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※「(Y子の頭が)春のもぶきりゅ祭」とかいうY子内でのイベント開催中です。内容は名前通り「モブ×鬼柳のエロい話祭だぜひゃっほーい」です。ヤオイしかないです。それでもよければどうぞ見てやって下さいorz




被験者番号0鬼柳京介。今日も管理部のとある男はその少年をモニター前でうっとりと眺めている。夜勤明けで帰った同僚の入れてくれた珈琲は彼の手の中ですっかり冷めてしまっていたが、視線はただひたすらモニターへ、朝食を取る少年の可愛らしく開かれた唇へ向かっていた。

彼の担当するモニターは被験者らの生活範囲で、朝食を取った後の試験の時間になるとモニター前を離れる事になる。
彼は今年で三十路突入するのだが医療に携わり栄養士の資格を持っている事から、医務を担当しそれなりに出世をしており、将来を期待されていた。被験者の体調管理を一手に任されている為に医務室の管理も彼の仕事で、責任のある仕事の為に施設内に部屋を設けられている程である。

ああ、と、モニター室内で男は息を漏らす。生活範囲は被験者が部屋に一手に集まっている事もあり、監視は彼一人にのみ任されていた。
他者の邪魔のない室内で、男はモニターに写る鬼柳京介という少年の輪郭を撫でる。無邪気に友人らと話す少年は、頬にケチャップを付けて微笑んでいた。可愛らしい姿に堪らなくなり、男はモニターを注視したまま繋がれたパソコンに手を伸ばす。
何枚も何枚も少年の姿を引き伸ばしたプリントを済ませ、恍惚の息を漏らした。近場に詰まれた封筒を引っ掴むと中へプリントしたものを入れ、他の書類と合わせデスクへ置く。

京介、と、震える声で呼んだ。すると偶然以外の何物でもなかったが、少年はその瞬間にニッコリと笑って頷く。友人らの話にうった相槌だったのだろうが男はそれが堪らなく嬉しく、笑みを浮かべて何度も何度も少年の名前を呼んでいた。






「なぁ、大丈夫なのか?」

鬼柳はベッドから降りようとする友人に肩を貸しながら、心配そうな顔で尋ねてみせる。朝食が終わりこれから試験が始まるのだが、以前から体調を崩している友人はどうにもベッドの中にいたくないらしい。

「医務の担当の人は、安静にしてろって言ったんだろ?」

「出来るだけ安静に、って、言ってた、出来るだけだよ。それにオレがいないと奇数になっちゃうから…よくないし」

本当は一日中休んでいた方がいいのだろうに、少年は鬼柳の心配をよそに歩き出そうとする。体を支えていた鬼柳は眉を寄せ、どうしようもできない歯痒さにむしゃくしゃとしていた。
確かに、被験者は彼がいなくなると奇数になってしまう。試験は勿論決闘で行われる為、一人欠けると非常に作業効率が悪く、余る一人は勿論研究員に迷惑がかかるだろう。
だがそれはデータ上の見方だ。少年はかなり具合が悪く、歩くのもふらふらとしている。
施設は非常に規則的で、体調を崩す理由が鬼柳には予想が付かなかった。というのも鬼柳がフィール発現装置に堪えない体質だからである。本来、幼い彼らに無理に力を出させる機械なんて適用するのは無理な話であった。衰退するのも当たり前な話である。

どうしようも出来ない。鬼柳は渋々、少年に肩を貸して部屋から出た。白い壁の並ぶ廊下を進み、試験の行われるホールに向かわなくてはならないからだ。
先に行ってしまった他の子供達の後を追うように歩いていくと、IDの必要な厳重な扉から研究員が一人出て来た。

当たり前な光景である為、鬼柳はそのまま素通りをしようとした。だがその研究員の姿を見て、あ、と声を上げて足を止める。
鬼柳自体は非常に健康体である為に顔馴染みではないが、そう人数の多くない研究員達なのですぐに見分けが付いたのだ。

「あ、の、すいません…医務部の人…です、よね」

研究員はどの人も揃って白衣を着ている。胸にはIDと顔写真の付いた札を付け、決まって小綺麗なスラックスを履いていた。
だが医務部担当の彼は何故かラフにジーパンを履いていた為に、鬼柳はよく思い出したのである。
彼がジーパンをよく履いているのは、偏に施設内での一人暮らしの生活でスラックスを管理するのが面倒なだけだというのは、鬼柳は知らない。

「ああ、鬼柳君だね。どうしたの?」

書類と厚い膨らみをもつ茶の封筒を胸に抱え、彼は大分下方へ目を遣り少年に目線を合わせた。180cmはあるだろうか、ぺったんこの靴を履き後ろに撫で付けた髪型をしているだが、彼は研究員の中でも一際背の高さが目立つ。

「あの、こいつ…ええと被験者1番、なんだけど」

「どうかしたのかな?」

仏頂面な研究員達ばかりだが、彼は人の良い笑顔でもって鬼柳を相手して見せた。頭をぽむぽむと撫でられ、安心して鬼柳は綻んだ顔で言う。

「体調が悪いみたい…なん、です、それで」

「鬼柳、大丈夫だって、言ったろ」

「でも…っ」

少年はぐいと鬼柳の肩を押し、自立しようとふらふらした足で離れて行った。しかしすぐにふらりと足がおかしな形で床に付き、体が倒れる。すぐさま横で見ていた研究員が腕を伸ばし体を支えたのでなんともならなかったが、しかし、ひゅ、とか細い息をして少年はそれきり黙ってしまった。

「確かに、これは良くないね」

「ど、うすれば…」

「ああ泣かないで鬼柳君、この子は今日は医務部で預かるから」

子供特有のふにふにとした、鬼柳の頬に手の平を当てて研究員は笑う。そうして首筋を撫でて髪がさらりと揺れるのを微笑んで見届けて、彼は鬼柳から一歩離れて力なくだれる少年の腹へ書類と封筒を置き、ひょいと軽々横抱きにした。

「あちらには連絡を入れておくから、君も早く向かった方がいい。あと数分で始まってしまうよ」

「ぁ、はい…っ」

腕時計を見て優しく諭す研究員に鬼柳はばっと頭を下げて、それからとてもとても嬉しそうに笑って小走りで廊下を駆けて行く。
研究員はそれを見届け、緩む口角を抑えられずにやにやとしてしまった。腕の中でぐったりとして意識を失っている少年を一瞥し、さて、と先程鬼柳の頬を首筋を撫でた手の平を見遣る。
頬擦りをし、物足りず嘗めてみる。しかしやはり物足りなかった。先程印刷をしたプリントも最早味気ない。施設内にある私室に何枚もある写真ももう意味がない、だって実際に鬼柳京介を目の前に見てしまった。会話をしてしまった。触れてしまった。モニター越しでしか見れなかったあの可愛らしい天使のような少年に、もう彼は触れてしまったのだ。
一糸纏わぬ少年の姿を写した写真や、シャワールームでシャワーを浴びる写真。様々なもので自慰をしていたが、それより実際に触れた感触や匂い、それらのほうがずっと興奮してしまう。
鬼柳京介と接触した。それは彼にとって並々ならない至福となった。





被験者に出される食事内容の設定、摂取する水分の調整、睡眠時間の決定、休憩時間の計算。それらは彼の仕事だ。医務室でやるべき書類整理を済ませ、上記にあるような出すべき書類を完成させていく。
質素な白塗りの室内に並んだ二つのベッドの内、片方に少年が横たわっていた。体調を整え、発作を無くすため投薬はしたがこの少年の先は短い。無理な実験が祟ったのだろう。長官からはそういう子供の治療には専念せずに効率良くやれと言われていた。第一にまだ実験は初期段階だ、そんな序盤でへばるような被験者が完治したところで今後の実験に貢献するわけがない。長官のやり方は正しいと男は思っている。
今日一日様子を見て、ダメそうなら夜中に外部管理部の人間に来て貰い搬送し始末して貰わなくてはならない為、男はあらかじめパソコンからメッセージを送る準備をしておいた。送信を送るだけ、の状態でセットするのは少年の持ち直す見込みが全くないからである。

さてそろそろだろうか。男は腕時計を見てそわそわしている。医務室はロックが掛かっておらず、基本的に誰でも訪れる事が可能だ。だが医務室自体に用事のある研究員はいない。医療に携わっているのは医務部ただ一人のこの男のみで、来る必要がないのだ。
男自体に用件がある場合もあるが、彼は大層仕事の出来る人間で期限よりずっと早く書類を完成させてしまう。なので彼に用件がある人間というのは大体はメールか内線で済ませてしまうのだ。
研究員以外、つまり、被験者が医務室を訪ねて来るのも少ない。今ベッドで横たわっている少年のように、いきなり体調を崩した場合くらいだろう。前述にもあるように、まだ実験は初期段階である為にそうそう運び込まれたりはしない。

こんこん、と、控え目なノックが響く。男はバッと顔を上げ、緩む頬を抑えて深呼吸をした。立ち上がり扉を開け、下方にちょんと立つ小さな小さな少年を出迎える。
そう被験者が来る理由と言えばお見舞いだ。日頃モニター前で鬼柳を注視している男は知っていた、少年が仲間をひどく大切にしているのを。

「やあ鬼柳君。…試験中じゃないのかい?」

「30分だけ休憩が、入って…あの、体調はどうなりました?」

慣れない敬語をたどたどしく使い少年は男の体の向こう側に見える医務室が気になるようにそわそわとしている。
男はそんな体を引いて、医務室の中に招いて遣った。少しばかり不安そうな色を隠せないまま、鬼柳は男を見上げて眉を寄せる。そんな表情を見せるなんてなんて罪な子なんだろうか、男は微笑みながら小さな頭を撫でた。

「今は安静にしているよ。君が気をかけたお陰だね」

「……ぐったり、してる」

「眠っているんだ。しばらく安静にしていれば治るさ」

連れたったベッドを見て鬼柳は不安が拭いきれないように泣きそうな顔をしている。ああ先程からこのガキは邪魔だなと男は内心舌打ちをした。廊下で、この部屋で、可愛い可愛い京介と念願の会話をしているというのに二人きりになれやしない。
まあこの少年のお陰で京介が自身に泣き付いて来たのだから、感謝はしておこう。男はぎゅうと白衣の裾を掴んで来る可愛い鬼柳の頭を撫でた。

「あれ、怪我しているの?」

「え?」

「カードで切ったのかな。集中した決闘をしてきたかい?」

白く小さな指先に長く赤い一本線が入っている。小さな切り傷だったが、こうした小さな体調の変化も一切見逃すなというのが長官の言葉だ。まあその被験者が鬼柳であった時点で男は放っておく気などなかったが。

「良くないね。化膿するかもしれないから、治療をしようか」

「え、あ、…わかりました」

まあ勿論、こんな切り傷じゃ化膿はしないだろう。ただでさえも施設内は抗菌殺菌に力を入れているし、何よりこんなにも小さな傷だ。しかし男は鬼柳をやすやす返してしまうのが嫌だった。どうにかして今後も会う接点を作りたい。

大それた医療道具一式を取り出し、男は鬼柳の肩に手を添えて丸椅子に座るよう促した。素直に座った少年の前に自分愛用の椅子を引き、向き合って座る。
机に置いた医療道具の箱に手を伸ばし、消毒を施した。

「此処に来る事は、あっちの研究員に言ったのかな?」

「一応、言いました。あ、でも、すぐに戻れって…言われて」

「そう。まあ10分もかからないから」

残念ながらね、と、男は内心舌打ちをする。なんなら2分もかからないとすら考え、どうするかを思考した。
ベッドに横たわる少年をどうにかして此処に暫くいさせるのはどうだろうか。上の人間には完治しそうだから時間をかけるべきだと言い含めればごまかしはきくだろうが、だが胡散臭い言葉は几帳面な長官には煩わしがられる。代わりの人間はいくらでもいるのだ。

「……あの、実は、その…」

「うん?どうしたんだい?」

ああこの可愛らしい指先を口に含み嘗め回せたらどんなに幸せか。小さな指先の消毒をしながら男は笑む。
鬼柳が恐る恐ると顔を上げるので、すぐさまいやらしい笑みを人の良い微笑みにすり替えて、首を傾げて見せた。

「…貴方に、話したい事が…あって」

「……私に?なんだい?何か悩みでもあるのかな?」

「…………」

鬼柳はそれきり黙ってしまう。少し俯き、つむじを男にさらして息を吸った。

「……もしかして、長い話になりそうなのかな?」

「……はい、でもその、俺、行かないといけなくて…」

ぎゅうと眉根を寄せて少年は泣きそうになりながら言葉を紡ぐ。ああなんて可愛いんだろうか、自然な仕種で鬼柳の肩を抱き男は少年を抱きしめた。
少し臆病に体を強張らせるのに興奮し、しかしそれを表に出さないように男はつとめる。

「私からあちらに連絡をしておくよ、後半の試験に出ずに医務室で休むって」

「でも…」

「指の傷は決闘には致命傷だろう?大丈夫、私が上手く話しておくから」

「…っ…ありがとう、ございます…」

ついには泣き出してしまった小さな体を、男はここぞとばかりに強く抱きしめ撫で回す。
正直鬼柳にとって、こんなにも優しい研究員は珍しく暖かかった。阿久津所長もなかなかの善人ではあったが、所長という職柄ゆえに会うことは少ない。男に下心があるとは知らないからこその子供独自な見解だったが。




「あいつを病院に入院させて、欲しいん、です」

男が内線を入れ、実験の行われているホールへ連絡をした。鬼柳京介の指の切傷に汚れが入り、化膿しかけてしまっているのできちんと処置を取らねば、才能ある今後を無意味に潰えるとそれらしく豪語したところ機械馬鹿のスタッフリーダーはまんまと騙されていた。

「入院?この施設から出るという事かい?」

「……だって、日に日に悪くなってるん、です。無理はわかってます、でも…」

向かい合って座る鬼柳は治療の済んだ指先を握りながら真っすぐに男を見ている。
勿論無理な話だった。入院なんてさせる必要はない、なんの為に身寄りのない子供を集めたのかという話である。使い捨てが不可能なモルモットに存在価値はないだろう。
もしこのぐったりとしてしまった少年が鬼柳であったら、男は全身全霊で治療をしただろう。だが少年は鬼柳京介ではない。男は必要最低限な投薬以上をするつもりは微塵もなかった。

「ごめんなさい。優しいから、甘えてるんです…でも他に頼れる人なんていなくて」

「…そうかい」

「他の研究員じゃ絶対に聞いてくれないけど、でも…」

貴方ならと鬼柳は期待を込めて男を見上げる。さてどうしたものかと男は考えた。入院はまず不可能だ。だからと言ってそれを鬼柳に言えば、まず今後一切の接触を断たれてしまうだろう。それは困る。男はモニター室と医務室と自室以外をうろつけば即刻首にされてしまう、つまり、鬼柳に会うチャンスが消えてしまう。それは堪えきれない。

「お願い、します…俺がこいつの代わりに倍試験をするし……なんでも、するから…」

「…、…」

ぞくと俺は背筋が痺れる。なんでもすると縋る少年の姿に欲情をした。涙目で男のみを頼りにする彼の顔は酷く背徳的で、興奮してしまう。冷静を装い男は鬼柳の頭を撫でる。
焦ってはいけない。被験者に手を出したと知れれば、あの子供を使い捨てる事を厭わない長官の事だ、両親を過去に病気で亡くし身内のいないこの男なんて簡単に殺して使い捨てつしまうだろう。

「なんでもなんて、簡単に言っちゃいけないな」

「無理なの…?」

「……そうだね…私が、手続きをして…無理を通せば…あるいは」

鬼柳の目が期待に濡れた。信じて見上げてくる少年の真剣さに男は息が荒くなる。仲間の為に必死になっている鬼柳は気付いていないが、勢いあまって乗り上げた男の膝の上においた手の平はぎゅと執拗に握られていた。

「お願いします、なんでも…するから」

「………そう、だね。じゃあ私からも一つお願いがあるんだ」

「……お願い?」

「それを京介君が叶えてくれたら、彼を入院出来るよう私も叶える為頑張るよ」

鬼柳は迷いなく頷き、そして喜びに勢いあまり男に強く抱き着いた。男はそれを抱きしめ返し、逸る気持ちをどうにか抑えて気鬼柳の首筋の匂いを吸い込む。勃ちあがってしまいそうなのを抑え込み、まだ優しい大人を演じて背中を撫でて見せた。



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