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※性的描写有




俺と鬼柳は付き合っていた。互いに恋して愛して、好きだと言い合って「付き合おう」だなんてどちらからともなく言って頷いて、性別や世間なんか気にせず汚いあの場所で純粋なフリをしてキスをした。
男同士という事の異常さはよく分かっている。女の少ないサテライト内で男が性処理という行為でその代わりに使われる事はあれど、心から愛する対象にするという事はまた別だった。だが俺は、鬼柳を心から愛していた。男だとか女だとかではない、鬼柳という人間が好きだ。
鬼柳はの魅力は言い切れないくらいにある。リーダーとして明るく努める姿も、陰りのある雰囲気も、なんて事ない気配りも。仕種一つ一つが輝いているようだった。


「セックスしなくても愛が伝わるって事言いたいんだろ、遊星は。分かるけどだからしないっていうのは話がまた別だと思うよ」

鬼柳はそう言うが、鬼柳を掻き抱いて貪るようにセックスをしてしまった途端に性欲目当てだった気分がしてしまいそうでならなかった。いや、そんなつもりは一切ない、だが、抱いて良いなら目茶苦茶にしたかった、気が済むまで鬼柳をベッドに押し付けて鬼柳の綺麗な声が枯れるくらいになかせて、その声で俺の名前だけを呼んで、金色の瞳に俺だけを写して欲しい。それはとことん至福でとことん醜いだろう。
愛している、鬼柳の魂に恋をしている。だが誰か見たら、聞いたら、体目当てに見えるし聞こえる筈だ。

「誰が見て誰が聞くんだよ、遊星」

子供に言い聞かせるように、鬼柳は笑う。肩を子供にするように撫でて、頭もついでとばかりに撫でた。





鬼柳は幼い頃からセキュリティの人間相手に商売をして来ていたらしい。体を売る仕事のそれは、サテライトの住人よりセキュリティの人間が相手である方が羽振りも良く、妙な病気をうつされる可能性も低いのだと言う。

「俺得意な事無いだろ?不器用だし、集中力もないしな」

他に仕事なんてないのだと鬼柳は言った。鬼柳がそういう仕事をしていたと知っているのはチームメイトでは俺だけである。わざわざ言う話ではないからだ。そう鬼柳がそういう商売をしていたと俺が知ったのは偶然である、というより、鬼柳と初めて会った時はその商売のすぐ後の場面だった。路地裏で座り込む細身の青年は震えていて、病気かと薄暗いそこへ歩を進めた。そこには沢山の金らしき紙切れと赤と白の液体が散らばっていて、その中に座り込んだ青年は、鬼柳は、汚れている筈なのに綺麗に整然としていた。

「あ、だからか?尚更意識しちまうのか、遊星?」

自らの仕事が体を売る事であるから、体目当ての行為に感じてしまうのかと鬼柳は尋ねる。
鬼柳はチームを組んでから商売を止めた。女に似せて長くした髪を肩より短く切り、俺へもうしないと軽い口約束をした。

「確かに汚い体だけどよ」

「っそれは、違う…鬼柳は、綺麗だ…!」

へら、と、鬼柳は笑う。ありがとうと呟いたそれはひどく小さくて消え入ってしまいそうだ。

「じゃあ、しよう」






正直、経験はなかった。サテライトには女が少ないし、まだ年端もいかないと言える年齢であった。だから自分で抜く事以外で快楽を感じた事はないし、キス以上の触れ合いはした事がなかった。

薄暗い部屋で露になる鬼柳の肌は綺麗だった。俺みたいな汚い壁や汚れた紙みたいな黒い肌と違って、サテライトにある物の何かに例えるのが難しいくらいに真っ白だ。触れるとひくんと体が震えて、遊星、と笑みを含んだ、しかし妖艶な声が漏れる。見上げた鬼柳の唇はとてもふっくらとしていて、肌の色と近しいながらにそこだけは血色良く色付いていた。キスがしたくなり、後頭部に手を回して、鬼柳、と名前を呼ぶ。甘んじて触れた唇へ噛み付くようにキスをして、何度も角度を変えた。
上半身を起こしてベッドへ寝る俺の腰へ跨がった鬼柳は、唇を離すと唯一残った俺のシャツを脱がせる。そうすれば二人とも纏う物は一切ない。

「遊星」

「…?」

唇を、鬼柳の細くて長い指先が撫でた。下唇をついついと悪戯に触れて、鬼柳は俺の顔を覗き込む。音になるかならないかの声色で緊張してるか?と尋ねた。
それは勿論だと煩い心音を聞きながら考え、ひとまず頷く。すると鬼柳は俺もだよと笑った。

「俺遊星が本当に好きだ。気持ち良くなってもらいたい、俺、セックスの最中頭真っ白になるかもしれないけど、そしたら遊星の好きにしていいから」

リードしきれるかわからない、と、鬼柳は自分の心臓の位置の肌に触れて苦笑する。もう一度大好きだよと呟いて、鬼柳は俺の額へ触れるだけのキスをした。





遊星、遊星、と、普段であれば何処か痛いのだろうかと思うような声で鬼柳は俺の名前を呼ぶ。いや悲痛な声とは違う、とても甘い声だ。
鬼柳が腰を上げ、落とす度に肌の触れ合うぱんっという音がする。鬼柳の中は熱く、締め付けてきていて入っているだけで頭がくらりとした。女性の体を割開いた事がある訳ではないからなんとも言えないが、排泄器官である部分に飲み込まれた俺の性器の様子が、考えれば考える程に不可思議で、そしてそれに酷く興奮する。
抱かれた鬼柳は女のようにとは言い難く、しかし男らしいとは違う不思議な雰囲気を醸し出していた。性別を感じない、考えさせない、ああ今抱いているのは鬼柳なのだと思える。セックスをしてしまったら、何か手放してしまう気がしていたが杞憂だった。胸一杯の幸せに暖かくなる感覚がする、鬼柳も同様の気分、だろうか。
額に汗を浮かべた鬼柳が快楽を拾おうと時折突然腰をくゆらせたりする、その度にイッてしまいそうになる。なんとか堪えて額の汗を拭いながら、鬼柳、と、名前を呼んだ。
上げられた顔は、頬が赤く上気して瞳が潤んでいる。吐く息は短く早い、ゆうせい、と愛しさや快楽や泣きそうな声が混じったそれになんだか頭がかあっとなった。怒りという意味合いでなく、近しくもあったが、どうしても鬼柳の唇を奪いたくなる。
抱き抱えるように鬼柳の体を引き寄せ、唇へ自らのそれを重ねる。荒い吐息を無視して唇を割開き、舌を割り込ませた。縮こまった鬼柳の舌を絡み取って、舐め上げるように触れ合う。
動きを止めてしまった鬼柳の腰を掴み、前後へ引き寄せたりとくゆらせると、良い所に当たったのか鬼柳の体がびくんと跳ねた。瞬間、中がきゅうっと締め付けられてなんとか堪えていた快楽の蟠りが内側から破裂するのを感じた、目の前が真っ白になりそうな程の快楽に達してしまう。
びくんと跳ねる性器が鬼柳の中で震えて、白濁を注ぎ込む様子が鮮明に浮かんだ。ようやっと唇を離し、鬼柳、と名前を呼ぶととろんとした虚ろな瞳が俺を見上げる。

「ぁ、い、った?」

「ッ……ああ」

腹の上へ手を置き、鬼柳はわかっているのかいないのか、頷く。どろりと結合部から白濁が漏れ、鬼柳は体を震わせながら良かったと呟いた。それを見届けて意味合いは通じているようだと思う。
それから腹部に置かれたその掌を、俺の掌へ乗せた。ふるふると唇が開かれる。

「ゆ、せ、俺も、も、イきたい…」

そう言われ、俺は鬼柳の掌はそのままに鬼柳の性器へ手を運んだ。


体が繋がっているからだろうか、よくわからないが、酷く安心する。何もかも繋がっていて、以心伝心出来てるような気がした。
鬼柳の何もかもが分かって、鬼柳も俺の何もかもが分かっていて、二人でならなんでも出来るような気がする。
確かにこれは不毛だった。俺が鬼柳の中へ注いだ精液はただの液体以下の存在に成り下がっている、何にも成りしない。それでもそうして体の一部を鬼柳の中へぶちまける事が何か酷く幸せで、何かとても大切で、どうにも何よりも愛を伝えられたような気がした。





***



(ャォィ>(^^)








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