言い条


 



「迷ったな」

「ああ」

鬱蒼とした森の中は虫やら動物やら魔物やらの声がすごく煩い。見上げた空は木々の枝や葉でまともに拝めず、今が何時なのかの推測すら難しかった。
首領、副首領が揃いも揃って迷子である。一寸も笑えない話である。
というよりも頭に血が上り易いティソンはともかく、普段馬鹿みたいに冷静であるクリントまでも迷子になるのはあまりにもふざけた話だ。とティソンは考える。考えながらふてぶてしい顔でクリントを見たが、クリントはと言えば同じくふてぶてしい顔でティソンを見ていた。なんだというのか、文句があるのか。睨むように見るがクリントは動じない。

「まあ俺と首領とじゃ魔物に襲われておっちにましたなぁんて事ないでしょうがね」

「そうだな」

そもそも事の発端は巨大な魔物を仕留める為にクリントとティソンが魔物を追い続け、森の奥へ来てしまったのだ。ティソンはよくこれをする所謂常習犯だったが、再三言うにクリントがこれをするのは酷く珍しかった。というよりクリントが深追いしているところを見たのは初めてかもしれない、と、ティソンは思う。

「んで、どうします?」

こういう時、魔狩りの剣ではきちんとマニュアルがある。はぐれた者は方角さえも検討が付かないのであればその時点でその場を動かずに待機、夜は各自携帯している簡易式の結界魔導器を使用し、仲間と合流出来るまでなるべく動かない事。だ。つまりクリントとティソンは現時点で一歩も動いてはならない訳である。

「目当ての魔物は仕留めたし…そうでかい森でもない、となれば…」

「待機だ」

「あ?」

「動くと捜索をしているだろう一員に迷惑がかかる」

「あ、はあ」

予想外だ。ティソンは目を丸くしながらクリントが大きな木の寄り掛かる姿を見遣る。これが先程まで元気に魔物を深追いしていた男だろうか。途端に冷静である。
確かに魔狩りの剣内で決まっているルールだが、首領副首領がいて怖い物なんてないだろうに。何故待機なのか。首領様の考えがわからずに、ティソンは首を傾げながらその場に腰を下ろした。

ぷちぷちと足元に生えた草を抜き、いじくり回す。先程近場で巨大な魔物と戦闘していたせいか、近場には魔物はいないらしい。退屈でならないとティソンは欠伸をかく。丸めた草をぽいと地面に投げて、それから爪を見遣った。少し欠けてしまっているなぁと考えて再び草を抜き始める。何かをしていないと落ち着かないようだ。

「ティソン」

「ん?」

唐突に押し黙っていた首領に名を呼ばれ、ティソンはぱっと顔を上げた。弾みで後ろへ外れたフードを直そうと手を遣りながらクリントを見上げる。

「?どーした?」

「……いや」

訳がわからない。首を傾げてフードを直してから、再び地面に目を遣った。周りを見渡すがやはり魔物の気配は皆無である。鳥が二三羽ひいこらと巣を見に来ているくらいだ。
退屈そうに溜息を吐いて、ティソンは立ち上がる。意味もなく伸びをして体を捻り、あーと声を上げてクリントを見遣った。

「その辺ぶらついていいか?」

「………」

「はいはいしませんよ」

じっと見てくるだけの、しかし威圧感ある目にティソンは肩を竦めた。落ち着きがない自覚はあったが、だがどうにも退屈でならないのだから仕方ない。座り込むのも性格に合わないと思い、クリントと同様に木に寄り掛かる。先程より少しクリントと距離が出来たがまあいいだろう。



結局捜索隊に見付かる事なく夜になってしまった。近場にあった低い樹木の木陰に結界魔導器を設置し、悲しくも大の大人が身を寄せ合って座り込んでいる。ティソンはまだしもクリントの体型があってはどうにも狭くて仕方がない。
簡易式とは言え、一応二人分の結界魔導器を使用している為にそれなりの耐久力と持続力があるのが唯一の救いだ。

「朝になったら憶測でも勘でもいーからちょっと歩いてみませんかー首領ー」

「……」

「聞いてんのかよ…」

嫌味ったらしい敬語を交えても無反応のクリントに、ティソンは眉根を寄せた。どうにも待機以外の事を言うとクリントは不機嫌だ。なんなのか、一体全体。

「つかよ、クリント。お前今日本当に珍しかったよな。あんな無茶に深追いしてよ、まあ俺が言えた話じゃねーけど」

険悪なムードは勘弁願いたいので、せめて少しは食いついて貰いたい話題を考えるが発言してから少し腹が立つ。何故俺が気を使わなくてはならないんだ。とティソンは思い至ってすぐさま口を開いた。
元々喧嘩っ早い性格である上に、訳もわからず不機嫌になられて癪に触ってしまったようである。喧嘩になってしまうだろう言葉を頭に浮かべながら、隣に座るクリントへ顔を向けた。

「てかお前、うわ、ちょ」

が、ティソンは文句の言葉が言えなかった。あまりに強制的である。
二人は一応、恋人?同士であった。ギルド設立以来の付き合いになるので最近では最早老夫婦のように枯れた関係ではあったが、一応は愛があったのである。なのでクリントを見遣って唐突に唇を奪われたのまではティソンとしてはまだセーフだが、だがタイミングが悪かった。腹を立てている時に唐突にされては混乱しかない。
しかしがっちり後頭部を抑えられてしまい、ティソンは両手を手持ち無沙汰にしたまま頭の中でクエスチョンマークを乱舞させる事しか出来なかった。

「っ、〜…っ」

呆けて開いていた唇、歯列の間から割って入る肉厚な舌にティソンは肩を跳ねさせた。唐突過ぎる。ぐるぐるぐるぐる困惑する頭に目が回っていた。
後頭部と腰に大きな手を回され、力強く引き寄せられて体が密着する。酷く立派なクリントの体躯に引き寄せられたティソンの体は、そうでない筈だが華奢に思えた。

「っは、ちょ、…く、り…んっと」

息継ぎに、とばかりに一瞬唇が離される。口端から垂れた唾液にすらひくんと体を跳ねさせて、ティソンは困惑したままの手をクリントの肩へ遣った。再び唇を奪われ、ん、と声が漏れる。腰を引き寄せている片手が腹の方へ移動して来て、ティソンはぐぐもった声を裏返してしまった。合わせたままのクリントの唇が嬉しそうに弧になり、ティソンはその辺りでなんとなく全体事態を把握してくる。

「はっ…ぁ…」

暫くして、ようやっと唇が解放されてティソンは深呼吸をした。珍しく赤くなったティソンの頬をクリントは上機嫌で撫でる。くたっとした様子で肩に顎を乗せて、副首領様は不機嫌そうに唸った。

「…最初からこのつもりだったろ」

「何がだ?」

「……魔物、追っかけた辺りから、このつもりだったんだろ」

「だから何がだ?」

「………クソが…」

普段無表情でそんな表情しねぇくせに、と、ティソンはキョトンとしてみせるクリントを憎たらしく思いながら舌打ちをした。



*

シチュエーションなどお任せで、クリティソを書かせていただきました!このあとにゃんにゃんしますけど勿論ナンが探しにきてくれますよ…!(^^(←
わかりにくかったと思いますので補足です…!
クリントさんは普段魔物深追いしないけど、今回はわざと迷子になりました。理由はティソンさんと久しぶりに野外プ…げふんげふん…お外でイチャイチャしたかったからです…ですお…!(^ω^)

ではではお祝いのお言葉及びリクエスト、ありがとうございましたぁあ!クリティソ万歳!(^q^)グヘヘ




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