幻聴レクイエム





被験体同士のコミュニケーションを所長である阿久津は重んじている節がある。というのも、度々そういった時間を設けられているのだ。
今日もまた昼食の後にその時間が割り振られている。今回は簡単なもので、トランプを互いにしろと言った。
多分、阿久津所長の考えはこうである。ぴりぴりとした、互いに敵対した意識下のみで発生するフィールだけでなく、また別な感情でも発生するフィールがあるのではないかと。
だが今の段階で、コミュニケーションが皆無と言い切れるだろうジャックのフィールが並外れているのは誰の目にも明らかである。
するとこの協調性及びコミュニケーション能力の向上を目指すべくセッティングされたトランプに、なんの意味があるのだろうか。とは思いたくなくとも思ってしまうだろう。


「ジャック、早く引けよ」

「………」

椅子に浅く腰を掛けたジャックは、気難しいいつもの顔で隣の鬼柳の手札を眺めている。始めた最初こそ渋々であった彼も、今ではババ抜きに必死になっていた。
5人でやっていたゲームが、今では鬼柳とジャックのみが残っている。鬼柳の手札はジョーカーとハートの2だ。ジャックの手札は恐らくスペードの2だけだろう。気難しそうに鬼柳の二枚の手札を睨む彼は、真剣そのもので、プライドの高さから負けたくないのだろう、それが嫌でも周りの子供達に伝わっている。
肘をテーブルに着き、手札を団扇のようにはためかせる鬼柳はあんまりにも暇そうだ。対してカードを引かんとするジャックの、むむと唸る姿は年相応である。

「ジャック、はやく終わらせないと今日のぶんが終わらないぞ」

「うるさい」

「あと7ならべもやらないと。カメラで見られてるからごまかし聞かないし」

「だまれ」

「皆待ってるんだって。他の班は7ならべがそろそろ終わりそうだぞ」

「わかった引く、少しまて!」

ずっと待っている、と突いて出そうになった言葉を飲み込み、鬼柳はジャックの望み通り黙る。
まるで決闘の最中のように真剣なジャックの顔を見て、鬼柳は苦笑した。たかがトランプなのに、負けたくないといらついている。それがあんまりにも彼らしくって、楽しくなった。
一番乗り出来なくて不機嫌になり、更にまた一人上がって不機嫌になり。そんな様をずっと見ていて、見るからにむくれるジャックはとても子供らしくて鬼柳は安心もした。
意地を張り見栄を張り背伸びをするジャックが、こうした遊戯の時間で子供らしくなるの鬼柳は知っているし、好きだ。そうした事から数え切れないくらいに阿久津所長に感謝している。

「引くぞ」

「うん」

「…………」

「…………」

「……引くぞ」

「うん」

ビリは許されないと平静を装いたいらしい不機嫌な顔が訴えている。鬼柳は、手札をちらと見た。
人間はあまりに悩んだ際、右と左とで二択を迫られると利き手の方を無意識に選ぶ…らしい。ジャックは右利きだ。なのでジャックから見て右側に引かせたいカードを持っておくのが、ジャックの為になる。

鬼柳は、本来ならもっと早くに抜ける事が出来た。左隣の少女がペアだと間違えて出してしまったクローバーのKのカードを見てから、なんとなくだが全体を把握している。次にクローバーのKを引いた奴の挙動やらを全部見たり、鬼柳の手札のカードだったものも含めて把握していた。

その上でビリ争いをしているのは、偏にジャックの為である。ジャックがビリになりかけていたからだ。彼は負けると拗ねる。しかし何より、ジャックにトランプ勝負だろうと負けは似合わなかった。
トランプでババ抜きをするのが初めてだと零されてから、鬼柳はジャックが負けないようにと働く気でいた。

ぴ、と、白い指先が鬼柳から見て右側、ジャックから見て左側のカードを引く。人は困った時に利き手の方を選ぶと言うが、流石のジャックはどうにもそれにすら反発したようだ。当たり前な顔で決意したそれを手札に加え、ジャックは勝ち気に笑む。

「上がりだ」

「ちくしょう、まけた」

鬼柳も同じように、しかし清々しく笑った。手札に残ったジョーカーを放り、大層嬉しそうなジャックを盗み見て胸が暖かくなる。
ジャックのひねくれた性格を完璧に理解しているくらいに、鬼柳は彼が好きだった。



*



鬼柳さんてカードゲームなんでも上手いし頭回りそうだけど、その他はまるきりダメそうですよね。
それはそうとババ抜きの適性人数って何人ですかね?昔8人でやったら驚異的圧倒的スピードで終わって、もう一度やったら引いて引いて引いて引いてのクソ長いバトルになりました。5人はまだ多い?4人じゃ少ない?あばばば

そしてタイトル詐欺です


レクイエム:鎮魂曲





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