黒
※性的描写有
元より、他人に触られる事が苦手だった。例えばそれが殴り合いであったり、握手やハイタッチであった場合は例外なのだが。
所謂、抱擁や手を繋ぐ事、またキス等の過度のスキンシップが苦手を通り越して、もはや怖かった。経験がなかったから。自分がそうされた時に、どうすればいいのかがわからなかった。
だから、不自由な体を一方的に殴られるのはまだ大丈夫だった。痛みなんて、慣れっこだったし。
けれどある日、欲のはけ口として触れられた瞬間に、俺の精神は暴力に屈した時よりずっとずっとぐちゃぐちゃにされた気分だった。
女みたいだと髪を撫でる奴。俺を屈しさせながらまだ暴力を振るう奴。痩せた肌に「萎えるな」と笑いながら触れる奴。気まぐれにキスする奴。奉仕を要求する奴。愛してると囁く律儀な奴。俺に自慰をさせて見る奴。
沢山居た。あんなに沢山居たのに、全員顔は記憶している。一人一人、何をした奴か言い当てる自信もあった。
とても怖い。日夜、次に何をされるかに脅える。涙を流し過ぎて、目元の皮膚が擦り切れるのが常だった。
誰に何をされるか予想も着かない。怖くて怖くて、ひたすらに手首や足首、腹や首元、体中に付いた赤い痕を消えるよう願って擦る。実際、そんな事しても痕がひたすら濃くなるだけだったが。
だが一度死んでみると世界は変わる。一点、全く違う角度から世の中を見ている気分だ。
鬱血するまで殴られて、だから?男に掘られて、それで?殴った張本人に「ひでぇ顔」って笑われて中出しされて?何が辛いっつの?
そんな事に憂い、悲しむ意味がわからない。清々しい気分だった。
実質、死んでしまった体に苦痛等ないのだろうか。はっきりとは言えないが、でももうあの時の苦しみは体には残っていない。あんなにもあった悲しみが、今は寧ろ全て憎しみだ。
そうして、言い訳するつもりはないが俺は絶倫野郎となった訳だ。だって日夜、飽きずに抱かれるんだぜ?しかも俺が感じなくなると、あの手この手で感じさせようとするからさ、超敏感になっちまってんの。笑えないか。
「っ、…ル、ドガー…ああぁっ…そこヤバいって…ー…!」
机に縋り付きながら、がくがく震える足腰をどうにか支える。ルドガーの掌ががっしり掴んではいるけど、いつ崩れるかわからないから用心。
ひたすら前立腺狙ってくるモンだから、口開きっぱなし。涎垂れてんだか垂れてないんだか、わからないくらい気持ち良い。
机に額なすり付けて、爪がめくれそうになるくらい机に爪を立てる。
「少しは黙れないのか」
「無理…ふ、ああっ……そんな、前立腺っ狙っといて…黙れとか……鬼、畜ぅ…っ」
ぐちゃぐちゃと生々しい音がする。聞けば、妙にリアルにルドガーのモノが自分の中を嬲ってんのが想像出来て、ぞわぞわと気持ち良いくらい鳥肌が立った。つ、とその鳥肌をなぞられて、肩が跳ねる。
ごり、と額を机に強く擦り付けて、意識が飛びそうなくらい気持ち良い快楽をやり過ごす。
最初はあんなに痛くて辛かったのに、今は後ろだけでよがってイける体になってる。変な話だな、と嘲笑にも似た笑いが漏れて、喘ぎに紛れて音になった。
ふいに律動が止む。ぱっと息が詰まり、数回に分けて呼吸をした。
ぐるりと体位を変えられ、止まった律動に腰を攀る。ルドガーが体位を変えたがるのは、所謂性癖の一種だから慣れた。息を整えてからルドガーを見上げる。普段から想像出来ないくらいに息の上がるルドガーは、正直好きだ。汗も滅多にかかない男なのに、今はそれが当たり前の顔で汗をかいてる。その光景にぞくりとした。
早くイきたくて、急かすように腰を緩く動かして、ルドガーの首に腕を回して引き寄せる。
抵抗なく寄ったルドガーの肩に額を寄せて、瞼を閉じた。
「なァー、ルドガー」
「……なんだ」
「俺、アンタ好きだぜ?本当、マジで。今までシて来た奴と比べられねェくらいアンタ好きだ」
「そうか」
信じてなさそうな声色。デスヨネ。俺自身あんまり自信ないから、この言葉。
けど、あの時よりずっとルドガーとのセックスがイイのは事実なんだよな。ルドガー見上げると、胸が跳ね上がるし。
何より抱きしめられても、キスされても、憎悪どころか嬉しいんだよな。これ、死んだからだと思ったけど関係ない?自分じゃわからねェや。
背中をぐっと机に押し付けられて、律動が再び始まる。いきなり始まったから、ひ、と情けない声が漏れた。
このままシてると、確実に背中擦り切れるけどまあいいか。
あー…でもあれだな、もし俺がアイツらに掘られてなかったら、ルドガーは俺のこの感情を好意だとして受け取ってくれるのかもな。俺、もう清純じゃないからな。後ろでイけるとかもう普通じゃないか。
抱き着いていた腕の力が緩まって、そのまま律動に乗じて腕を机に下ろしていく。額に張り付く髪の毛を払って、机に爪を立てた。
普通に挿抜が繰り返されていた動きの中で、ぐり、と前立腺を押されて体がしなる。
咄嗟に伸びた掌で、腰に添えられたルドガーの腕を掴むと、意地悪に律動が早まった。
「なぁっ、ルドガー…ぅ、ああッ…イく…」
「…ッ…そうか」
「…あ、んたも…も、イくッ…?」
見上げて聞けば、腕を引かれて無理矢理に体を折った体制でキスされる。息がしづらい体制の中で、呼吸を遮られて非難めいた悲鳴が漏れた。
慰めるように頭を撫でられ、肩に回した手で爪を立てる。
そのまま早く深い律動を繰り返され、キスしたままイった。鼻に掛かった声が漏れて、瞼をぎゅ、と閉じる。続けて中に出された。その頃にはもう、肩に爪を立てる元気すらない。下ろした手は机にぶつかった。
そこで漸く唇が離れ、呼吸が出来る。勢いよく空気を吸い込むと、軽く噎せた。気にしないように中に入れていたモノを抜き去るルドガーを睨んで、机に座り込む。ぐずぐずと中から溢れる白濁に、鳥肌が立った。
早々に身支度をするルドガーを、机の上で眺めていると、くるりと振り返えられる。そういえば、この間「事後の静かな様子はまだ可愛い」と言われた気がする。疲れてるから喋りたくないだけだけど。
「もう泣くな」
「……?」
言って、ルドガーは服を着始める。はあ?と首を傾げて、目尻に触れてみた。確かに濡れていたが、汗のような気もする。
着替え終わったルドガーが、俺の目尻に触れた。優しい手つきなので、首を傾げる。すると抱きしめられた。
珍しい行動に唖然としていれば、頭を撫でられる。白昼夢でも見ているような気分だ。
「わざわざトラウマを掘り起こす必要はないだろう」
「……何言ってんだよ?」
「毎回泣いているぞ」
ぽんぽん。背中を優しく叩き、ルドガーは離れる。踵を返して、ルドガーはもう何も言わずに部屋を出て行った。
ひらひら揺れるマントを眺めるのは毎回の事で、もう慣れている。けれど、事後に抱きしめられたのも、泣いている事を教えられたのも初めてだった。
暫し呆けた後、もう一度目尻に触れる。確認するように昔の事を思い出すが、何も感じない。
だってもう随分と前の事だ。日時が最近の話であっても、感覚としては随分と昔の。
目尻に触れると、ボロボロと涙は溢れていた。
***
目茶苦茶でサーセン。
マワされた鬼柳君は、精神は死ぬまで犯された事で崩壊。気にしない域に達したけど、身体的にはまだまだ苦痛。
しかもルドガーが好きだからこそ余計に苦痛。
まあ書いてて自分でもよくわからない感じになりました←
ちなみにルド鬼が一番好きです。
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