長編前の話
鬼柳町長に惚れる手前のラモンさん



*



これからどうすればいいのだろうか。まるで俺達は関係がなかったかのように、バーバラとロットン以外には怖いくらいにセキュリティからのお咎めはなかった。
治安維持局の人間らに先導され、町に戻った俺を含む鉱山の連中らはまず死神と呼ばれていた人間の、満面な笑みを視界に入れた事だろう。怖いくらいの笑みだ。かつての仲間と話しているらしい彼は、生きる人間の顔をしている。荒れた町に佇むその姿はただの人間、一人の青年だ。

(…俺はあんな奴に、人殺しさせてたのか)

ただただ遠目にぼんやりと眺める。あんな普通の人間に、俺は。あんな環境の酷い鉱山に何人もの人間を送らせていたのか。
なんだかあまりピンとこなかった。自分がしていた事が、よくわからない。

「これから、この町の復興作業をします」

治安維持局から派遣されたのだろう、律儀そうな男性が資料を読み上げる。此処へ到着してから即座に考え、話が決まったのだろう、これからの行動を治安維持局のその男性は述べた。
数十人との人間はそれを聞き、聞いているのかいないのかわからないながらに反応を示す。
此処で逆らうような奴は居ない。皆、鉱山での労働を強いられていた人間だ。そうでなくとも大量のセキュリティが控えた町中である、野心があろうと暫くは大人しい筈だ。

「それから、ラモングループの総帥、居るか?」

唐突に呼ばれ、一旦間を開けてからキョトンとして顔を上げる。なんだっていうんだ。これまた嫌味ったらしい呼び名で呼ぶもんだ。

「救世主さんが話があるらしい」

「……?」

誰だそりゃ。偉く真面目な表情で言われ、思わず顔をしかめながら首を傾げてしまう。すると男性は、一直線に指をさした。
その先にはかつて死神と呼ばれた男がいる、鬼柳京介、先生と呼び用心棒に仕立てあげた際に渡した黒いコートは健在だが、あの頃のようには不健康そうに見えない。仲間達と楽しそうに話す姿は俺には不自然にしか見えない、誰だあれはと、ただそれだけだ。
教えてくれたその男に一礼して、そのまま脇を抜けて先生の方へ歩いて行く。暫く歩き、先生の顔もよく見えるなくらいの程度まで行くと気づいたように顔を上げた先生と目が合った。少しばかり間を空けて、しかし行動に移してからはすぐこちらに走り寄る。だっと音をたてて先生は俺に駆け寄った。

「ラモン…!」

「…な、ん…です、か」

怒っているような口調で寄られ、思わずタメ口でもきいてやろうかと思った口はつい敬語を漏らす。
こんな表情も出来るのか。じいと眉根を下げた青年を見下ろせば、先生はがくっと頭を垂れた。

「悪かった」

「……は」

はっきりとした口調で、先生は言った。謝罪の言葉であると気付くのにそう時間は要らない、すぐに理解して、何がだと呆れる。何か謝られる事があった、というか、今更何を言うのか。いや、むしろ何故あんたが謝るのか。

「俺はお前を利用してた」

「……そりゃ、俺の台詞なんですがね」

「死にたいからと、沢山の人間を殺して、間接的にお前を…人殺しに、した」

言ってる事が酷くちんぷんかんぷんだ。それは俺がこの青年にした事だろう、富が欲しいからと沢山の人間をこんな貧弱な青年に人殺しになるまで働かせて、いやまあ何も罪悪感もないが。…ゼロと言ったら嘘になるか、しかしその罪を償いたいとは思えない。この青年に、同じように謝罪するつもりにもなれなかった。


「お前が、捕まらなくて、良かった」

「何を言ってるんですか」

「頼みがあるんだ、大切な」

「何が、」

「町を立て直したいんだ、手伝ってくれ」

偉く真剣な顔で言われた。真っ直ぐに、目の中まで見透かされてんじゃないかってくらいに覗き込まれて、たじろぎたかった。けれど怖いくらいに透き通ったその黄色の目を眺めてしまうと、どうにも視線を反らせない。そのまま手を差し出され、ようやっと視線を外せる。手の平へ目を遣ると再び先生は言った。

「誰よりも先に、言いたかったんだ」

「…俺は」

「人殺しの罪は、一生拭えない」

「…そりゃそうでしょうよ」

「でも償う事は一生出来るんだ」

差し出した手で、下げていた俺の手を無理に掴むと先生は頭を下げたまま俺の手を握り締めた。痛いくらいだと顔を上げれば、青年とは言い難いくらいに気持ち悪い程に病的に細い首筋が見える。こんな人間が、人を殺した罪を償おうとしている、考えて頭がぐらっとした。
こんな青年が、沢山の人間を殺して、それを他人の分まで思い悩んで、だ?馬鹿か。




 






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