遊→←京前提。鬼柳に片思いしているゾーン(若)が遊星のフリする話



*



「遊星、なんでヘルメット外さないんだ?」

昼下がりの湾岸道は人も車も少ない。時折通る車はそれなりにスピードを出していたし、湾岸道を少し外れた場所にある小さな殺風景の臨海公園になんて誰も訪れはしなかった。
先程から他愛のない話をしては、京介は手元にあるプラスチックの容器に入ったジュースを付いているストローで掻き回している。落ち着かないという様子が、ゾーンにはよく伝わった。
その飲料は先程通りにあった売店で買った物で、京介はゾーンの、遊星の奢りであるそれを大事に少しずつ飲んでいる。

「すまない、嫌だろうか?」

「いや構わないけどな。ちょっと落ち着かねぇかなぁ」

例えば何か遠くで騒ぎがあって、それが聞こえてきたら。そうしたら遊星は今傍らで引いているDホイールに跨がり、京介へ一言謝罪をして様子を見に行ってしまうだろう。予備のヘルメットを遊星は持っていないし、何より自分が面倒に顔を突っ込む事は厭わなくとも友人がそれをするのは心配するのだから、京介を連れていくなぞしやしない。この平和な空気の流れる公園へ京介を置いて行くのはなんら迷わず出来る行為だ。
考えるが京介はそれは口には出さない。止めておく。遊星は意味のない事はしないし、その内外すだろう。何より考えたような行為が起こったとしたって、それが遊星という人間で、京介はそんな遊星が好きなのだから。

「……遊星?」

ゾーンは、自らの目を覗き込もうとする京介にたじろいだ。視力が伴っているのか不安になってしまうくらいに透き通った京介の瞳は、液晶でデータベースにある資料見たその写真の物よりも数段に綺麗である。それを縁取る睫毛は長く、頭髪は手入れをしていないだろうに身動きに合わせて艶のある良い香りのするそれに相応しくさらりと綺麗な音を立てた。
自然と動いた指先を叱咤せず、そのまま、ゾーンは京介のその髪の毛へ指先を差し込む。恋人のするそれのように優しく優しく、壊れ物を扱うように梳くと、一瞬心地良さそうに目を細めた京介はすぐさま気付いたようにボンッと顔を赤くした。

「ゆっ、ゆーっせ?」

何を、と困惑して身を話そうとする腰へ腕を回して抱き寄せる。困惑、混乱、羞恥、それらは伺えようと拒絶が含まれていない事がよく伝わった。それどころか手中にある、ゾーン…遊星から貰ったジュースを落とさないようにと握りしめている。そういう何気ない仕種が、ゾーンは愛しく思えてしまうのだ。
ぐと抱き寄せる腕に力を込めて、息が触れ合う程に身を寄せる。心音がバクバクと騒がしい京介の胸元が自らの胸元に重なり、ゾーンは愛しくて堪らなくなってしまった。何故今こうして自らを見上げる鬼柳京介と言う人間はこの時代の人間で、不動遊星に恋をしているのか。悲しくて堪らない、自らを不動遊星と信じて疑わないその目線が、自分を見ている筈が通り過ぎて遥か遠くて向かっている。
自分があの英雄に如何に近付け、そして如何に不完全なのかが頭を殴打するように知らされてしまう。ゾーンには胸が痛むのをただやり過ごすしかない。

「ゆ、」

また英雄の名を呼ぼうとするその愛しい人間の視界を、掌で覆った。成されるまま、不動遊星の行動を信じる京介は次の行動をそっと息を潜めて待っている。
ゾーンはそうして片手で後頭部からヘルメットを掴むようにして、自らを立派に不動遊星と仕立てあげてくれる一部分である赤いヘルメットを外した。
そのまま、誰も居やしない周囲を確認して、そうして視界を閉ざしたままの京介の唇へ自らのそれを重ねる。胸の前で身構えるようにパーを作っていた京介の片方の掌と、未だ大事に持たれているジュースの容器少しばかり力を込め、くっと握られた。ぱこ、と、容器のへこむ音がする。

「京介、好きだ、愛してる」

「…ゆ、せ」

触れるだけを数秒行った唇を離して、呟く。掌で隠された目元だか、その部分以外の顔は真っ赤だ。わなわなと震える唇に、高鳴る心音。俺も、と、そう呟くのを見送ってゾーンは、遊星は、噛み付くように京介の唇へキスをした。











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