤になって嫌がるからだ。無理強いは出来ない。
言葉もなくクッションの下で黙る鬼柳を見下ろす。仕方なく先程座っていた位置へ再び座り直してニュースを眺めた。

これは照れだろうか拒絶だろうか。考えながら頭に入らないくせにテレビ画面は目線に捉える。
逃げられるのは拒絶だ。しかし顔を真っ赤にして逃げる様子は一杯一杯に見える。そうすると照れか。

どちらにしろ可愛くて仕方がないので、いつも困っている。無理強いはしたくないが、可愛いのだ。再三になるが今一度、鬼柳は可愛い。

少し思考を深くする。脚を組み口元に手を遣る頃には、鬼柳はクッションから顔を出していた。こちらを見遣ってくるのを尻目に考える。

そもそも付き合ってくれと言ったのは鬼柳だ。告白は俺だったが、それを聞き付き合う事を提案したという事は相思相愛だと判断してもいいだろう。
次に拒絶か照れか。これは先程の思考で済んでいる。俺の思い違いでなければ、照れだ。
最後に、だ。嫌なら泊まり込みで二人きりになる俺の家に来ないだろう。これはなんという正論。なんて良い答えが出るんだろうか、我ながら吃驚だ。



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