CT編後、サテライトに遊びに行く遊星と鬼柳


*


「遊星、久しぶり」

「ああ、久しぶりだな」

本当に久しぶりだった。鬼柳とは暫く会っておらず時折届く手紙だけが鬼柳の事を知れる、そんな状態だった為、元気そうなその姿にはとても安心する。
ネオ童実野シティの一角、WRGP本戦が近々行われるスタジアムがよく見える通りで鬼柳と待ち合わせをした。

「なぁ何処行く?決めてたりするのか?」

「いや、鬼柳の行きたい場所で構わないが」

「ありがとな」

それじゃあ、と鬼柳は思案してみせる。楽しそうに笑顔でするそれは鬼柳らしく、しかし二十歳のそれにしては幼く、愛らしい。
遊園地のチラシを配ってたんだ、やら、ゲームセンターを途中で見掛けた、やら、鬼柳は色々と提案してみる。しかしそれに行きたいとは言わないので「決まらないのか?」とまるで親みたいに尋ねた。

「あ、いや、悪ィ…」

「別に謝る必要はないさ」

「違う、違うんだ、実はもう決まってる」

ただちょっと恋人みたいだったろう。鬼柳はそう照れ臭そうに笑って、俺は微笑ましいそれに「そうだな」と返した。鬼柳は満面の笑みでもって俺へありがとうと呟き、そしてその決まっている場所を告げる。

「チームサティスファクションのアジトを見に行きたい」






過去サテライトと呼ばれていたその地区は、今やシティと呼ばれていた場所となんら変わらぬ姿をしていた。清潔感を感じる道に、新しい建物。此処は何処であったかと俺は目を瞬かせてしまう。それは鬼柳も同様だったようだ。

「あそこボーリング場跡地だったのになぁ」

「そうだな」

「カフェになったのか…あ、なあ、寄ってくか?」

「鬼柳がそうしたいなら」

「んー…いいや」

その場所にはバスが通っていた。料金は取らぬ使用で、どうにもサテライトであったその場所へ偏見を持つ人間を減らそうとする試みを感じる。
歩くと距離があるからと鬼柳はそう言い、嬉しそうにバスへ乗った。バスに乗った事ないんだと鬼柳は笑い、俺もそうはないと言えばまたも嬉しそうにそうかと頷く。鬼柳の頭を撫でると、安心しきったように肩の力を抜いて見せる。以前からの癖だ。

窓から見る左側の町並みは見覚えのない光景だったが、右側の湾岸から覗く海の景色はそう変わらないものである。暫く眺めれば、鬼柳も気付いたのか俺の膝へ手を置いて身を乗り出し、その景色をじいと眺めた。

「懐かしいな」

「ああ」

「バスなんて無かったけどな」

「そうだな…」

「こんなバスなきゃ移動が面倒なくらい広い場所、制覇したって持て余すよなぁ」

「鬼柳」

「冗談だよ」

乗り出していた身を引き、ボスンと薄いクッション素材の背もたれへ寄り掛かる。鬼柳はそうしてからかくんと首を傾けて左側の町並みへ目を移した。
綺麗になったなぁ、そうとだけ呟き、じいと鬼柳はただ外を眺めている。俺も眺めるがやはりそこには、綺麗な綺麗な町並みが広がっていた。





「あーあー」

「……これは…」

三つ目の停留所でバスから降りて海沿いに数分歩き、辿り着いたその場所には、何も無かった。取り壊された後である。場所柄から新しい建物予定はないようだ。
そこには情け程度に瓦礫と建物の形跡が残っているばかり。あーあーと繰り返す鬼柳はその瓦礫を爪先でつんと蹴り、俺を振り返った。

「無くなったな」

「あ、ああ…」

「綺麗だなぁ…ホント」

そこから見える海なのか、町並みなのか、もしくは何も無くなったその場所なのか。何が綺麗なのか、聞かなくともなんとなくには伝わった。恐らく全部だろう。

「シティの人間もセキュリティの人間も協力して、サテライトだった場所を綺麗にしてくれてんだな」

「…鬼柳」

「でもあの頃ってほら、全部汚かっただろ?だから全部なんだな…まあこれでいいんだよな、多分」

「……そう、だな」

「…何だよその顔、泣くなよ?」

「…、……大丈夫だ」

俺の顔を笑う鬼柳は、それこそ泣いているような顔をしていた。



*



 






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