※グロ表現有。バッドエンド


朝目が覚めると、まず自分の部屋にいない事に吃驚した。此処は何処だろうか…。物置のように見えるが、あまりに物が少ない。自分は軋んだベッドの上に居て、室内は窓が二つあるが板で塞がれていた。置かれた蝋燭で明るくはあるが、蝋燭は大分小さくなっている。扉は一つのみだが、開く気配はない。
俺は何故こんな所に居るんだ。

それから体の異変に気付いた。確かに俺は、朝に…寝起きに弱い。低血圧というやつだ。
だがこれは違う。下半身に極端な違和感がある。感覚が、ない。痺れているような感じだ。
恐ろしくなって下半身を見下ろすと、普段の格好となんら変わらない。

「…は…?」

足首。足首に包帯が巻いてある。おかしい、いつ怪我なんてしたろうか。よく見ると両方の足首に巻いてあった。
向きを変えて見る。踵の上辺りの包帯はじんわりと紅くなっていた。
さあと血の気が引く。麻痺した感覚は気持ちが悪い。よく見ると包帯はまだまだ紅みを増やしていて、意味が分からずに泣きそうになった。
もしこの下半身の感覚麻痺が無かったら、俺はこの両足首の痛みで泣き叫んでいるのではないだろうか。
だってつまり、これは両足首がざっくりと切れているという事だろう。じわりじわりと次第に紅くなる包帯。ああ気付いた、血の溢れる量と包帯の綺麗さから言って、この包帯は誰かの手で変えられてすぐの物だ。
俺が寝ている間に、誰かが。想像してぞっとする。

何故こんな事に。
此処は何処だ。なんで俺は、こんな。

困惑して、しかし冷静になろうと必死に深呼吸をする。
考えろ、これはあれだ。きっと昨日制覇した地区の奴らが仕返しに、したんだ。そうに決まっている。それならば遊星達だって助けに来てくれる筈だ。

よし、とりあえず部屋から抜け出れるか試そう。
そうしてベッドから立ち上がろうとして、手を着く。足に力を入れようとすると同時に、体がかくんと倒れた。
は、と間の抜けた声が漏れて、自分の体はベッドへ沈む。吃驚して恐る恐る自分の足首を見ると、更に血が滲んでいた。

「……うそだろ」

いや、まさか。そんな筈はない。そんな事するなんて、非道過ぎる。困惑して吐き気が腹部に渦巻き、鼻頭がつんとして涙が出そうだ。
俺は一度ぎゅうと強く瞼を閉じて、それから深呼吸をする。
ゆるりと右足首の包帯に手を伸ばした。几帳面に巻かれて几帳面に結ばれている包帯を解き、4、5回巻かていたそれを外す。べちゃりと粘り気のある血が糸を引き、薄い赤をした鮮血はベッドへ垂れた。
痛みがなくて良かった。つくづくそう考え、最後の一巻きを外す。

「……なんで」

露になった俺の右足首。見るも無惨で、自分の体の一部だと言うのに必死に目線を反らした。

俺の足首は骨が見える程に刔られている。肉は裂け、細かな繊維がぶらりと垂れていた。ぐちゃぐちゃな肉片は一部は情け程度にくっついているだけである。
あまりじっくりは見なかったが、骨の手前にはあるべきだろう筋肉や…アキレス腱が見当たらなかった。ぶっつりと切られてしまった、という事だろう。
想像するだけで吐きそうになる。なんで俺の足が、こんな。
ジーパンを穿いているから気づかなかったが、多分膨ら脛は切れて縮んだアキレス腱や筋肉が滞って腫れ上がっているのだろう。見たくない。強く瞼を閉じて、ベッドに力無く寝た。

左も同様だろうか。ああ、夢じゃないのかこれは。夢なら、夢ならどれだけ良いか。
開かない、届かない扉を見て、ぼろりと涙が溢れる。
今まで背後から殴られたり、捕まって暴力を受けたり、様々な手によっていたぶられて来た。だがこんな仕打ちは初めてだ。

俺、これじゃ一生歩けない

嗚咽までも漏れる。と同時が、開かぬだろうと眺めていた扉が開いた。
俺をこんな目に遭わせた奴か、と身構えて睨む。するとその扉から入って来たのは見知った奴だった。思わず安堵の表情になる。

「っ遊星…!」

助けに来てくれたんだな!俺は笑顔で遊星を見上げる。
遊星は俺を見て、一瞬驚いた表情をした。足首を見て複雑な顔をする。ああ遊星から見てもこれは酷い有様だよな、と考えると、遊星はにっこりと怖いくらいに綺麗な笑顔を浮かべた。

「鬼柳、聞いてくれ」

「…?…遊星…?」

遊星は言って笑顔のまま俺に歩み寄る。遊星の満面の笑みは酷く珍しく、気持ちが悪い。思わず総毛立って、ずりと身を引いた。

「此処なら一生一緒に居られる。誰にも邪魔はされない」

「……何、言ってんだ?」

冷汗が顳から頬へ垂れる。遊星はぎしと音を立て、膝からベッドに乗り上げた。俺はベッドに手を着き、腕の力でのみ遊星から距離を置く為に身を引く。

「お前が逃げてしまうのが怖くてな……鎖は可哀相だから、手荒だが…足は使えなくさせて貰った」

「……あし、」

「ああ。……そうだ、そろそろ鎮痛剤がきれるな」

遊星はそう言ってポケットから随分と薄い箱を取り出す。それをベッドに置き、遊星は俺の足首を見遣った。

この足首を、遊星、が?

先程見た酷い有様の足首。思い出しただけで気持ちが悪くなる。同時に普段通り冷静な顔をした遊星がナイフを片手に、寝ている俺の足首を切り裂く姿を想像してぞわりと寒気がした。今目の前に居る遊星が恐ろしい怪物のように思える。直視出来ずに目線を下ろし、嗚咽混じりの呼吸を整えた。

「包帯は外してしまったのか……まあ、後でまた巻いてやるからな」

まったく京介は仕方ない奴だ、遊星はそう言って笑う。
そうして俺の頬に触れた。怖いくらに邪気のない笑顔。

「愛してる、京介」

ああこの笑顔は日頃よく見た。俺が何か頼み事をすると、俺が遊星に甘えると、遊星が俺と話す時も、遊星が俺を見ている時も。
遊星は俺を好きだとは知っていた。勿論友人としてだと、思っていた。そして俺も、遊星を友人と…親友だと思っていた。

しかしこれは違う、のか。
女が男を好み自分のエゴをなすりつけるような、男が女を好いて精神的な束縛を望むような。
そういう事、なのか。

遊星は俺を好きで、それで、こうした?あまりに歪んだ愛情だと絶望し、呆れた。なんで俺なんだ。何故同性である俺である必要がある。足首を見遣り、寒気がした。

サテライトは元来“普通”の無い場所だ。誰も基準を計れない。だから俺にだって、初めて好きになった女を犯した事があったりとか、そういった歪んだ愛情を向けた経験がある。
しかしこれは、あまりにも。

「……愛してる」

遊星は俺の額にキスをする。さらりと髪越しに頭を撫でられ、瞼を閉じた。

ああ俺はもう一生歩けない。暫くは鎮痛剤が無ければ痛みに泣き叫ばなくてはならない。
この部屋からは、出れない。

なら利口に機会を謀らなくてはならない。クロウやジャックが俺を探してくれるのを待つのでもいい。

なんにしても今遊星の反感を買って得なんて一つも無かった。それくらい馬鹿な俺でもよく分かる。

「俺も…遊星が好きだ」

自由に動く腕を遊星の首に絡ませ、強く抱き着いた。
ああこのまま首を絞めれれば俺は自由になれるのだろうに。敵う筈もない腕力を考え、そのままもう一度遊星の耳元で「愛してる」と囁いた。



***



足首ざっくりな描写を書きたかったのです。
初グロ描写でしたが、ヌルイですかね…?
そして最後急いだ感が酷いですね!(^O^)

遊星ヤンデレうまうま(^p^)







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