8








ダークシグナーとなって一年、鬼柳京介は凄まじい順応性を披露してみせた。まず、自分の命日に花を要求するくらいには不可思議な行動をするのだった。
彼が独房で事切れた春のその日が、カレンダー上で一年を巡りやって来たのである。鬼柳はそれを知り、何を言うかと思えば花をくれと、そう言った。
何をするのかとルドガーが聞けば、鬼柳は言い淀むという可きか勿体振るという可きか「供えるんだよ」、そう当たり前のように笑いながら言って見せる。何にか、とは流石に聞きはしなかった。自分自身にだろう。
勿論、旧モーメント内に花など無い。その日鬼柳はダークシグナーになってからというもの、初めてその言葉を口にしたのだ。

「ルドガー、外に出たいんだけど。どーすりゃいい?」

その言葉を聞いたルドガーはと言えば、珍しいなと思うばかりである。しかし一応は考えてみる素振りをたてまえて見せた。
無論、鬼柳自身があまりにダークシグナーとしてなってはいない行動をするでもない限り、旧モーメントから外へ行く事に異論はない。
ミスティなんかは逆に此処へ顔を出す機会がないくらいだし、ディマクにも外での役目がありよく外出をする。ルドガーですら用件があれば時折外へと足を運んだ。なのでダークシグナーの中で頑なにもアジトへ篭りきりなのは鬼柳だだ一人である。
行けばいい、と、そうルドガーが促せば、鬼柳は頷いて外へと向かった。そう難しい話ではない、ただ広間から廊下に出て突き当たりにある昇降機に乗るだけだ。それだけで外へ出れる。
ただ数時間も歩けば鬼柳のかつてのアジトがあるのが少しばかり気になる。セキュリティ、サテライト支部が遠いのはまだ良いのだが。
ルドガーがこう人に気をかけるのも珍しかった。しかし此処数ヶ月、鬼柳との接触は人とのコミュニティを重視しないルドガーには本当に珍しいくらいに多いものである。いや重視しないからこそなのかもしれなかった。
鬼柳に対してのルドガーの態度はおおよそ良いとは言えない。俗に言えば、冷たい、というそれだ。鬼柳はそれを受け、尚ルドガーへ接触を図る。そしてルドガーはまた冷たい態度を取った。ある意味自然体なのだろう。だからこそルドガーは鬼柳との接触を成り立たせていた。そこに友情や愛情がないのは、本人からすれば当たり前ではあるのだが。

それにしても花か、と、ルドガーは笑ってしまう。まさか自身へ花を送るとは。考えた事などありはしなかった。
春だというのに風の冷たい昼下がり、光のない独房で彼は死んだのである。くたりとした首筋には青痣がくっきりと浮かび、傷口は壊死して色を失っていた。あまり良い死に様ではなかった、直接の原因はない、まだ頭を打って死ぬくらいが良かっただろう。少しずつ少しずつ、体が力を無くす。ルドガーに想像は出来はしなかった。
そんな自分へ花を遣る。鬼柳は思い付きで何かをしたがる奴だった。考えては行動に移さなくては気が済まない、いや、満足出来ない、か。サテライト制覇なんてまさしくそれの延長線上なのだろう。


数時間後、昇降機からふらりふらりと降りて帰って来た鬼柳は両手一杯に花を抱えていた。花に詳しくないルドガーであった為に名前はわからない花ばかりだったが、それが道端なんかに生えている野花ばかりである事くらいは分かる。ご丁寧にくすんだ紙で根本の包まれているそれを、鬼柳は大事そうに抱えていた。
まさかあれをせっせと摘んで来たのだろうか。目深に被ったフードの合間から眺める。鬼柳はその野花達をルドガーの向かう広いテーブルへとぶちまけた。
ルドガーへの献身的態度の深い、そして鬼柳へ人一倍厳しいディマクが今此処に居たらきっと鬼柳は床に平伏す勢いで殴られているだろう。
腕を組むその体制のままルドガーはバラバラに散ってしまった花達を見遣る。それから鬼柳を見上げた、鬼柳は泣いていた。

「なんだ」

ぐす、と、鬼柳は泣き声を上げる。かつかつ、底の高い仕様になった自身の靴底の音を立てながらこちらへ歩いて来た。勢い良く落ちていく涙をなんともなしに目線で追い、そういえば泣くのは初めてではなかったなとルドガーはぼんやりと考える。
かつ、と、ルドガーの前で立ち止まった鬼柳を見遣ると涙を溢れ出させる瞳がよく伺えた。涙に濡れた瞳はまるで水を張った硝子細工のカップ、それを覗き込んでいるようである。金色が限りなく黒く汚れていた。

「そなえて、あった」

「……それがか」

「アジト、の、へやに」

ボロボロと涙が落ちる。水漏れという言葉がやけに似合うくらい、涙が無遠慮に落ちていく。
鬼柳は手近にあった野花を一つ手に取り、茎の部分を握り締めると唇をきつく噛んで、きゅう、と喉を鳴らしてしゃがみ込んだ。
押し殺した呻き声と、鼻を啜る音が聞こえる。見遣った野花は種類が疎らである事がわかった。
地面からむしり取ったらしい根元。それから、根元を纏めてある紙には基礎は整っていないながらも綺麗にと努めたらしい、鬼柳、という文字が書かれていた。

(過去のアジトに行ったのか…)

いやそれより。ルドガーはうずくまる鬼柳を見下ろす。
漸くダークシグナーとして安定したというのに、また戻ってしまった。
どうやら鬼柳の過去のアジトに、過去のメンバーの誰かしらが彼の死の一年の経過に合わせて花を供えたようである。ジャック・アトラスはとうにシティへと渡った、彼ではない。いやこんな真面目な真似をするのは不動遊星しかいないだろう。もう一人のメンバーであった少年は人情はあれどカレンダーに丸を付ける人間ではなかった。
というのも、ルドガーは過去鬼柳の元チームメイトを調べた事があったのだ。なんて事はない、仲間内の情報は把握しようという、それだけの事である。ミスティやディマクの身の回りの事だってルドガーは把握していた。
ともかく、鬼柳は過去のメンバーからの思いもよらぬ施しに精神が揺らいでいる。しかし何より冷静でいられたのは、鬼柳がわざわざ此処まで帰って来たという事だ。旧モーメント内でなら泣く、外では堪える、自制が出来ているという事はダークシグナーとしては上々である。

「俺、は、死んだよ…な?」

「ああ。そしてダークシグナーになったな」

「……俺、こんな…んなに…花、貰って…」

釣り糸の狂った操り人形。実にしっくりと来る比喩だ。狂い様を見せて揺れるバランスの悪い、人形。
精神と身体が合っていないのだろう。がくがくと絶望に震える顔は愉悦のそれだった。何が楽しいのか、何が悲しいのか。

――実に面倒臭い事をしてくれたものだ。

生への願望、憎むべき相手への希望、それらが溢れ出ている。ああ、面倒臭い。
死した人間、それに、一年も前の存在。チームが散り散りになったのは、ロクな内容での反発ではなかった筈だ。気まぐれか、責任か。何も良い想いからの花ではない。
鬼柳とてそれくらい分かりきって…いや、少しぐらいは思考に過ぎった筈だ。都合良く考えて都合良く思って、そうして先に何か良い事があるだろうか。存在している筈はないだろうに。

「鬼柳」

「ぁ、」

びく、と、肩が跳ねる。握り締めた花の茎がぶちりと捩切れて落ちた。手から落ちるその花を見下ろし、ルドガーは思う。如何にすれば鬼柳がダークシグナーとして持ち直せるか、そして同時に、何故自分自身がこうも一人の一つの駒へ躍起になるのか。
探ればすぐに見付かるだろう理由だった、だが認めたくはなかった。殆ど見えているその探し物を見て見ぬふりをして、ルドガーは何が理由かと代わりを考える。そう、彼は地縛神に良く好かれていた、だから地縛神を愛する自身がそれを汲んでいるだけだ、と、言い訳のように精算を付けた。

一通りの思考を終えたルドガーは立ち上がり、そしてしゃがみ込んでいる鬼柳の前へと膝を着く。こちらに気付き顔を上げて跳ねた前髪を一撫で、ルドガーはそのまま華奢というよりは貧弱という言葉の似合う青白い鬼柳の身体を抱きしめた。

「生前に貴様が、不動遊星にされた事はなんだ」

「…う、ぁ」

「言ってみろ」

ぎゅうと縮こまったままの鬼柳は震える。かたかたと震えるその肩を、まるで恋人にするように撫でて遣った。
見付からない、見付けていない、見付けてはならない真の理由がちらと垣間見えるのを鬱陶しそうにルドガーは笑う。誰かを愛する言われも理由も権利もない。笑みが嘲笑に変わる。

「…覚えていないのか?」

ぐ、と、寄ったルドガーの唇が鬼柳の耳元に付く。ぐしゃり脳髄まで侵すような絶対的な、冷たい声色に鬼柳は言葉を無くした。冷え切る自らの体温と引く血の気に目を見開きながら、必死にひたすら首を縦へ振る。
ダークシグナーとして順応しきった鬼柳と、今現在の不安定な鬼柳とでは精神状態が違った。ダークシグナーである事を拒否する事は、つまりはある筈のない死を怖れる気のある精神という事である。彼にとって死の象徴とも言えるルドガーの存在は、少なからず鬼柳には良き相手ではなかった。
ルドガーは予想出来ていた鬼柳の不安定なそれに、そうか、と至極優しい声を返した。それは弱者にすれば一層に恐ろしい。鬼柳は無意識に息を潜めた。

「貴様を死に追い遣ったのは、不動遊星だろう」

丁寧に、一字一句を聞き逃さないようにとルドガーは鬼柳へ教える。鬼柳はただ震えながらそれを聞いていた。
そうして全てを丁寧に説明して遣ったルドガーは、鬼柳の体を引き離す。肩を掴み、向かい合い、いつの間にか黒い色の消えてしまった眼球を覗き込んだ。光の無い瞳に涙は見えないので、最早涙まで涸れたかとルドガーは考える。

「花を供えたのも、気まぐれだ」

「…んな訳…」

「では罪悪感からだな。罪の意識から、逃れたかったのだろう」

思い当たる節はいくらでもあったろう、鬼柳は息を詰めた。元々そうも頭の悪い輩ではない、多々の憶測が頭にあった筈である。ただそれを受け入れたくなかっただけだ。

「だが私は、違う」

「なに、が」

「全てだ」

震える唇は健康を気遣わぬ男であった為に、痛々しく荒れていた。そのくせ眼球を囲う睫毛が長いのと、それから爪への噛み癖があるのを、ルドガーは何故かよく知っている。何故か、ルドガーはよく鬼柳を見ていた。
噛み癖がある子供は親に構って貰えぬ子によくあるのだと、ルドガーはその時に思い出す。本当に、なんとなくだった。

「貴様に花は遣らん」

「…ぁ」

「しかし裏切りなど、しない」

白く冷たい頬を撫でる。鬼柳は妙に落ち着いたようにそれを受け、眉を下げて瞼を閉じた。
小さく小さく、本当か、と、呟く。あるかなしかの声量を聞き逃さなかったルドガーは肯定の返事を返した。
過去に大切な人間を裏切った。信頼してくれた人間を裏切った。ルドガーはそれを意識に留めている、しかし、嘘なんて容易に吐ける。ルドガーからすれば今さらこの程度の偽り等、いくら言おうと同じだった。
鬼柳は返事を聞いているか、いないか、瞼を閉じたまま黙る。しかし暫くすると口元を弧にして見せた。ゆっくりと開いた眼球は深い黒、くつくつと笑い声が沸く。

「わかった、ああ、大丈夫、わかった」

「……」

「悪ィな、ちょっと鬱入っちまったみたいだ。俺らしくもねー」

「そうか」

「……アンタに着いてくよ」

ヤケに嬉しそうに鬼柳は言う。先程床に落ちてしまった花を踏み付け立ち上がり、そうして卓上にあった沢山の花を、忌ま忌まそうに眺めた。歩み寄り、全てを手で払い退けて床に落とす。それを踵で踏んで、舌打ちをした後にくるりとルドガーへ向き直った。

「…信じるからな」

脅しよりは懇願。睨むというよりは縋るに近い眼差しで鬼柳はルドガーを見詰めた。ああ、と、曇りなく返すルドガーに満足したのか、鬼柳はいつも通りにとびきりの歪んだ笑みを見せる。

ルドガーは、鬼柳が手元へ返った気がしたのを感じた。しかしそれを喜ぼうとする程、ルドガーは自分の感情に正直になろうとはしなかった。










「ラモン、此処はなんだ」

「あ?」

ルドガーという男がサティスファクションタウンに訪れてから2週間が経った。俄然、俺は作業中はルドガーのサポート役である。教えれば一度で覚える男だが、如何せん仕事の多い作業であった為に教える事は多かった。
今現在は鉱山付近へ管理小屋を作る為に木材を運ぶ作業の、休憩中である。ルドガーの尋ねた、此処、というのは休憩がてらに確認していた地図を指す言葉だ。地図上の、鉱山の隣。ぽっかりと空いたそのスペースをルドガーは指で示す。

「アンタ、まだ行ってねぇのか」

「ああ」

「ふーん」

水筒の水を飲みながら、横目でルドガーを見遣った。ルドガーの視線はひたすら地図へ向かっている。はいはい真面目真面目、と、ラモンは肩を竦めた。真面目な奴が一番嫌いだ。
しかし何故か最近はルドガーから接してくるような、と、嫌な思考が巡る。なかった事にしようと首を振り、ああ、とルドガーに提案してみせた。

「今は丁度1時間休憩だからな、見に行くか?」

「……ああ」

鬼柳さんに「色々教えてやってくれ」と言われている事だしな。
座っていた材木から立ち上がり、ぱんぱんとズボンの汚れを落とした。この場所からなら地図にあるその場所は鉱山を外回りせず、坑道を抜ければ往復数十分といったところだろう。
作業員の一人へすぐ戻ると言い残し、坑道の方へと向かった。頭である自分がいなくなるのは少し、とは思ったが俺が居なければ問題を起こすような奴はとっくにこのボランティア団体のようなグループ内にはいない。安心して席を外せた。


薄暗い坑道を暫く歩き、抜ければすぐ見える。とルドガーに離せば、そうか、と短く返事が返った。要所要所にあるランプのみが光源の坑道は暗い。その分、外の明かりはよく目に入る。
ルドガーは無口だ。必要以上には話さない。そういう鉄面皮ぶる態度を取る人間は気に食わない、少し前の鬼柳さんもそうだった。
相手の気持ちを汲んでいないからだ。無口なんてのは相手に退屈させまいとする精神から掛け離れた人間の行う事だ、まあ、お喋り好きが正義とは言えないのだが。

坑道を抜け、外へ出る。分かりきっているが「外だぜ」とルドガーを振り返れば鉄面皮が少し吃驚した顔を見せていたのが見えて、ちょっと良い気分になった。

「此処は…」

「ま、墓地だな」

坑道から簡易に道を作り、集合墓地の形を取っていたその場へ降りやすい仕様にした。
木製の粗雑な十字架が幾つも並ぶ風景。一つ一つにデュエルディスクが掛けてある。その風景を、俺はこの町の名がサティスファクションタウンと改名された後に初めて見たのだ。
それまでは一度も見ようとはしなかった、鉱山での重労働に耐え切れなかった人間の眠る墓地である。
鬼柳さんは近々、此処にも道を作る予定だ。町には家族の者がここに眠る人間が少なくない。
今はただ、亡くなった人間の名前全てを綴った石碑が入口となっている場所に置かれただけだ。墓一つ一つに故人の名前を入れるのは、死んだ途端に乱雑に埋めるだけ埋める仕様だった墓達には不可能だったからだ。

「…この墓達は、なんだ」

訝しそうにルドガーは聞く。確かにこの量や、デュエルディスクを供える様はあまりに普通ではない。更に意味あり気な石碑を見上げ、ルドガーは俺へ向き直った。

「あれ?鬼柳さんに聞いてねーのか?」

「何をだ」

この調子じゃ言っていないようだ。いや、それはそうか。
この大量の墓は、鬼柳さんが山に送った人間らの物だ。
確かに、直接ではなくとも鬼柳さんは人殺しに関与してしまった。それは勿論俺とてそうだ。
だからこそわかるが、何十年も経とうと気軽に話せる話ではない。それも鬼柳さんにすれば、過去に親友であった人間に言わなければならない。それは、出来れば言いたくないだろう。

俺が言っていい事だろうか。

「……まあ、色々あってな」

「そうか」

「今度鬼柳さんに聞きな」

「…ああ」

お決まりの返事達だ。まだ少しの付き合いだが、もう既に聞き飽きたその言葉に苦笑する。
アンタそれ好きだな、と呟くが、ルドガーはなんの事かわからないように首を傾げた。なんでもないと返すと、少しばかり訝しそうに見られる。
しかしすぐ気にならなかったように、ルドガーは墓地の方へと足を運んだ。俺も何ともなしにその後ろを歩く。
ぐるり、墓地を見回したルドガーは「なあ」と声を上げた。

「此処へ誰か、花を供えに来るのか?」

「んあ?」

「花だ。新しいだろう」

言われて見てみる。確かに花が備えてあった。見回せば全ての墓の前に、包まれた花が一輪ずつ置かれている。身近な位置にあるそれを見遣るが、どうにも古い花には見えなかった。
誰がこんな酔狂な事すんのかね。もう一度見渡す墓地、やはり墓の全てに花は供えてある。

「…鬼柳じゃないか?」

「あ?」

「……いや、なんでもない」

考え込むように何で鬼柳さんの名前が出るんだ。自分でも何故かわからない様子のルドガーは少しばかり頭を抱え、しかしすぐに踵を返して坑道へ帰る。
俺は仕方なくその後を追い、ちらと墓地を振り返った。
鬼柳さんなら遣りかねない。あの墓達一つ一つに謝罪を込めながら花を供えるその姿は簡単に想像出来る。罪悪感からだろう、彼らを間接的に自分の精神の解放の為に殺してしまった事の、罪滅ぼし、とか。しかし本当に鬼柳さんなら、あの人は相当忙しい身だろうに、よく時間があったな、という話である。
それとルドガーもルドガーだ。俺は鬼柳さんの事なんて頭を掠めなかった。ぱ、と鬼柳さんが浮かぶとは、やはり親友は違うのか。…羨ましい限りだ。

「花の事も、墓の事とついでに聞いてみろよ」

後ろから話し掛ければ、狭い坑道に声は響く。ルドガーはやはりお決まりの「ああ」という返事を口にした。
最初に比べれば、やはり大分仲良くはなっているのだろうか。返事しない時もあった事だし、と、一人頷く。
というより、立場的にも絡み易いからかルドガーはよく俺に構った。フレンドリーではないからそこまで露骨ではないが、よく酒にも誘われる。仲良くなった、で、良いのか。
ただ、何か少しだけ誰かに重ねられている気がしてならなかった。仲良い人間との関係の延長線を俺で代用しているような、そんな違和感を感じる。
理由は簡単だ。少し会話が弾んだ瞬間のルドガーの様子が、どうにも俺に相応しくない。俺に合わせた空気ではないのだ、何か、違和感がある。それだけだ。本人には勿論言えない訳だ、こんな漠然とした話は。
もしかしたら無くした記憶とも関係あるかもしれない。鬼柳さんとはまた違う、誰か親友や友人と姿が被るのかもしれない、し。

(…鬼柳さんに相談してみるか)

ああ、いい案だ、そうすればまた鬼柳さんと過ごせるしな、と、俺は考えながら気分が良くなった。最近は仕事に加えてルドガーの事で鬼柳さんが忙しい為、あまり腰据えて話せていない。
ルドガーの記憶の事で話がある、そう言えば話込めるだろう。
俺は緩む笑みをそのままに、薄暗い坑道を転ばぬように足元を眺めながら歩いた。





***



ダグナー期、ルドガーが鬼柳さんへの思いをむにゃむにゃにするとかそんな。

ニコ達のパパの墓は多分、庭にあると思われます…書けたら書きます(^ω^)










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