親友が皆ホモだった苦労少年Cの話




※ジャ京に心酔する気持ち悪い遊星注意
※下品な表現がちょいちょいあります




突然だがクロウは普通の少年であった。
サテライトに生まれた少年らに普通というラインの基準はあまりよくわからないのだが、クロウは珍しくも世の基本を安全に守った極普通の少年なのである。
顔はマーカーだらけで、セキュリティの押収物保管庫に何度も侵入しては捕まっては新しいマーカーをこしらえて懲りずにまた押収物保管庫に潜り込んだりもしている。しかしそれくらいの事はサテライトでは可愛い方なのだ。
彼は普通の異性愛者で、耳にピアスは付けても顔にはマーカーを刻まれ続けようと、それ以外の方法で自分の体が汚れるのをたいそう嫌っている。挑発的な絵の刺青を入れるのをバカのする行為と認識し、未成年者の煙草や酒を酷く悪い事と考えていた。それと何より、同性愛や同性同士のむつみが合いを酷く嫌っている。
なんとも普通の、いや、もしかしたら柄の悪い人相はともかく、中身はいまどきのシティの若者よりずっとずっと素晴らしい少年かもしれなかった。

そんなクロウは今現在、幼なじみの遊星とジャックと共にチームサティスファクションに所属している。リーダーである鬼柳京介が立ち上げ指揮するこのチームは目的も行動も役割もしっかりと定まり、とてつもなく潤滑に活動する酷くうつくしいチームだとクロウは思っていた。

鬼柳京介は痩せこけているとも太っているとも言えない、どちらかといえば華奢な体をしているのだが、そんな事なんて忘れさせるかのようにとても頼り甲斐のあるリーダーである。幼なじみ同士であるクロウ達の真ん中に立つ事があまりに相応しいので、クロウは最近では鬼柳が昔からの仲であった気までしてきていた。
デュエルの腕など今更の話ではあるが、やはり鬼柳の腕は立つ。遊星やジャックやクロウ、つまりチームメイトに負ける事はしばしばだが、鬼柳のデュエルセンスは何かひどく輝くのだ。素早い判断で相手に気取らせずに何手も先を頭の中に展開させている。鬼柳のデュエルはチーム内で負け率がゼロでなかろうと、芸術品のように綺麗だとクロウはいつも思っていた。
ただ、性格もきっぷが良くて完璧だというのに、中性的な整った顔立ちを鼻に掛けている節があるのが玉に瑕である。昔から女にも男にもちやほやされていたらしい鬼柳は髪やら顔やらをよくアイテムを持ち運び気遣かっていた。
確かに鬼柳の肌は馬鹿みたいに白く顔立ちは整っている。俗に言うイケメンというそれではなく、なんというべきか、愛嬌と警戒心とが織り混ざった切れ長な金の瞳は確かに眺めるとそれなりに魅了されるものがあるかもしれないとはクロウもたまに思った。

そういう評価をするのであれば、まあジャックの顔立ちは相当良いものである。鬼柳とジャックのどちらが上かと問われると難しい話ではあった。しかし言い分けるのであればジャックは美丈夫であり鬼柳は美形である。更に言えばジャックはスターになれるタイプの美丈夫であり、鬼柳は道行く人間からちやほやされるタイプの美形だ。
というのもやはりジャックには身長と体格、それから金の頭髪とアメジスト色をした瞳がからが強いだろう。頑丈な、しかし素晴らしい加工を施されたような美しさをもつジャックの容姿は目の前にいれば女も男も、はっとする。
鬼柳は線の細い体に高い背が妙なミスマッチさを醸し出していて、それはそれで目を引き付けられるがジャックの魅力とはまた違うものであった。


そうしてクロウは今日もデッキをいじりながら、その噂の美丈夫と美形とを視界の隅に入れている。どのカードを外して新しいトラップを入れようかとカードを並べた机の上は最早クロウの為のスペースだ。
そのせいで機械を弄る遊星は膝の上に機材を乗せている。遊星が言えばクロウは退くが遊星が要望しないのなら退く必要がないだろうとカードは並べられたままだ。
というのも遊星の視線は手元の機械にもクロウの並べたカードにもクロウにも向いていない。膝に乗せた機械は先程から少しも変化が訪れないままである。

「んーなんか手ぇ汗ばんで来た」

「そうだろうな」

「離す?」

「そうだな」

鬼柳とジャックとがクロウから見て右に。クロウの向かいに座った遊星から見て左にあるソファに座っていた。二人は仲睦まじく手を繋いで互いに違う行動をしている。ジャックは雑誌を、鬼柳は遊星が直してくれた大きめな携帯型音楽プレーヤーのフォルダを整理していた。
汗ばんでしまったらしい手を離したかと思えば、鬼柳は音楽プレーヤーを操作しながらジャックの肩にもたれ掛かる。ジャックも雑誌を読みながらその鬼柳の頭を撫でて何食わぬ顔で日常を続けていた。

そう、これは日常なのである。
普通の少年であるクロウは慣れてきてはいるが、やはりあまり気分のよくないそれを見ては溜息を吐いていた。

鬼柳とジャックは付き合っている。利害の一致、性格の合致、とまあ様々ではあるがそこに愛情は確実にあった。それがまたクロウには理解できないが。
クロウは幼なじみであるジャックが同性愛者だと知って愕然としたし、信頼している頼れるリーダーの鬼柳もそうだと、しかも仲間であるその二人がそういう仲だと理解してたいそう気分が悪かった。いや、なにも、愛そのものを否定はしない。しかしクロウには全然わからないのだ。何故おんなを好きにならないのか。

「ジャック」

「なんだ?ああ、ちょっと待て」

音楽プレーヤーを膝に放り投げた鬼柳はジャックを愛おしそうに見上げている。雑誌から一瞬目を鬼柳に遣ったジャックは、すぐさま理解したらしく句切の良い場所まで雑誌を読み進めてから鬼柳の後頭部を掴んで引き寄せた。
そうして可愛らしくちゅと音を立ててする口付けをクロウは流石に横目でも見ていられず、顔を反らす。変に刺激するとあの異常者共は燃え上がりやがるから、盛ってベッドのある部屋に引っ込むまでの辛抱だとクロウは頭を抱えた。

やがて少し荒い吐息が聞こえたかと思うと二人は一切の悪びれもなく部屋に引っ込むんで行く。後ろ姿を見送ってようやっと落ち着いて呼吸をした。横目に見るソファがなんだか酷く汚れて見える、もう何日もあのソファにクロウは座っていない。

「遊星」

溜息を吐き下す。クロウの苦労はそう尽きないのであった。正面に座るチームメイトの中で一番冷静沈着で頭脳明晰な幼なじみ、遊星を見遣ってクロウはうんざりとしてくる。恍惚そうにジャックと鬼柳とを見送った遊星の視線は今頃服を脱いでいるだろう二人の方へ向いていた。傍目には壁を注視しているだけではあるが、遊星にはきっと何か見えているのだろうとクロウは思うようにしている。
は、と、白昼夢から目覚めたように遊星はクロウを見た。まず手元の機械を思い出し、そしてまた壁を見て最後にクロウを見る。冷静沈着で頭脳明晰な筈が落ち着きのない幼なじみを、クロウは複雑な表情で眺めた。

遊星は無口だが人一倍情に熱い男である。表情が乏しく口調もあまりよくなく、目付きが酷く悪い為に誤解がされやすい。しかし親しくなると他に見たことがないと大絶賛したくなる程に良い人間だ。

その筈なのだ。大人になればなる程に遊星もジャックも性格が変わっていく。クロウは自分も今の二人と同じ年齢になったら変わってしまうのかと、少し怖くなった。

「お前、あの二人の部屋にカメラとか仕掛けてねぇだろーな」

「そんな、無粋な真似はしない。俺は傍目から見ているだけで、想像を出来ていればそれでいいんだ」

そう言って遊星はほうと恍惚の息を漏らしてまた壁を見た。
遊星はジャックと鬼柳を溺愛している。二人のむつみあいを妄想…想像しては勃起してしまうらしい。なんとも異常であるとクロウは理解の域を超えたそれを嫌悪すらできず不思議だと首を傾げるばかりだ。
ジャックがタチで鬼柳がネコなのは二人が恥ずかし気もなく話すので知っている。なのでクロウも遊星のように想像をしてみた。ジャックの無駄にでかいものが、鬼柳の中に入る。ううんなんともグロテスクである。クロウは子供の落書きみたいに展開する頭の中のイメージをさっさと消し去った。

「遊星もジャックも鬼柳も、俺には理解が出来ない」

「なにがだ」

「同性同士でなんでシたがるんだ?おかしいよな、普通。それとも俺が変なのか?」

言ってみて、ああこれは正論だよなと改めて感じる。しかし遊星が不思議そうに見てきていてクロウは居心地が悪くなってきた。自分は絶対におかしくない筈だ、なのに何故こうも居心地が悪いのだろうか。
鬼柳は確かに美形である。しかし男に子供は出来ない。従って受け入れる精器は付いていないのだ。つまりセックスは不可能な筈である。だがジャックはあの無駄にバカデカイ精器を鬼柳の尻にぶち込んでるらしい。ああ、いつもここで想像が不可能になる。入る場所なんてないはずだ。クロウは混乱してきて頭にハテナを浮かべまくってしまう。

「確かに、同性同士が正しいわけではないな」

「だよな」

「だがクロウ、あの二人を見てなんとも思わないのか?」

「?」

思わないのか、とは、なんだろうか。遊星はもう一度尋ねたがクロウが首を傾げるばかりだったので、そうかと呟いた。
ちらと壁を見て遊星は赤らめた頬を撫でて、息を吐く。なんでそんなに興奮しているのか、一生理解出来ないだろうしクロウは一生理解をしたくはなかった。

「今頃部屋では、二人の白く綺麗な肌がさらされて触れ合っているんだ。そうだな、またキスをしているだろうか、血色が良いあの二人の唇が重なっている光景はとても美しいだろう?」

「……え、いや、わかんねえ…かな」

「きっとキスをしている時、ジャックの綺麗な金髪と鬼柳の透き通った青銀の髪が混ざり合っているはずだ…」

恍惚そうに遊星は言う。閉じた瞼の裏には二人のたいそういやらしい姿が映し出されているのだろう。クロウはその興奮している親友の姿を眺めながら今日の夕飯についてを自然と考えていた。缶詰は飽きたので何か買い物に行くのも良いかなとも思う。

確かにジャックも鬼柳もうつくしい。人体にあますことなく造形美が繰り広げられている。しかしそれは普通女性が、異性が恍惚そうに評価するはずだとクロウは思った。故に話を振ったにも関わらずに夕飯についてを考えている。

「ジャックの肌は白いが健康的で、白人独特な肉付きがある。対して鬼柳は病人のように青白い。その二人の肌が触れ合った瞬間、素晴らしいコントラストが生まれるはずなんだ」

カレーとかを久しぶりに食べたいなとクロウは遊星の顔を見ながら考えた。相槌すらしないというのに遊星は実に楽しそうに、無口であった筈のキャラをぶっ壊して饒舌に興奮を言葉にしている。

「一度二人の行為中に聞き耳を立てた事があるんだ。鬼柳は、はうやらあんやら意識した甘い甘い声を上げていた。…どうやら鬼柳は、オンナにされる事でとても気持ちよくなれるらしい」

ああと遊星はその時を思い出したのかうっすらと唇を弧にして笑んでみせた。そういえば、とクロウは貰った蟹缶を大事にし過ぎてそろそろダメにしてしまいそうだったのを思い出す。目を反らした先にあった遊星の頭が蟹に似ていたから思い出したとは遊星にはとても教えられないが、まあ言っても今はこのテンションのままだろうとクロウは最早どうでも良くなっている。

「ジャックはそれを淫乱だとひどく叱咤していた。ジャックのあの声は、大声が似合うな…二人は性癖が怖いくらいに合致しているんだな、ジャックが征服する鬼柳はそれを喜んでしまうんだ…」

「……」

「クロウ、聞いてるか?」

「聞いてるよ。つか録画は無粋で、聞き耳は無粋じゃねぇのか?」

「二人の邪魔をしなければ」

「ああそう」

クロウは一応は話を聞いている。ただそれはいつまでも理解が出来ない。
クロウとて年頃である。鬼柳が、いやジャックでもいいが、とにかくあの二人のどちらかが女であったのなら、遊星とまではいかなくとも興奮したかもしれないのだが。

「つかなんだ」

「?」

「遊星は結局なんなんだ?」

「なにがだ?」

「あの二人は相思相愛だろ」

「ああ」

「遊星はジャックが好きなのか?鬼柳が好きなのか?」

「あの二人がまぐあう事が、とても好きだ」

なんだか俺はアホな質問をしてしまったな、と、クロウは溜息を吐いた。もうこいつらの異常性癖について顔を突っ込むのはやめにしてしまおう、もう無視をしてしまおう。
先日廊下で盛ったジャックと鬼柳がそこで行為を進めようとしていたのを蹴り飛ばして止めて、曲がり角で物陰から眺めていた遊星の首根っこを引っ付かんで説教をした時にもクロウはそう考えたのだが、あまりにも日常茶飯事過ぎる為にもう忘れてしまっていた。



*

ジャックも鬼柳もうつくしいよねって思いまして。あと気持ち悪い遊星さんごめんなさい、本当はイケメンな遊星さんが好きなんですよ嘘じゃないですん。









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