漫画版ジャ京
※幼少期


*


監視カメラに見張られた食堂はお世辞にも開放的ではなかった。白で統一された壁に床に、綺麗な長いテーブルと椅子がいくつかずつ並べられている。
その上に置かれた食事は無機質な室内に反して暖かく、人の温もりがあった。だが被験体の子供達が施設内に厨房を設けられている事を知る機会も、考える由もなかったが。
それぞれに割り振られた番号に従い席に着いていく。0番の数字を割り振られている鬼柳は、食堂に入ってすぐ目の前にある席に着いた。
左側に座る1番の少女が「今日は野菜が多いね」と小さく話掛けてきたので、一度目の前にあるプレートを見遣り、頷く。私語を厳しく取り締まる決まりはない施設だったが、監視カメラにぎょろりと見られていると意識すると少しだけ口数が減ってしまう。

全員が席に着き、今日のテストの旨を説明する大人が食堂に入って来た。
野菜の多い料理を見下ろし、スープを見る。どうやらスープに卵やら肉やらを入れて栄養のバランスを取っているようだったが、肉があまり好きでない鬼柳は少し納得がいかなかった。バランスは全体の調和で取って欲しいものである。

少し口を尖らせてから、しょうがなく説明をする大人に目線をやる。必然的に視界に入る向かい側に座る少年を見て、鬼柳は眉根を下げた。

(また難しい顔をしてる)

向かい側に座る11番は、ジャックだ。説明を聞きながら眉を寄せた、子供らしからぬ顔をする少年を見て複雑に思う。
ジャックはいつもどこか遠くを見ているように思えた。毎日テストを繰り返すこの生活より先、この施設を出て平凡な暮らしをするより先、もっともっと高みを目指している。

(……俺は、どうなんだろう)

この施設に来る前の事を思う。
監視カメラに始終見詰められ、規制され、指示をされる。確かに窮屈だ。だが、この場所に来る前に比べてしまえば優しく思える。

「今日人参多いなぁ…」

ぽつり。隣の少女がつぶやいた。唇を尖らせていうそれを見て、鬼柳は苦笑する。少女は期待しているのだ、比較的ベジタリアンな鬼柳の優しい行動を。

「乗っけてもいいぞ」

「ありがとう」

ひそひそと喋りながら、説明をきちんと聞いているフリをしながら少女と鬼柳は人参の密輸を済ませた。

こうして同じ年頃の子達と接する事も、あまりなかった。それも笑顔でなんて尚更だ。
説明を済ませた大人が部屋を出て行くのを見送る。正面に向き直ると、同じく向き直ったジャックと目が合った。鬼柳は暫く目線を外さないジャックを不思議を思い、名前を呼ぶ。

「ジャック、どうした?」

「……いや、なんでもない」

「ジャックも人参嫌いなら鬼柳に食べてもらいなよ」

朗らかに少女は笑った。目線を外したジャックは少女を見て目を丸くしている。
そのすぐ後になぜかその目で文句ありげに見詰められ、鬼柳は汗を垂らした。睨むなら少女にであり、鬼柳にはお門違いである。

「……ピーマン」

「え?」

「を、貰って、くれ」

「あ、うん」

暫し頬杖を着いていたが、ジャックはプラスチックのフォークに細切りにされたピーマンを乗せた。そうして少しだけ身を乗り出して鬼柳のプレートへ移動をさせる。

「ピーマン嫌いなのか?」

「……」

むす、と、ジャックは黙った。
それを見て鬼柳は隣の少女と笑い合う。ジャックは無愛想だが分かり易いところがあって、それが意外に面白い。










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