〜9/9までの拍手詰め込み
テーマ(出会いたて)

クロ京

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アイツ嫌いだ。第一印象はそれだけだ、紹介してくれた遊星には悪いが。
まず笑顔がなんだか嫌だ、作り笑いみたいな笑顔で腹が立つ。声も嫌いだ、変に爽やかでいちいち耳に留まってしまう。顔も嫌いだ二枚目と三枚目をふらふらしている。体格も嫌いだ、背は高いし馬鹿みたいに細いのにほどよく筋肉がついてる。あと勿論性格が大嫌いだ、チームメイトの為なら自己犠牲は躊躇わない精神とかくそくらえだ。

「よく見ているのだな」

「あ?」

「鬼柳の事だ」

「は?」

ジャックにつまらなそうに言われ、鼻で笑われ、腹が立つ。なんだよそれと返す前にホモの気持ちは分からんと溜息を吐かれ、更に腹が立った。そんなんじゃねぇぇと叫ぶと去ったジャックと入れ違いで鬼柳が部屋に入って来る。廊下にいるらしいジャックの背中と俺とを見比べて、首を傾げた。

「喧嘩か?仲良くしよーぜ?」

「違えよ、ほっとけ」

「あそう。ならいいけど」

馬鹿だ単純だ信じるなよ嘘だろこの態度。本当にあほだ嫌いだ馬鹿だ馬鹿、ばぁか。ああ頭痛い。鬼柳の顔を見ずに部屋から出ると決め、立ち上がった。




数時間後、先程後にしてから立ち寄らなかった2階の部屋に立ち寄る。鬼柳が見当たらなかったので、最後に見た場所だったので確認しに来たが案の定ここにいたという訳だ。ちなみに別に探したとかいうわけでなく、目線に何回も入ってこないのが珍しくて変な感じがしたから見に来ただけである。

「……寝てんのかよ」

二人掛けのソファにぐでーっと寝ている姿を見て思わず苦笑してしまった。丁寧に腹に掛けられたタオルケットを見るに遊星も同じように苦笑したのだろう。

「……」

寝てると静かだ。丸まって寝てれば体格は顕著にならずにいるし、開かない唇はせわしく動かない。性格だってこれならわからず、二枚目か三枚目かを行き来する表情も今はどれかと言えば何枚目もなく子供のようである。
こうしていれば、好きかもしれない。というより好きといえるかもしれない。

「…………いやいやいやいや」

なにを考えているのやら。頭を抱え、そして鬼柳を見遣る。熟睡しているその頭を撫でてやり、本当に子供のように身じろぎをして笑むものだから、クロウは衝動的に額に唇を落としてしまった。
しかしなぜか嫌な気持ちは微塵もしなかった。

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ルド京

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「頭痛い、腹も痛い、胃が痛い、ついでに肩も痛い、肩甲骨も軋む」

「知らん」

鬼柳京介はおかしなダークシグナーだ。ルドガーはげんなりして、そしてうんざりとして腰に纏わり付く京介を蹴ってやった。ひでぇひでぇひでぇと泣く声は駄々をこねる子供を遥かに通り越して最早畜生道に墜ちた餓鬼のそれである。つまりは酷く耳障りという事だ。

「どうすりゃあいいの意味わかんねぇよ遊星殺したい頭痛い腹痛い足首もぐねった骨盤軋む、ああ足首はオッサンのせいだからな」

「知らん」

いつまで引っ付くつもりなのか。こういう時に限って厳しいディマクは生贄集めで居ないのだから間が悪いというかなんというか。
というより何故この鬼柳京介はダークシグナーとして生まれ変わった一日目にこんなにも意味不明な行動を取れるのか。ルドガーからすれば不思議でならない。

「あと胸が痛い」

「知らん」

「オッサンのせいで胸が痛い、ずきずきする、きゅんきゅんする」

「………知らん」

本当に意味がわからない。再び腰に纏わり付くそいつを蹴るのも引きはがすのも、というより自ら触れるのがなにか躊躇われてルドガーはげんなりとした。
変な奴がダークシグナーになってしまった、と。

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ラモ京

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雇ってくれると聞いたと鬼柳は呟いて扉を開いた。その日は生憎の雨で、鬼柳の気分の悪さは絶好調だった。入った酒場がこれまた気分の悪さを煽るように酒臭く、鬼柳は悪い顔色を更に悪くしキツい表情を更にキツくする。

「ああ、どうぞ」

金髪の男に案内されてずんずんと酒場の奥へ入っていった。足取りの悪い鬼柳を怪訝そうに見遣るも当の本人は特に気にしない為、ほとんど無意味な行動である。
案内され向かった先にはあからさまに一番偉いですよとばかりに酒を煽っている男がいた。下っ端の説明によるとラモングループ総帥のラモンという男らしい。鬼柳は言われた通りに椅子に座り、テーブルにデッキを置いた。

「仕事って言っても簡単で、まあデュエルして勝つだけ。ただそれは言えば簡単だが実際行うとなれば話は違う、何も勝つ確率は二つに一つって訳じゃない」

ぺらぺらと説明を始めるラモンを横目に、鬼柳はテーブルに直に刻まれたデュエルゾーンに従いシャッフルしたデッキとエクストラデッキとを置く。横で偉そうに話しているラモンではなく下っ端が鬼柳の相手をするらしく、鬼柳はそんなにも気に止めない様子でラモンを一瞥した。

「……コイツに余裕勝ちすれば雇ってくれるんだろう?」

「そうだな」

「………」

楽勝だと口にはださなかったが、向かい側に座る対戦相手はなんとなく分かったらしく憤っている様子だった。


結論を急いでしまうと鬼柳の圧勝であった。ワンキルとは行かなかったが、引きが酷く悪かったにしては4ターンでの勝利は早い勝利である。
鬼柳が横目でラモンを見遣ると、なにか呆けたような目で見られている事に気付いた。なんだと睨むように改めて見遣れば、ラモンはようやく思い出したように口を開く。

「明日から頼みますよ、先生」

いきなり敬語だな、と、思ったが口にはしなかった。あと肩に手を回されて触れられて意味がわからず腹が立ったが、口にはしなかった。

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遊京

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「なに、お前、デュエルすんの?」

彼の第一声はそれだった。遊星は瓦礫に手を突っ込みジャンクを漁っている最中だったので「ああ」やら「まあ」やらなんともつまらない返事しか返しはしなかったのだが、しかし返事を聞いた彼は気にしていないのか腰に掛かっているデッキホルダーをしげしげと見ている。

「上手いの?」

「……さあな」

「下手?」

「下手、では、ないと思う…」

「って事は定期的に誰かと手合わせしてんの?」

「……さっきからなんなんだ」

遊星はようやっと質問を止めない男に顔を向ける。なにを隠そうこの二人は初対面であった。遊星は元より馴れ合う性質はないのだが、この男は違ったらしくヤケに楽しそうに遊星を見ている。
遊星は呆れながら顔を男へ向け、そしてその姿を見遣って一度息を止めてしまった。

「なあ、俺とチーム組まねぇ?」

サテライトという場所は、一言に汚い場所だった。直接的にゴミが溢れ汚い、人を騙し合うような心持ちの奴らが溢れ生き様が汚い、言葉も汚い、なにもかもが汚い。ついでに言えばジャンク山の中でオイルに塗れた遊星も汚かった。
しかし遊星が見遣った男は何か違った。シャツ一枚にジーパンというラフな格好だと言うのに、何か清潔感を感じさせる。髪や肌の色素が薄いからという事もありそうだが、しかしそう考えるとジャックの孤高さを感じさせる清潔な雰囲気とはまた違った。ではなにがと遊星は顔色変えず考える。

「どうした?」

「あ、いや」

「チームの事は?」

「…い、きなり言われても、困るな」

「…それもそーか」

にっと男は笑い、自己紹介をしてみせた。不思議と遊星はこの時点でこの男、鬼柳への警戒心を薄くしていた。
鬼柳がよろしくなと躊躇いなく差し出した手を、遊星は油に塗れた自分の掌を見てから鬼柳を見る。すると鬼柳は気にするでもなく遊星のその汚れた片手を両手で包み、笑った。

一言に言えば遊星はその瞬間に恋に落ちた。



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