遊→京
主人公と脇役


*


「もしこの世界が一つの物語なら、お前は間違いなく主人公だよ、遊星」

それまでの会話を容赦なくぶった切り、鬼柳はなんて事ないようにそう言った。

「……………俺が主人公の物語なんて、退屈な物語だ」

「そうか?」

「口数が少ない、出来る事は機械いじり、サテライト出身…華がないな」

「人望に厚い、めちゃくちゃ頭がいい、逆境に打ち勝つ。ザ・主人公!」

居心地が悪くなり、つい苦笑してしまう。第一にこの世界は物語なんかでなく、そして何よりも鬼柳がなんと言おうと俺は主人公という柄ではない。
確かに世界を救った。しかしあれは固く強い絆の上へ押し上げられ、成し遂げたのが俺というだけだ。世界を救ったのは俺なんていうちっぽけな存在でなく、皆の想いである。

「俺もヒーローを一人知ってる」

「ん?」

「鬼柳京介という男だ」

「ちょ、やめろ」

「人望に厚い、判断力に優れる、逆境に逆らう。まさしくヒーロー」

「俺が悪かったから…結構恥ずかしいな」

「だろ?」

日頃血色の悪い顔を真っ赤にさせて、鬼柳は肩を震わせる。鬼柳は案外褒め言葉に弱く、以前に褒め倒した事があるのだがパンチを食らわされた。結構痛かった。

「〜っ……俺は、せいぜい10話くらいだけ出るお前の親友ポジだな」

「まだ続けるのか」

「まあ聞けって。それで…最終回までほとんど出番がねぇの。最終回だって、ちらっと顔出すだけだ」

あまりに楽しそうに語るので、口を出すのを躊躇う。だが言いたい事は沢山あった。
なぜなら俺の人生の中で鬼柳はそんな些細な存在ではないからだ。サテライトでただ毎日工場で仕事をしていた俺に、腕を生かして様々な機械を修理して金にするツテを教えてくれた。サテライトでただただ毎日生きていた俺に抗う希望をくれた。

「俺の幼少期やらの過去回想は多分ないな。そうも重要視されるキャラじゃないし」

「鬼柳」

「親に棄てられて暗いとこ突っ切って生きて、カード覚えて不良やって、遊星達に出会って自滅して、ダークシグナーになって遊星達苦しめて、消えて、生き返って、記憶取り返して絶望して旅に出て、遊星に迷惑かけて…今こうして生きてる」

「……ああ」

「主人公ってタイプじゃないだろ?最初は適役で、後から事情がわかって視聴者の同情引いて…戦いに負けて、ややあって主人公の仲間になるんだ。でも特殊な力がある訳じゃないから重要な戦いには参加出来ない、チョイ役だ」

「そんな事、」

「そんな事あるんだ。少なくても俺にとっては、そんな事ある。俺はお前に比べたら随分小さい存在だ」

そんな事ない。そんな事はない。俺はしきりに顔を横に振るが、鬼柳の目は揺るがず笑っている。

「お前はさ、お前達は俺を救世主って言うけど違う。全然そんなんじゃない。俺の中で主人公はお前で、ヒーローはお前なんだ、遊星」

そう言い切り鬼柳は俺の頬へキスをした。ちゅ、と可愛い音がする。鬼柳はすぐに体を離して俺から少しばかり距離を取った。

「だから俺はお前の告白を受ける事は出来ない。俺の中でお前はヒーローで、俺はチョイ役なんだ。チョイ役はヒーローと付き合えない」

物語の役割が違い過ぎるという、それが例え話だとはわかる、だが言いたかった、チョイ役と主人公が付き合ってはいけないのかと。叫びたかった。だが言うだけ無駄だとわかっていたため、唇は開かないまま止まる。

鬼柳、お前が好きだ。ずっと好きだった。
そう言った俺に、鬼柳は「もしこの世界が物語なら」と話をいきなりした。
だから俺も話を聞いていた。ただ静かに、最後にはフられてしまうのだろうと覚悟しながら。








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