2 つづき





震えながら寄り掛かり、こちらの様子を伺う鬼柳の頭を撫でて男は思う。何を震えるのか、というとやはり反応が怖いのだろうかという事か。セキュリティで色々な事をされて男を受け入れる事が余裕だと主張したのは間違いだろうかと、震えるのだろう。
男は鬼柳とキスをした時点で、いやもっと前から鬼柳に恋をした時から鬼柳と体を合わせるならと馬鹿な想像をした時から彼を受け身だと考えていた。何故だか彼を女に見立てて当たり前な顔で自慰に至っていた。だがそれは無意識に鬼柳が醸し出していた雰囲気からだったのかもしれない。同性を受け入れる事を苦に思わない思考と体が無意識に、そうさせたのかもしれない。
男はつい敬語が飛び出そうになるのを抑えながら、鬼柳の頭を撫でて遣る。大丈夫だ、震えないで大丈夫だ、と伝えた。抱きしめるとその体は安心したように息を小さく吐く。それから小さく小さく鬼柳は抱いてくれと呟いた。男は返事を耳元でしてやる。鬼柳は嬉しそうに頷いた。



ぐぷ、と音がする。ざあざあと雨が降り続けるが鬼柳がそれに反応して震える度に男は大丈夫だと慰めてやった。鬼柳は雨が嫌いなようで室内の荒れた様子もそれが原因だったらしい。何故かと聞く勇気は男にはなかったが、だがいずれ話してくれるだろうかと考える。いずれ、とは、なんと素晴らしい言葉だろうか。鬼柳と男は以前の先生と世話係りを超えた関係なのである。男はそれが嬉しくて堪らなかった。
唾液を潤滑油に男の指で慣らされた鬼柳の内部はぐちゃぐちゃに解されている。薄ピンクのそこは肉色と表現するのが正しいような、グロテスクと煽情的という表現の紙一重な色をしていた。しかし男はひくひくと蠢くそこを眺めてどうしようもなく煽られた。過去ここに鬼柳が望まぬ人間の男根を受け入れた為に良い思い出がないのはわかってはいたが、しかし鬼柳の恥体を眺めて酷く主張している自身のものを此処に突き立てるのだと思うと興奮してしまう。
くんずほぐれつでなんとか移動した寝台の上で鬼柳は熱病にでもうなされているように息を荒げていた。はあはあと辛そうな吐息に混じる嬌声は酷く甘い。男は我慢出来ず性急ながらにもう大丈夫かと一つの答えしか許さない質問をする。鬼柳は堪らなそうに口元に置いた自身の掌を上げて男の胸元を撫でながら、何回も頷いた。
男はそれを見てズボンの前を寛げる。暫く触って遣らなかったにも関わらず主張をする自身のそれをみて男は我慢出来ないとさっさと下着を下ろした。膝下に纏わり付くズボンも下着も気にせず、そのまま鬼柳の腰を抱える。完璧に勃っていない陰茎を少しばかり扱いてやり、ひくひくと収縮を繰り返すそこを見下ろして思わず生唾を飲んだ。少し息を整えてから、鬼柳の顔を見遣る。期待するように息を潜めながら待つその姿を見遣って腰を進めた。

「うっ、ぁっ…ぁんぁッぁ…ひぁ…」

ず、と音がする。堪らず上がった鬼柳の声は上擦って泣いているようだ。まだ先端の膨らんだ部分すら入りきっていないが鬼柳は甘い嬌声を上げる。腰が厭らしくうねるのを見て、男は堪らなくなった。額から垂れた汗が鬼柳の細い腰に落ちる。それにすら反応を示す姿を見てはもう我慢は限界で、男は鬼柳の名前を呼んでずんと音を立てて腰がぶつかるほどの勢いでいっきに中へ陰茎を押し入れた。それに合わせてびくんと体を硬直させた鬼柳は、足の先まで丸めて押し殺した声を上げる。ひっと何回も小さい悲鳴を上げてがくがくと震える体は、見下ろすと白い陰茎から大量の精液が薄い陰毛に落ちていた。何回も震えに合わせて精液が吐き出されている。どうやら刺激が強すぎたらしく鬼柳は切なげに眉根を寄せ、涙を流しながら射精に喜んでいてだらし無く開いた唇からは唾液が垂れている。
男はそれを見てぞくと背筋が縛れた。何故こんなにもこの人は綺麗なのだろうか。なんでこんなにも美しいのだろうか。中に突き立てた陰茎が欲情に合わせて肥大するのを感じる。鬼柳もそれがわかったらしく、あ、とか細く声を上げて下腹部を指先でなぞった。その手を握り、引き寄せて男は腰を更に進める。鬼柳の体に被さってこれ以上ないくらいに密着して、耳元で大好きだ愛してると何回も告げた。鬼柳はその度に頷き、無意識か男を受け入れたそこをきゅうと締め付ける。そうして堪らなさそうに腰を揺するので、男はなんの前触れもなく鬼柳の腰を抱えて律動を始めた。ぱちゅと水っぽい音を立てるそれは寝台が軋む程激しい。確か下の階は食堂で夜は誰もいないから大丈夫だと男は思うともなく思う。鬼柳の高い嬌声が辺りに聞こえないか大丈夫かを考える余裕はなかった。





鬼柳と男はそれから何度も関係を持つようになった。どちから誘うかというとどちらとも言えないのだが、男が夜に部屋を尋ねるとどちらともなくキスをして寝台になだれ込む。まるで、というより丸きり恋人同士のそれであったが、そう言い切るにはかなり不自然な点があった。
鬼柳は行為の最中、男には京介と呼ぶ事と敬語を止める事とを強要していた。だが普段の生活にそれは許されないのである。行為が終わった後や翌朝、鬼柳は「グループの最重要人物とその世話役」を男に再認識させた。とどのつまりこれはセックスフレンドであるのだと男は鬼柳に無言で告げられている。
だがそれに酷い憤りを感じないのは夜のあの時間だけだろうと鬼柳が自分を狂ったように求めるからなのだろう。確かに多少納得行かない節はあったが、だが人が変わったように無気力無関心な鬼柳に男は何かを言う気にはなれなかったし、だからと言って甘えたな夜に言う気にもなれなかった。

それとグループ内で噂も勿論立ったわけである。鬼柳京介と世話役の男が肉体関係を持っていると専らの噂だった。まあこの町で男色がそう珍しいわけではなかったが人が人であった。あの鬼柳がとグループ内ではその話で暫く持ち切りである。たまに行為中に聞き耳を立てにくる阿呆や鬼柳に迫る馬鹿もいたのだが鬼柳はあまり気にしていない様子だった。
聞き耳を立てる奴や噂をする奴らは数日すると消えたのだが、その理由はすぐわかる。ラモンが男の部屋を尋ねたからだ。鬼柳が求めた事なのかと興味はなさそうに男に聞く。ラモンは売春婦を定期的に呼ぶとても健全な異性愛者であった為に男と鬼柳の関係にはとんと興味がないらしい。鬼柳を離さない為のサービスであるのなら暫くサービスしとけと言ってラモンは部屋を後にした。どうやら噂等がめっきり消えたのはラモンが鬼柳の機嫌を損ねないようにと気を遣ったらしかった。
それと鬼柳に迫る輩だがそれも同様だった。ラモンが働き掛ける以前はどうしていたかというと鬼柳が体よくかわしていたようである。それを聞いて男は言い知れぬ喜びを感じた。誰でも良いわけではないのだと、歓喜したのだった。

そうして男と鬼柳の奇妙な、体だけとは言いにくい関係は暫く続く。初めて体を合わせた日から数え日数して約30日間、その関係は続いた。
ではその後どうなったのかと言えば結論を言えば簡単で、グループが解散したのである。長く説明をするのなら鬼柳京介の古くからの親友が訪れラモングループの勝利が続く日々が狂った。そしてマルコムの弟が帰り、鬼柳京介が負け、鉱山でのヒエルキラーが変わる。最後には鬼柳とその親友である遊星とで町は救われた。
だがそれがハッピーエンドではなかったのだ。

男はマルコムの弟であるロットンの仕業で酷い有様になった町を眺める。火薬の臭いが残るそこはとても居心地が悪かった。これから、どうなるのだろうか。
過去の親友と会った鬼柳の様子を見て男は痛感した。所詮自分はセックスフレンドなのだろうと。今の鬼柳は生きる希望に満ちている、あの無気力無関心とも夜の様子とも違う健全な成人男性のそれである。あの肉体関係はなんらかのトラウマで苦しんだ雨の夜に忘れたいと男の体を欲しがっただけの、ただのその場凌ぎなのだろう。
ではこれから自分はどうなってしまうのか。そう思うと男は堪らなく悲しかった。あの希望に満ちた人間に自分が必要とは思えない。
そんな憶測だけではあまりに軽率だとは思う。だが先程町の中ですれ違った時に気まずそうに顔を反らされたのを思い出すと、なんだか憶測ではない気がしてしまうのだ。

復興作業を手伝わされながら男は思う。そもそも鬼柳は何故自分を世話役に指名したのかと。それくらい聞いてもいいだろう。それを聞いて、自惚れでもいいからもしなんだ愛されていたのかと思えたらあの人のそばにいたい。だが違ったら、実家に帰ろう。父にげんこつを貰おうと母に蔑まれようと構わない、家業を手伝わせてくれと頼もう。男は運んでいた木材を指定の場所に置き、金づちを振るう男を見上げてから息を吐いた。
近場にいる現場指揮の治安維持局の男性に声を掛け、鬼柳京介に話があるというとなんともすんなり作業を抜けさせて貰えた。今や町の救世主である鬼柳京介は何事も最優先事項であるらしい。町の中央で親友らと話していると教えてもらい、男は礼を述べてから作業場を離れた。

そう時間の掛からない場所にある町の中央部に向かい、男は考えた。なんて聞くべきだろうか。俺は貴方にとってただのセフレでしたか、なんてあまりに直球過ぎる。だが回りくどくても何かねちっこい。あの人に見捨てられては悲しくあるが、怒りはないので最低な印象だけは与えたくはなかった。処女、といってはなんだが同性でのセックスをしたことのない鬼柳と致したならば男にもまだ安心があった。しかし鬼柳は慣れていたのだ同性に体を明け渡す事に。大勢の人間の一人であったのなら、と思うと胸が痛い。男はまるで鬼柳に片思いをし続けていた時の軟弱且つ優柔不断な思考で唸った。
近付いて来た町の中央を開けた道から見遣るが、そこに鬼柳の姿はなかった。鬼柳の親友らしいオレンジ色の髪をした活発そうな男性と、金髪の背の高い男性がいる。後者は何処かで見た事があるようなと男は思うが、都市から隔離されたこの町で元キングの顔を知る人間はなかなか少ない。
どうやら鬼柳と遊星はいないらしく、Dホイールに寄り掛かったその男二人は町を見回して談話している。鬼柳、遊星、ジャック、クロウ、この四人は今やこの町の英雄であった。
男はどうするかと悩んでから、思い切ってその広場へ向かう。正直鬼柳がそこにいたのならかなり出ていく事を悩んだので、少し気が楽であった。

「あのすいません、先生…いや鬼柳さんが何処行ったか知ってます、か?」

男は恐る恐るその二人に歩み寄った。鬼柳の居場所を知る為である。恐らく鬼柳と遊星とでどこかへ行ったのだろうが、あまり広くない町とは言え男にその検討は付かなかった。なので鬼柳の居場所を知っているだろうその二人に声を掛けたのだが、男は心底吃驚した。何故かと言うとそれは声を掛けたただけてその二人が驚いた顔をして見せたからである。なにか変な事を言っただろうかと不安になった。

「……あの」

「あっ、すまねぇ」

「…鬼柳ならそこの酒場で事情聴取をしてる、そろそろ戻るだろう」

そう親切に言いながらも、二人はまじまじと男を見遣っている。言葉からするに此処で鬼柳を待っているといい、という事なのだろうが居心地が悪すぎる。男は二人を見遣り、気まずさからなんでか苦笑をした。

「あの、」

一体なんなんですかと男は尋ねるつもりであったが、オレンジ色の髪の男性、クロウがあっと声を上げたので言葉を出すタイミングを逃してしまった。なんなんだとクロウを見遣ると、クロウは酒場の入口を指差している。訝しげにそこをよくよく見遣ると鬼柳と遊星とが何やら楽しそうに話していた。男は鬼柳と遊星とのデュエルの最中はラモングループの屋敷にいたので遊星の姿を見たのは初めてであったが、なんだか無愛想そうな表情の人だなと思った。鬼柳は楽しそうに遊星の肩を叩きながら話している。見たことのないその姿に少し胸が痛んだ。

「おー待たせたな、事情聴取済ませたぜ」

どうやら治安維持局の人間から事情聴取をされていたらしい鬼柳は、まあ形だけだったけどなと遊星に同意を求めてみせる。遊星はああと頷いて、そしてジャックとクロウの背後にいる男に気付いたのかじっと男を見遣った。

「そこの人は誰だ、ジャック、クロウ」

その発言を聞いて、男はあれっと思った。いや発言ではなく声だ。声を聞きなにかすごく妙な感じがしたのである。
クロウが待ってましたと言わんばかりに男の肩を引いた。あまり強引ではないそれに男は仕方なく従い、ジャックとクロウの前、つまり遊星と鬼柳の目の前に立つ。
遊星が不思議そうに、鬼柳が驚愕に顔色を変えた。誰なんだと再び聞く遊星の隣で、鬼柳は眉根を寄せて困ったように「ああ」やら「いや」やら言っている。男はそれを見て、遊星の声を聞いて、なんとなく事態を察してしまった。考えてみてはただただ頭が真っ白だ。

「こいつの声、遊星の声にそっくりなんだよ!」

「鬼柳を探していたらしいが、知り合いか?何故もっと早く紹介しない、鬼柳」

クロウに愉快そうに肩を叩かれて、男は俯く。ジャックが鬼柳を責っ付くと鬼柳は濁った決まりのない返事をするだけで、男は更に気分が悪かった。足がふらふらする。
遊星が「そうなのか」と興味深そうに男を見遣るが、俯いているのに気付いて不思議そうに首を傾げた。男は、どういう顔をするべきか悩んだ。この遊星という人間をどういう顔で見ればいいのか、わからなかった。
鬼柳が遊星をとても評価していて、親友で、遊星が鬼柳を救ったとは復興作業中に小耳に挟んだ。ウエストという鬼柳に纏わり付く少年が言うには、遊星達は過去に鬼柳とチームを組んでいたらしい。

「あのな、」

鬼柳が言い淀みながら言葉を探りながら男に声を掛ける。男は、それを他人事のように聞いた。

遊星という片思いの相手は、親友としてしか鬼柳を見なかったのだろう。遥々ネオ童実野シティからこんな辺境の町まで救いに来てくれた遊星を鬼柳は好いていたのだろう。だが所詮は親友同士だ、言えなかっただろう好きだなんて。なんて自分は滑稽なんだろうか、男は笑う。思えば暗がりで耳元で名前を呼び愛を囁くと喜び、昼は顔を合わせない時にする会話だけが機嫌が良かった。擦れ違い様に挨拶をして気に入られた理由にも合点がいく。

「鬼柳さん、俺、故郷に帰るんですよ。それで、挨拶をと思って」

精一杯の笑顔で鬼柳に向き直るしか男には出来なかった。それだけ言って、男はまた顔を俯かせる。鬼柳はすまないと謝って、小さく小さく、初めて男の名前を呼んだ。

惨めだった。好かれているかもしれないと鬼柳を抱いていた自分が。誰かの代わりにされているだなんて、思いもせずに自分の魅力だと思い込んでいた。遊星という救世主の人望を肩代わりしていたに過ぎなかったのだ。ひどく惨めで悲しかった。だが怒りは微塵もない、ただ鬼柳がやはり届かない人間なのだと。自分がくだらない人間なのだとそう思うとたまらなく、悲しかった。

だが男は鬼柳に初めて名前を呼ばれた、それだけで酷く嬉しかった。自分をごまかすための言い訳かもしれないが。



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文字数がすごい事に。
エロパートに力入れ過ぎて最後ぐだぐだですね、すいません\(^o^)/