然りとて!



 



さんさんと早い時間からやけに強い朝日が差し込む。鳥の声もきゃんきゃんと煩くて堪らない。さて、サティスファクションタウンの実にいつも通りの朝である。

ネオ童実野シティの空に妙な物体が現れたあの日から今日でちょうど半年が経った。あの一件を境に、遊星達は一層に絆を深めたようである。世間ではおおっぴらに公開はしていないが、俺にはすぐにわかった。遊星達がネオ童実野シティを、世界を救ったという事が。
ジャック、クロウ、それに十六夜にあの可愛いらしい双子達それぞれが海外へそれぞれの道を伸ばした。寄り添う絆もあれば、離れる絆もあるのだと遊星は言っていた。
ジャックとクロウとは最近もよく連絡を取っている。遊星もそれは同様で、時折俺耳にも入っていた。皆が皆、思い思いに自身の道に走り、そして互いに絆を尊重しあっている。
美しい仲間達だ。勿論、おこがましくもそこに俺も含ませていただいているが。

「鬼柳さん、お客様ですよ」

「ん?こんな朝早くからか?」

「ええ、急ぎで来たみたいです」

まだ着替え途中だってのに。半覚醒の頭でシャツを着ながら階下に下りてすぐに、ニコに引き止められてしまった。ニコもニコで、朝食の支度をしている最中だからとぱたぱた台所へ向かって行く。
さてこんな朝早くから一体誰だろうか。客間に通しましたとニコが思い出したように振り返って言う。
客間に。つまり安心出来る人物だろう。一体誰だろうか。先日マブダチになった酒場のおっさんだろうか。いやあのおっさん、こんな早起きしないよな。

「あれ」

「おはよう」

シャツをきちんと着てから客間を覗き込み、素っ頓狂な声が出た。意外だからではなくあまりに日常がそこにあったからである。

「遊星、どーした?」

「ああいや、寝てると聞いて。待っていたんだ」

「部屋に来いよ、いつもそーだろ?なんだって今更…」

客間に急ぎの客と通されていたのは、親友であり恋人(あまり周知な仲ではない)同士である遊星だった。ニコに信頼されウエストに尊敬される遊星は、勝手知ったる我が物顔で家に入ったって構わない男である。
実際、ネオ童実野シティからこの町まで距離はあったが合い鍵を渡してあり、月に一度は必ず訪れていた。
本当に、なんだって今更、という話である。

「鬼柳、その、」

「?」

はた、ぱた。と、落ち着かない挙動で遊星は身振り手振りをしてみせる。あの遊星がこんな挙動不審な行動をするのは、かなり珍しい。どうしたのだろうか。
素直に傾げてしまう小首を、わたわたする遊星は冷静に察したらしい。こちらの様子に気付くと落ち着かんとばかりに息を吸った。

「これを、受け取ってくれないか」

「ん?」

決心したように、遊星は四角く白い紙質の箱を手渡し、そのまま俺の手を取る。
そしてじいとお得意の恥ずかしいくらいに俺の顔を覗き込む技を披露して、勿体ないくらいに間を開けてから唇を開いた。

「その、鬼柳は覚えてないかもしれないが…」

「うん?」

「今日は……」

「うん」

頑張れ、と咥内で呟いて照れ臭そうに俯く遊星のつむじを見下ろす。いや彼が何を言わんとしてるかは知らないし、皆目検討も着かない。が、遊星がする行動に悪い事は絶対無い。だがこの待ち時間は必ず良い出来事に繋がるのだから余裕は自然と湧くのだ。
しかしこの箱はなんだろうか。お菓子とは違うが、お世辞にも指輪ではないだろう。少しばかり長細いし。

「今日は、チームが…チームサティスファクションが出来た日なんだ」

「え?」

「だから、何か…したいと考えたんだ。去年は会えなかっただろう?だから……」

言われ、考える。チームサティスファクションが結成した日。すっかり忘れてしまっていた。そう言えば、確かに初夏であった気がする。暖かい陽気の中、地図を掲げていたような、気が。
語尾の掠れるそれを言い終わり、遊星は握っていた俺の掌にぐいと箱を押し付けて手を離した。開けろと言わんばかりの、子犬を彷彿とさせる遊星の瞳が覗き込んできて、つい笑みが漏れる。

「なんだって、俺にプレゼントなんだ?」

「リーダーだろう」

「そういうもんかね」

「ああ」

律儀な男だ。チーム結成日を覚えて、俺への感謝なんていう感情も覚えている。そしてそれを形にして返したいと考えて、行動をした。本当に律儀で愛おしい。馬鹿な奴だ。
掌に乗った、開けた反応を期待されている箱を開く。スライド式の灰色の蓋を外すと、クッション質の素材の上に質の良い型紙で固定されたネックレスが入っていた。錠型になったチェーンの先には、素材と耐久性の高そうな小さな宝石が付いている。
この手にはとんと疎い為、幾らだとか入手手段だとかは予想も付かない。だが一目で感慨深くなり、俺は勝手に緩んだ頬をそのままに遊星を見遣る。

「すげぇ嬉しい…選んでくれたのか?」

「ああ、まあ…男女どちらにも合うと聞いて、見ていたら…鬼柳に似合うと…そう考えたら、他のプレゼントが思い付かなくて……その」

「いや嬉しいって!」

まるでなんていうかまあその男女カップル間のプレゼントのようだが、遊星はそんな意識は微塵も無かったのだろう。きっと真剣に心から俺に似合うと思って選んでくれたんだ。そう思うと嬉しくなって、にやにやと口角が上がって止まらない。

「な、な。遊星、なんでわざわざ部屋に来ないで客間で待ったんだ?」

「………意地が悪いな」

「すまね。でも聞きてぇなぁ」

居心地が悪そうに俯く遊星の頭を撫でてやる。きっと、恐らく、いや絶対に遊星の事だから改まった態度できちんとこのプレゼントを渡したかったから、客間で俺を待ったんだろう。よくよく見れば、普段の格好と比べると遊星の服装はかなりきちんとしていた。
生娘にプロポーズしに来たわけでもあるまいし。いやでも本当に、遊星のこういうところが可愛くて仕方がない。

「それより、鬼柳」

「うん?」

「付けてくれないのか?」

それよりと来たか。と考えつつも、のっしりと俺の片手を見遣る遊星にたじろぐ。
付けて、とはネックレスの事だろう。言われそれを見遣り、自身の服を見る。朝からかなりつまらないYシャツを上からボタン3つかけずに着ていた。ネックレスを付けるにはちょうどいいかもしれない。話を反らされたのは、まあともかくとして。

「いや付ける。遊星、付けてくれよ」

「ああ」

手に取ると、程よく重く触り心地も良い。こういうのは普段使いにするものなのだろうか。恋人からもらったアクセサリーってのは頻繁な付けるべきなのか、恋人と会う時にばかりするべきなのか。
しかし遊星と会う時は大体作業中だったりといきなりだから、頻繁に付けなければタイミングが合わないようにも思える。デザインはシンプルで好みなので、出来れば頻繁に付けたいが大事にもしたい。
少しネックレスを撫でてから、遊星に手渡して背を向ける。伸びに伸びた髪を纏め上げて、片手で持ち上げて首をさらけ出した。

「無粋かもしんないんだけどさぁ」

「なんだ?」

「幾らくらいすんの?それ」

「無粋だな」

すっとネックレスが首の前を通される。鎖骨辺りでぷらぷらと揺れるそれは、正直アクセサリーに疎い俺でも安物には見えない。ちょっと今度目利きの出来る奴に見てもらおうかな。とは、やはり無粋だろうか。知りたいような、知りたくないような気持ちがぐちゃぐちゃである。

首の後ろでぷちんと金具を付ける音がした。通ったネックレスを遊星の冷たい掌が撫でて、びくっと肩が跳ねる。首筋を少しだが触れた為だ。冷たかった。

「似合うな」

「そんな後ろからでわかんのか?」

「ああ、わかる。似合うぞ」

なんつー幸せそうな声で言いやがるんだ。プレゼントする時はあんなにも照れ臭そうするくせして、こういうに歯の浮くこちらが照れ臭くなる台詞はしゃあしゃあと言うのだから恐ろしい奴である。

「愛してる」

ちゅと首筋にキスされ、言われた台詞にきゅーっと目を閉じて奥歯を噛み締めてしまう。だからなんつー恥ずかしい台詞をこいつは朝から素面で言いやがるんだ!
つつ、とそのまま首筋に触れた唇が顎に上がるのを悶えながら俺は受け流す。こいつは本当に朝も昼も夜も素面も泥酔もなく俺は真っ直ぐ愛しやがる、そういう人間でぶれてくれないから怖くて恥ずかしくて嬉しくて愛おしい。

「俺もだよ」

朝のけだるい眠気を引きずりながらでも、こんな少女漫画かドラマか何かみたいにラブラブしちまうんだから本当に怖くて恥ずかしい。
チームを作って、遊星と出会って5年。最近は怖いくらいに幸せな日々ばかりである。



*


ひゃぁぁあ甘いぃぃい!!
という訳で、「最終回後、ひたすらイチャつく遊京」でした!甘いぃぃ!(^q^)

なんというか、かなりお待たせして申し訳ありませんでした…!ご期待に添えた内容に…なったかどうか…愛と感謝は気持ち悪いくらい込めましたよ!グハッ(^^(←

ではでは、リクエストとメッセージを本当にありがとうございました!!


 



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