ポッポタイムの人達と鬼柳
ハブは良くないよって話


*


その日、サテライトは土砂降りの雨という天候に見舞われていた。地区制覇が波に乗って来ていた京介はションボリとしながら窓枠に寄り掛かる。

「体なまっちまうなぁ…な、遊星?」

「そうだな」

とは言うも振り返った遊星はデュエルディスクの改良をしており、そしてそれはいつも通りの姿だった。遊星は京介とは違い血の気盛んではない、気の利く男であったから良い返事をしたまでである。京介もそれくらいは理解出来ているので、控え目に肩を竦めるとクロウに話を振った。

「鉄砲弾さん的にはどうだよ、ジメジメで湿気っちまうだろ」

「そーだなー…」

考える素振りを見せて、デッキ調整をしながらクロウは窓の外を見る。ざぁあと、まさしくバケツをひっくり返したような屋外は世界の色が滲んでしまっていた。

「マーサん所、大丈夫だといいけどな」

「……」

会話のキャッチボールしようぜ、と、京介はミットに見立てた手の平を二三振って肩を落とす。
何も雨で暇だから暇潰しに会話したいという訳ではない。ただ京介はこの幼なじみという強い絆に結ばれている三人に上手く溶け込みたかった。

「ジャックはどーだよ」

「…まあ確かにそうだな」

「だよな…!」

「いや、マーサ達が多少気になるという話だ」

「んだよ…」

第一俺その孤児院の近くにすら行った事ないからわかんねーしなと京介は肩を竦める。話を盛り上がらせようもなかった。地区制覇で苟且にも距離を縮められるのが、京介の楽しみである。しかしそれができないのであればせめて、会話の中心くらいにはなりたかった。

「そーいえば、雨漏りしてたよな2階の部屋」

一枚カードを片手にクロウがぽつりと言う。遊星はデュエルディスクをいじる手を止め、ああ、と思い出すように頷く。ジャックは首を傾げているので、どうやら覚えているのは二人だけらしい。京介はそれを、ただ眺めていた。

「確かそうだったな」

「まだ雨漏りしてたりしてな」

「何年も前の話だろう。なあジャック」

「…覚えていない」

その一言に、クロウが「マジかよ」と笑う。何がだとばかりに眉根を潜めるジャックへ遊星も「本当か?」と尋ねる始末。その意味ありげな行為にジャックは更に眉根を寄せる。

「だから何がだ」

「だってお前、あの部屋でよ…うっ、くはははは!!駄目だって、遊星、言ってやれって!」

「いやクロウ、流石に…覚えていないなら思い出すべきでは…っ」

「だから何がだ!!」

笑い出してしまったクロウと、笑ってしまいそうな遊星。それに苛立ってしまっているジャック。
それを見遣り、何かぽつんと取り残された気分の京介は、なんともなしに床に座り込んだ。普段なら遊星も気を利かせるんだけどなと考え、しかしそれは俺が「話に混ぜろよ」とばかりの態度にいるからかなと、そうぼんやりと考える。
多少なら大丈夫だった。しかしこういう、確固たる絆を感じる話は、駄目だった。くじけてしまう。この盛り上がった空気に水を差すように粗筋を聞くのは、なんだか無粋だろう。
楽しそうに取っ組みを始めるクロウとジャックをただ眺めていた。
孤島に一人取り残された気分だ。遠くに見える船へ手を振るやる気すら起きない。胸が鷲掴みにされているような、そんな不快感を京介は感じていた。







「調子はどうなんだ、鬼柳」

「そりゃ俺の台詞だって、どーだよ調子」

その日のポッポタイムは普段より少しばかり賑やかだった。遊星が京介を救いにクラッシュタウンという名の町へ向かったあの日から約一ヶ月。
WRGPの予選一回戦を勝ち抜いた事を祝いに、京介はこの場へ足を運んだ。かつての仲間を歓迎する遊星とジャックとクロウ。それと、ブルーノ。

「まあ、どうともな。好調でいんじゃねーの?」

「そうだね」

テーブルを囲み、京介の持ち寄った茶菓子を食べながら座談会を行っていた。近状報告が主である。

「鬼柳は?」

「んー、まあ、好調だな。一応俺がリーダーって事で作業してるよ」

「お前がリーダー?そりゃまた大変だな」

「いやまあ、そーでもないぜ?」

「デュエルディスク爆発はやめておけよ、危険だからな」

「わかってるっつーの!しねーよ!」

それは過去を振り返るような、楽しそうな会話だった。実際京介は程よい充足感を感じている。昔はそりゃ絆の差を感じたが、あれは考え過ぎだったのかもしれない。いや、そうに違いない。

ふと、会話を続けながら右斜めの席に腰掛けるブルーノが、京介の目に止まった。先程から会話のテーマがチームサティスファクションであった為にブルーノからの発言は皆無である。しかし京介が見たブルーノの表情は、発言する人間へ楽しそうに向ける笑顔であった。うんうんと聞き手に回って楽しそうに頷いてはリアクションをしている。

(……そうか…)

あんな風にあるべきだったのか。
胸元を撫でると、冷静な頭と裏腹にバクバクと心臓が煩い。そうか、そうだな、あああるべきだったんだろう。
ブルーノは会話の事、九割方理解してないだろうに。なんだって俺は昔、あんなに。

(……焦ってた、んだな…)

ぽんぽんと胸元を撫でて、京介は話が途切れたところで「そういえば、ブルーノって」と声を掛ける。殆ど初対面である二人であったが、ニッコリとした笑みを向け合っては打ち解ける雰囲気がしていた。



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