ちくしょう、大好きだ



※性的描写有



その日はニコもウェストも出払っていたので家に珍しく俺しかいない日だった。広い家なので、正直少し寂しい。
ニコは近所の優しい老夫婦の家へ泊まり込みで手伝いに行っている。最近足腰が弱い彼ら夫婦に日頃気を遣っているニコは、そうして様子を見に行く事が多い。
ウェストは近場の町の学校の下見にと町の人と同じく泊まり込みで出掛けている。町にはごろつきも少なくないが、優しい人間も少なくない。子供を安心して育てられる場所である。

そして一人寂しく自室のソファに寝そべりながら本を読んでいたのが夜の事だ。時間も深夜に近く、そろそろ寝ようかなと思考しつつ文字を追っていた時、腹に置いていた携帯電話が鳴った。

「もしもし」

反射的に本を置き、身を起き上がらせて携帯を開く。耳に付けてああ俺だと聞こえてきた声に、つい瞬時に頬が緩んだ。

『すまない、こんな時間にいきなり電話をして。迷惑だったか?』

「なに言ってんだよ。嬉しいっつーの」

誰より愛しい人間の、恋人の遊星の久しぶりに声を聞いた気がする。最近は俺も遊星も忙しくて会えなくて、ああ遠い場所に暮らしちまったんだなぁと痛感はしていたし寂しくも思ったけど、後悔はなかった。この距離は互いに必要な場所に居て生じた距離だし、何より距離があったって絆は変わりはしない。と遊星から強く教えられている。
だがなんにしても、久しぶりに声を聞けたのは素直に嬉しかった。以前遊星とシティで会った際にすすめられ買った薄くメタリックなボディの旧型携帯を耳に付け、少しこしょばゆく感じながら話を進める。
最近のやたら進んだ映像システム付きの物は万が一の事があっても、こちらの地方では素早くメンテナンス出来ないので、通話機能しか搭載していない旧型で十分だ。まあ、シティで普及している新型は相手の姿をモニタービジョンにして見えるらしいので、こういう寂しい時にはそれも好ましく思えるが。

「どうした遊星、なんかあったのか?」

『ああ、いや。特に何かあった訳ではないんだ』

「?」

『…ついさっき帰って来て、風呂に入った。着替えて、今から寝る所だ』

まさかお休みを言うために電話を入れたのだろうか。それくらい遊星ならしかねないが、あんまり普段からそういう事をしないからいきなりしてきたのは少ししっくり来ない。

『…今日は早朝から一日研究室に篭りきりで、帰りもかなり残ったんだ』

「おう」

『食事は置いてある携帯食料を取った。研究室から出てみると誰も残っていなかったから、一人で帰った』

「………ああ、なるほど」

無感動な声だ。だがすぐ遊星が電話してきた理由を理解する。伊達に何年と付き合って来た仲ではないし、何より複雑に見えて案外遊星の言う言葉は実直に単純である場合が多い。

「寂しくなったのか」

『……ああ』

「もしかしなくても、今日初めて対話したの俺か?」

『…ああ』

にやにやと口角が上がり、俺は嬉しくなってソファにきちんと座り直す。携帯片手に照れ臭そうにする遊星を想像すると愛しくて堪らない。
遊星は現在一人で暮らしているから、缶詰な研究が続くと一日が喋る事なく終わったりもしてしまうらしい。それはあんまりにもあんまりだと俺も思う。

「俺もさ、今日家に誰もいないんだ。一人で淋しいなぁって思ってたとこなんだよ」

『…そうなのか』

意味もなくソファから身を乗り出し、俺は笑みを深くした。あからさまに嬉しそうに、しかし遊星らしい静かな声色が聞こえて楽しくなる。

暫く電話をしていなかったから話がつい弾んだ。会うなんて勿論もっとしていないから尚更で、あれやこれやと話題が止まない。普段無口な遊星ですら色々と話をしていた。



「あ。遊星、平気か?なんか超話しちまってるけど…」

長い間話していたように感じる。ふと時計に目を遣ると、あまり覚えてはいないが少なくとも20分以上は経っている気がした。
日常の事や仕事の事、最近はまっている事や思い付いたくだらない事なんかをだらだらと続けている。

『いいや、大丈夫だ。大した額にはならない』

「電話代とかじゃなくて、まあそれもあるけど、眠くないかって。明日も仕事だろ?」

『ああ、明日は休みだ。……もしかすると、鬼柳、眠いのか』

「いや平気だよ。俺も明日は昼からの仕事みたいなもんだし」

最近はとんと会っていない。じっくりと電話を、通話をして声を聞くのも随分と久しぶりな程だ。
まだまだ、なんなら朝まで話していたい。もっと我が儘を言えば会いに行ってしまいたい。だが互いに忙しくてそれは不可能だ。
遊星は様々な開発やモーメントの発展を、俺は町や町の人々との絆を培っている。規模は違えどどちらもどちらにとっても大切なものだ。

「……悪ィ遊星、言いたい」

『?…何をだ?』

「会いたい」

少し困ったような含み笑いが聞こえる。耳を擽る吐息だ。つられてこちらまで微笑むとそれが伝わったのか、遊星は笑ったまま俺もだと囁く。擽ったいそれにきゅうと瞼を閉じて肩を竦めた。

「ばぁか、やめろよ、囁くな」

『悪気はない』

「…遊星に触れたい」

『俺もだ』

ああ俺って変態だろうか。遊星の笑みを含んだ囁きを聞くと妙な気分になる。
そういえばここのところ忙しくって、抜くのすら大分ご無沙汰だった。遊星とは何ヶ月も会っていないのだから、行為自体なんてもっともっとご無沙汰である。
最後に抜いたのは一週間程前だろうか。ああ遊星から電話が来てなければ家に誰もいない今日なんてまさしくちょうど良く、今頃自慰に耽っていたかもしれない。

『鬼柳』

「…ん?」

『テレフォンセックスという言葉を知っているか』

「っ、な」

ぶっと噴き出してしまう。なにを無機質かつ無感動な声で言うんだこいつは。まるで近くの通りにある店の名前を尋ねるが如くしゃあしゃあと問われたそれに、俺は時間差で顔を赤くする。
テレフォンセックス、とは、電話えっちというやつだろう。その、まあ、話には聞くが、あれだ、電話越しに互いに自慰行為をする事で擬似的にセックスを再現する…やつ…だ。

『家に誰もいないんだろ?』

「え、う、まあ」

『寂しいか?』

「寂し、い…遊星に触れたい、し、触れられたい…」

震える唇をしゃんとさせて踏ん張る。ネオ童実野シティで遊星は今、俺と同じように興奮しているんだろうか。
ばくばく煩い心音をよそに呼吸を意識して落ち着こうとする。電話越しに遊星は吐息を含んだ笑いをしてから、俺の名前を呼んだ。

『俺が言うから、鬼柳はその通りにすればいい』

「……ん、」

『大丈夫か?』

「…だ、大丈夫だ」

優しい優しい遊星の声色に瞼を閉じる。遊星が指示するように触れたら、それはもう遊星に触れられてるように錯覚出来そうだ。耳元で遊星の声が電話越しだろうと聞こえる。そんなの嫌でも興奮するだろう。

『カーテンと部屋の鍵は閉めておくといい』

「……遊星は?」

『もう閉めた』

手早いなと苦笑しながらも顔が赤い。そりゃあ自慰は初めてじゃないし、遊星を思ってするのだって初めてじゃない。でも遊星の声を聞きながら、電話越しに互いにするなんて初めだ。
立ち上がり扉の内鍵に触れる手が小さく震える。興奮し過ぎだと眉を寄せ、そのままカーテンを閉めに行った。

『月、見えるか?』

「ん、ちょっと…曇ってるな」

『今日は満月なんだ』

「そりゃ、見えないのは残念だな…」

他愛ない会話で遊星が緊張を和らげているのがよくわかる。本当にいい奴だ、だからこそ愛しくて堪らない。ああ尚さら緊張して来たかもしれない。
ネオ童実野シティでは今満月が見えるんだろうか。月にかかる雲を少し疎ましく思いながら先程居たソファへ目を遣る。そちらに足を向かわせかけて、少し思案してからベッドへ向かった。そういう行為をするなら、まあ、手狭なソファよりベッドがいいだろう。
ベッドに腰掛けて深呼吸する。普段自身が寝ているベッドだ、一度だけ此処で遊星とした事がある。思い出して胸がぎゅうとした。

「…閉めて来た」

『そうか』

「ど、すればいい?」

『そうだな、じゃあ…まずは上を脱いで、下は自分でする時みたいに前を寛げてくれ』

自分でする時みたいにって、そりぁ今から自分でするからな。とは思いつつもやはり耳元に遊星の声を聞きながらだと、上手い事錯覚が出来そうだ。
言われたように上着を脱ぐ。足元へ放り投げて、下も言われたように前を寛げた。自分でする時みたいに寛げるという事は、性器も出してしまうのかと考えつつ電話を耳に付け直す。

「…遊星、脱いだ」

『そうか。じゃあまずは乳首だな』

「ちょ、直球だな…」

『妙に包み隠しても仕方ないだろう。電話越しじゃ伝わり難い』

「ま、まあ…」

言われたように自身の乳首を見下ろす。脱ぐ度に遊星に絶賛されるそれは我ながら綺麗な桃色をしているのだが、正直な話だからなんだという気分だ。
しかもそうして絶賛する遊星がしつこく触ってくるせいで妙に敏感になってしまっていて、服で擦れる程度なら問題はないのだが何秒間か触られると……感じてしまう。

以前酒場でぐでんぐでんに酔った奴に「町長にセクハラぁ!」と絡まれ胸を揉まれた時は…大変だった、気を悪くして帰るフリをしながらその実は体をびくんびくんだから笑えない。
まあ、酒場に来る奴にはがたいの良い奴が多く、貧弱な俺は女扱いの虐めを受ける事が多いので、気を悪くしたというのはあながち間違いでもないが。しかし喧嘩はその辺の奴よりは強いのだから、あまり舐められたくはない。

「さ、触ればいいのか?」

『俺はいつもどうしてる?』

「え、ええと……執拗に舐めるとか?」

『他には?』

「…摘んだり、指の腹で押したり…とか」

『じゃあ思い出しながら、やってみるといい』

遊星を思い出しながら。考えて瞼を閉じる。電話を左手に持ち替えて右手を我ながら薄い胸板に下ろし、息をゆっくり吐いた。
そうして左手の乳首に触れて止まる。き、気恥ずかしい。触れているだけでは勿論なんら感じないので、ついそのまま硬直した。どうしよう。

『鬼柳?』

「え、あ?」

『俺が触れてると思え』

携帯電話じゃ拾えきれないような、がさがさした低い声で囁かれてついびくっとしてしまう。勿論良い意味でだ。
言われたように遊星が触れてると思って指を動かす。先端を摘むとやはり少し恥ずかしいがあっと言う間に乳首が立った。そうしてそれを指の腹で弄ると、淡く甘い快感が腰に走ってくる。ふ、と息が抜けた。

『鬼柳』

「ん、ぁ…遊星」

『…気持ちいいか?』

「…ぅ、やっぱ、遊星が触った方が、気持ちいいな…」

『…そうか』

小さく笑い声が聞こえ、腰が痺れる。ああすっかり俺は遊星に染められているなと痛感した。触って欲しくて仕方ない。切ないくらいだ。
最後に触った時はどうされたかを思い出しながら、まだ触っていない右側に手を伸ばす。肩と顳で電話を挟み、空いた左手を前を寛げた下肢へ伸ばした。

「遊星、俺、もう…」

『勃ったのか?』

「多分…」

瞼を閉じたまま応える。ベッドに寝そべり電話をシーツの上に置き、体を寄せた。耳を擦り付けて遊星の名前を呼ぶと下も触っていいと返事が返る。
ばくばく煩い心音が瞼を閉じるとやけに頭中に響いて来てしまって、心底顔が熱い。
横向きで寝たまま、合わせた脚を少しずらして下着を下ろす。出した性器はやはり半勃ちで、触れると情けない事に先走りがもう垂れていた。

「遊、星っ…どうすりゃいい?」

『俺はいつもどうしてる?』

いつもいつも。考えつ瞼をぎゅうと閉じる。
以前会った時はしつこく乳首を弄られてようやっと下に触れてくれた。俺が献身的にリードする時と遊星がリードする時とは大体半々だが、どうにも遊星がリードする時は長ったらしい前戯が目立つ。俺が立ち上がれなくなるまで射精させてくるのだから怖い。
思い出しながら、横向きに寝る体の下に来ている左手で乳首を弄る。抑えても漏れる声をそのままに、右手で性器の先端に人差し指を添えた。残りの指で根本をきつく握り、抜くというよりは擦り付けるように刺激する。
遊星のよくやる焦らしているようなもどかし刺激が怖いくらい再現されて、反射的にぞくぞくっと背筋が甘く痺れた。

「っぅ、ぁあぁッ…んっん…」

『鬼柳、気持ち良いか?』

「ゆ、っせぇ…ゆうせっ…」

早く、と口癖のように譫言みたいに漏れる。焦らしているのは他でもない自分自身の指先なのに、余裕な遊星の声を聞くとどうにも頭の中で遊星に犯されている気分になった。
時折中指で裏筋を擦ったり、遊星がするみたいに乳首を指で弾いたりする。そうすると馬鹿みたいに興奮して、開いたままの唇につうっと涎が垂れた。携帯に落ちずシーツに垂れたのを呆けて来た頭で見送り、また強く瞼を閉じる。

『鬼柳、ストップだ』

「ふ、ぇ、…あ、遊星?」

ぞくぞくとした背筋に反し、遊星の言葉に忠実に俺の手は止まった。掌やシーツに大量に溢れている先走りを指先で弄びながら遊星の言葉を待つと、遊星は再び名前を呼ぶ。優しい声だ。

『一人で、後ろでイッた事あるか?』

「え、な、な、何聞いて…ッ」

『あるのか?』

「……そんな、の、言えねぇ、だろ…普通」

『という事はあるんだな』

すっかり呆けていた状態から戻って来てしまっていた頭を、がつんと殴られた気分である。既に赤くなっていた顔が、かあああと更に赤くなったのがわかる。唇を引き結んで黙ってしまうと遊星は平謝りしてきた。
確かにある。だって散々日頃遊星に後ろをがつがつと攻められておいて、自慰は前だけで満足!だなんてそんな簡単な話はないだろう。前立腺を刺激しながらする自慰での吐精はそりゃあ普通のそれよりずっと気持ちが良い。

『そういう時は何を使ってるんだ?』

「……ハンドクリーム」

『ああ、鬼柳は肌が弱いからな。今も部屋にあるのか?』

「……普段寝る前に付ける、から……今は目の前にある」

『それは好都合だな。じゃあ、鬼柳』

じゃあってなんだじゃあって!複雑なまま見遣るハンドクリームはベッド横の棚に置かれ、まさしく目の前にある。手を伸ばせば届いてしまうのだ。
開き直ってあっさり認めてしまったのを後悔しつつ体を起こしてそれを手に取る。先走りでべたべたな手でシーツに手を着きながら、ああシーツ変えなきゃなぁだなんて漠然と考えた。

再び横向きに寝そべり、右手にハンドクリームを適量伸ばす。それを左手で下着を更にずらしてそのまま性器に触れた。
そうして右手を後孔に添えて息を吸う。数回中指を擦り付けた後に押し込むとハンドクリームの滑りもあり、呆気なくぬるっと中に入った。異物感に眉が寄る。

「ん、遊星…っ」

『あんまり可愛い声を出さないでくれ、興奮する』

「俺ばっかこんなじゃ、不公平だ…から、興奮してろよぉ…」

少しうずくまるように身を丸めて、指を押し込む。爪が前立腺をすると走った快感からがくっと首が上がり、次いでひっと声が小さく小さく漏れた。

「っ、ぅぁあ…っ、ふ、ぁぁっ…」

『可愛いな鬼柳、……気持ち良いのか?』

「んっ、ぁあっ……ん、きもち、いっ…」

耳元で聞こえる遊星の声に頭が白くなる。興奮している様子の声色が鮮明に聞こえてきてどうしようもなく愛しいのだ。
無我夢中で増やした指はもう三本で、中を目茶苦茶にしてしまっている。涙が止まらない顔を振って、掻きむしりたくなるくらい甘く痺れる胸元をごまかす。
遊星、遊星、と頭で回る言葉は口に出すと酷く興奮してしまって堪らない。遊星の巧まし背中に腕を回したい、綺麗な目を覗き込みたい、腰を抱き寄せられたい、習慣になった首の後ろに跡を付けるのをされたい、見つめられたい、キスされたい。考えれば考える程快楽が募って、息が荒くなった。
鼻水やら涙やら汗やらわからない液体が、口の中で涎と混ざってまた唇から垂れる。いつも遊星はこういうのを気にせず舐めとって飲み込んでいた。ああ遊星遊星遊星、止まらない。

『…鬼柳、好きだ、愛してる』

ぞくぞくっと背筋が痺れる。びくっと揺れる性器から馬鹿みたいに先走りが溢れ、肩を引き攣らせて息を浅くしてしまった。卑怯過ぎる甘い囁きに言葉を返せないくらい興奮してしまう。達してしまわなかったのが不思議なくらい性器は張り詰めていて、触ってあっという間に射精してしまうのが勿体ないくらい気持ちが良い。
はあはあと荒く浅く息をしていると、遊星が察したのか小さく笑っているのがわかる。怒る余裕もなくそれをこそばゆく感じながら下唇を噛むと、遊星が甘く名前を呼んだ。

『鬼柳、大丈夫か?』

「っ、ぁ……ん、遊星、ゆうせ…」

『ん?』

「、ふ、くっ…お、れもっ…好き…ぁいして、るっ………」

なんとか一矢報いたくてそう囁く。というか遊星は何故自慰しないのか。まあ普段のセックスでも俺がイくまで前戯をしつこくして、それでやって挿れてそれからまた何回もイかす流れだからこのテレフォンセックスでもそうなんだろう。
やや間が空いてから、遊星は鬼柳と小さく小さく名前を呼んだ。よっしゃあ喘ぎながらの好き発言はなかなかダメージが通ったようだ、俺ばかり感じてたら悔しいので大変嬉しい。

『……鬼柳、そろそろイきそうか?』

「あん、っぁ…そ、かも…ぁ…イッちゃいそ…っ」

ああ虚勢を張ってはみたが言ったようにイってしまいそうだ。遊星に返しながら意味もなくがくがくと何回も頷く。
きゅうと締まる中で指を引っ掻くように目茶苦茶に動かして、性器の先端に爪を立てると頭の中が白くなってきた。堪らない。

『鬼柳がイく時の声、よく聞かせてくれ』

「ッイ…く、…ぁぁ…―――――…っぁあ…!!!」

そんな変態地味た事を優しい声で言うなと吠える暇なく、俺は呆気なく達してしまった。変態はどちらだと言う話だが、遊星に腰を強く掴まれ耳元で囁かれているような想像をついしてしまう。正直な話しそれでかなり興奮した。眉を寄せ目を強く閉じて掌で精液を受け止める。
電話越しという妙なシチュエーションにも興奮したのか、びくっとオーバーに体が震えて仕方がない。

「っ、ゆ、うせぇ…」

中から指を引き抜き、余韻に浸って息を吐く。どうせ洗濯行きのシーツで手と下肢をぐいぐい拭い、携帯電話を持ち上げて耳に当てた。散々自慰をして仰向けで寝る姿は大層間抜けだろうが、どうせこの部屋に来る人間は誰もいないのだからいいだろう。
快感の余韻はとても良いものだが、同時に遊星がいないのだとまざまざ突き付けられるようで、酷く寂しくなる。

『良かったか?』

「ん、…良かった…けど」

『けど?』

「……寂しいな、やっぱり」

やはり遊星に触って欲しくて堪らない。そりゃあ恥ずかしい興奮した、何を言うのかと笑われたら反論できないくらい気持ちが良かった。だが終わればベッドの上にいるのは俺一人だし、通話を終わらせて眠る時も一人だ。
くだらないピロートークして眠れなければ体温は分け合えない。あんまりにも寂しい。

「…明日以降の仕事サボって、会いに行ったら……迷惑か?」

『サボりは良くないな』

「ちょっとくらいなら俺、いなくたって」

『鬼柳』

遮るように名前を呼ばれて、黙る。そして自慰中に散々泣いたくせにまた目頭が熱くなった。なんだよ遊星はそう思ってくれないのかよ、なんて子供みたいに浮かぶ。俺は遊星に会いたい、触って欲しい、触りたい、声をこんな電子機器越しでなく聞きたいし聞かせたい、キスがしたい。
いよいよ涙が溢れそうになって、遊星が短い短い互いの沈黙をぶった切った。

『月、そっちから見えるか?』

「……は、あ?」

何を。
ぽかんと口が空いてしまう。何を言うんだこいつは。少し黙ると『さっき曇って見えなかった月だ』と丁寧に教えられる。わかってるよ、わかってるから戸惑ってんだ。
せめて前後ある会話をさせてくれ。
呆気に取られ過ぎて引いた涙に苦笑しながら、ぐしゃぐしゃなシーツで下肢を先程より丁寧に拭って、無様に寛げたままの前を整えた。
そうしてベッドから立ち上がり、閉めたカーテンを開いて窓ガラスに手を着く。

見上げた夜空は雲が減り、星がちらほらと伺えた。月のある左の方を見上げると、爛々と綺麗なオレンジ色くらいに濃いそれが見える。立派な満月だ。

「……見えた」

『綺麗だな』

「………そうだな、綺麗だ」

遊星も見ているんだろうか、ネオ童実野シティの自室から。暫く互いに黙って月を見ていたと思う。遊星は眺め続けていたかわからないが俺はずうっと見ていた。
頭の中は遊星も見上げているか、ばかりだったが。

『何処にいても、同じ空が続いていると言うな』

「よく聞く。恋愛の歌とかで」

『ああ』

遊星の言いたい事は大体わかった。本当にこいつはチープな言葉を素面で吐く名人だ、そういう選手権があったらば必ず優勝総なめだろう。

遊星はジャックやクロウ、十六夜やあの双子達と離れた。絆はどこへでも続くと宣ったのだ。そういうところが遊星にはある。互いに進むべき道を選ぶのなら、離れるのは仕方なく、また離れようと絆は変わらないと素面で言う。
そういう所が好きで好きで仕方ない。だから、これも仕方ない。いつかまた互いの休みが合う日に会えばいい。

何も永遠に会えない訳ではないんだから。

『それはそうと、鬼柳』

「ん?」

『そのまま下を見てくれないか』

下を。何を言っているんだ。遊星ごめんなわがまま言って、そう謝ろうとして開いた唇をとりあえず閉じて首を傾げる。下とは何処を指すのか。
少し思案して足元を見た。自身の足と床しかないので、そりゃあまあ違うよなと眉を寄せて顔を上げる。

「あ」

上げた視線の先、月の下、我が家の家先真ん前の路地に見慣れた奇抜な髪型を見付けた。呑気に悠長に手を振るそいつは携帯電話を片手にこちらを見ている。

訳がわからず、俺は開いたままの唇をそのままに困惑して考えた。
あれはどう見ても不動遊星その人である。あんな奇抜な頭そうあって堪るかという話だし第一髪だけでなく姿形がまず遊星だ。それにこんな夜中にあそこにただ立っている奴は不審者だし、窓際に立つ俺をただ見詰めてたって不審者だ。逆に遊星でなければ困る。

「仕事…仕事はどうしたんだよ」

『放り出してきた』

「…月の話は」

『月が綺麗だったから言っただけだ』

「…………どうやって」

『何時間か前にD・ホイールを走らせて、電話をする前には着いていた』

ああつまらない事ばっかり口から漏れた。10mもない距離にいるのに、玄関へ駆け出すのもせず窓すらも開けず会話を続けてしまう。

『驚かせたかったんだ、お前を』

「驚くわ、つか、ああもう…こんな近くにいんのに、一人でさせんなよぉ……」

『すまない、泣かないでくれ…鬼柳にさせてみたくて…』

「ふざけんな…俺が、どんだけ寂しかったか……」

『…可愛いかったぞ』

「くそっ…知らねぇ、お前少し頭冷やしてろ」

しゃっとカーテンを引いて携帯電話の電源ボタンを押して会話を終了させた。ずるずると窓枠下側の壁に寄り掛かり座り込む。
子供みたいに落ちる涙がやけに清々しくって、俺は自分で言い付けて置きながら結局遊星に頭を冷やさせる間を作らせないくらいに早く玄関に向かってしまうんだ。

馬鹿野郎ちくしょう大好きだ。

そう言ってあの奇抜な頭ぶん殴ってやる。


*



遊星さんは一応町外れで乳首やらなんやら言ってました。鬼柳さんがイきそうになった辺りで家の前に来たのよ、という蛇足。

つうか長いな!ごめんなさい!

この後も書いてたら超長くなってましたね。脳内補完でお願いします。
家に二人っきりだし焦らしだし久しぶりだしで大変な事になりますねふひひ(^ω^(←








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