哀切コンチェルト




隣のベットで眠る友人は、最近とんと元気がなかった。最初はたまにテストを休んだりする程度だったけど、最近では食事の時間にも見掛けない。
部屋に帰るとベッドで難しそうな本を読んでいる。テストができない分、勉強をしているのだと言った。偉い奴だなぁと俺は思う。だからそれを寝る直前まで手伝って遣った。

朝目が覚めると、そいつは隣で寝ていなかった。俺は意味がわからずに暫くそこを眺め、そしてすぐさま起き上がる。
ベッドの下に入れて置く規則のある靴を取り出し、急いで履いて部屋を出た。起床時間の厳しく決まった施設だが、用を足す時になら廊下に出ていい決まりになっている。
しかし廊下を曲がった先にあるトイレに行き、誰もいない中を覗いただけで俺はひたすら廊下を真っ直ぐ走った。IDカードが無ければ行ける先は限られてはいるが、ある程度の場所は行けるのを知っている。廊下を真っ直ぐ行った先にある、被験体用の区分施設ロビーに入り、走って切らした息を整えた。

「鬼柳くんじゃないか。どうしたんだい?こんな朝早くに」

たった今、近場の寮から出社して来たらしい阿久津所長を見上げ、言葉を考える。起床時間は守らないとダメじゃないか、と後から付け足す姿はまるで小学校か何かの先生のようだ。少し安心して、疑問と不安とを投げかける。

「友人の、いや…ええと、番号、1番の奴が居ないんだ」

「……1番の」

「どこ行ったんだろう。あいつ気弱いし、トイレ以外じゃ絶対起床時間より早く外になんて行かないんだ、なのに…」

泣きそうだ。なんで泣きそうなんだ、あいつに限って何かある訳ない。でもどんどん元気のなくなる姿を思い出せば出す程不安になる。そうだ昨夜は特にぐったりしていた。なのになんで俺は勉強を付き合ってそのまま寝てしまったんだ。

「ああ、彼か」

「え?」

にっこりと笑い、頭を撫でてくれる阿久津所長の姿を見て、固くなっていた筋肉が無意識に緩んだ。
人の良い彼のするそれに酷く安心して、何も言われていないのに少しほっとしてしまう。

「彼なら今朝方不調を訴えたから、病院に運ばれたんだよ。そろそろ検査結果が出る頃かな?」

「……病院?」

「そう。彼、最近体調が良くなかったろう?だから、病院で治さないと」

「…………あ、俺、はやとちり、して」

「いいんだ。さ、部屋に帰りなさい。何も見ていないから」

「……ありがとうございます」

ぺこりと頭を大きく下げて、俺はそそくさと来た道を帰った。優しい所長、楽しい施設、大切な仲間。唯一不安事も、もう解決した。病院で治るんだ、治る!
喜々として部屋に戻る途中、扉の前に誰か立っていた。殺風景で照明ばかりが目立つ長い廊下を歩き、部屋の前に着く。そこに居たのはジャックだ。
腕を組んだまま俺を見ると、ちらとロビーの方を見遣る。そうしてから「どうだった」と聞くので、俺はうれしくなってしまった。
あのジャックが仲間の心配をしている。これはとても珍しい事だ。ジャックも目が覚めて、体調の良くなかったあいつが居なくなった事に気付いたんだろう。それから俺の事も。

「病院に送られたって!」

「………」

「ジャック?」

嬉しくないのか?怪訝そうに眉根をひそめるジャックを見て、つい首を傾げてしまう。しかしジャックはすぐさま口元だけ笑みにして「そうか」と言った。



*



はたしてこれはジャ京なのだろうか。
だが私は言おうジャ京だと…ドヤ顔で。

ジャックは気付いてますが、勿論1番の子は死んでます。というか、殺処分…というか…。本誌読んだ時は、酷いなぁと思っただけでしたが…書いていて…レクスさんマジ腐れ外道と思いました。あと阿久津さん良い人に書きたくなります。でもこの文の場合の阿久津さんは、はたして良い人なんだろうか…笑顔で子供に嘘を吐くっていう…。


コンチェルト:協奏曲





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