誓う



※性的描写有


ルドガー先生。そう私を呼ぶ彼は、普段物静かであり所謂「優等生」であった。彼は校内で密かな評判のある人物で、実際彼に好意を寄せていた女子生徒は多かっただろう。

彼は良き生徒であり、将来有望であった。離れて暮らしている兄弟を愛していて、一見弱そうに見える彼には強い志もあった。

情けないと思う。本当に情けない。
将来彼が立派な妻を持ち、愛らしい子を愛でている様が簡単に想像出来るというのに。なのに私は彼が一年生で私のクラスの生徒になった時から、確実に惹かれていたようだ。自分の感情に一年の三学期目に初めて気付いた。
私は彼を、鬼柳馨介を好いていた。特別な感情で、だ。
彼は私の生徒であり、同性であった。
ああなんという事だ。純粋に私を尊敬してくれる彼を、私はそういう目で見てしまっている。更に二年生、三年生になるクラス分けで、気付かぬ内に彼が自分のクラスになるように工夫もしていた。

三年生三学期の、春。卒業式。
さようなら先生、ありがとうございました。がくんと頭を下げ、逃げるように去る彼を見たのを最後に、私は自分の気持ちに蓋をした。彼は過去の生徒で、良き生徒だったのだ。もう忘れなくてはならない、ああそうだ、もう忘れよう。

生徒へ教師が恋心を抱く等、許されない。赦されはしないのだ。法律上での断罪、という事ではなく、彼の将来を彼の純白を守るには私はこの恋心を、抹消しなければならない。

だから、もう




あの、と困ったように私を呼ぶ声がする。
ああ少しばかり意識がよそへ行ってしまったようだ。大丈夫だと返し、頭を撫でると馨介はやんわりと笑む。美しいと言い切れるその表情に年甲斐もなく心音が早くなるものだから、ごまかすように彼の額へ口付けを落とした。

鬼柳馨介は私の恋人…と言っていいのだろうか。休日に私の家に招き、ある程度時間を一緒に過ごして愛を囁き合う関係だ。…恋人で、いいのか。

今現在成人である彼は、私と知り合った当時高校生であった。しかも自分の教え子。
その頃の私は新任で、学生時代からの性格もあって真面目そのものだった。だが、私は学生である彼に恋をした。禁忌という次元ではない、あってはならない事だ。
学業に励む為に通学をする真面目な生徒を、教師としての私を望む真剣な生徒を、私はそういう目で見てしまっていたのだ。まだ女子ならばなけなしの示しもあったのかもしれないが、彼は正真正銘の男子である。だが彼は真面目で凛としており、他人を思いやれる素晴らしい性格をしていた。そしてその性格に見合う整った容姿をしていて、正直な話性別等関係なく思えたのだ。

だが彼は生徒であったから、もう忘れようと。そう卒業式の日思ったのがもう何年も前の話になる。

彼に久しぶりに会ったのは先々月の事だった。高校時代の同窓会である。教師として参加はしなくてはならないかと、翌日のくだらない用事を思い浮かべて参加した。のだが、唐突に思い出したのだ。当時恋していた鬼柳馨介の事を。

同窓会の席に現れた彼は当時と何も変わらなかった。いや様々な苦行も乗り越えたのだろう、以前より大人な雰囲気を携えていた。始終彼の事ばかり気になり、落ち着かなかった私は結局、翌日のくだらない用事を口実に同窓会を抜け出す事にし、そこで偶然にも帰るつもりであったらしい彼と会った。

当時と変わらずに抱えている感情はあまりに醜く、どうにかごまかしたかった。だがあまりに彼が深刻な表情をしていたので、私は彼の相談に乗ったのだ。私は醜い。彼と少しでも長くいたかったからと、元教師という立場を有効活用したのだった。





「……さっきから大丈夫ですか?」

「ん?ああ、大丈夫だ。すまないな」

馨介が敬語でない言葉遣いに慣れないようにしながら本当に心配そうに見上げてくるので、私は愛しさに頬を緩めた。その表情が珍しいものだったからか、馨介は一旦驚いて見せてから、しかしすごく嬉しそうに笑った。


今も思い出すと嬉しさでどうにかなりそうだ。同窓会を抜けた後、彼に告白をされた瞬間。あの瞬間を思い出すと嬉しさと同時に酷く不思議な感覚に捕われる。彼は私と同じようにずっと私を思っていたのだと言う。それをきっかけに、私達は付き合った。彼の家族にも私の知人にも、誰にも言ってはいない。隠してはいないが、ただわざわざ話して回る内容ではないからだ。


彼と自宅の寝台の上で、丁寧さを心掛けながら情交をするのはもう何回目ななるだろうか。

大分回数を重ねただろうに今だに緊張した面持ちを見せる彼が愛しくて、震える体を撫でて遣った。愛撫で大分参ってしまったのか、息を何回も吐き出す唇に触れるだけのキスをする。それから上気して赤くなった頬を撫でた。
まだ息の荒い馨介を気遣い、中に入ったままで動かせずにいた自身を馨介は無自覚に締め付ける。激しく揺さ振りたくなり、困って後ろ頭を掻くと、体を丸めてシーツを握り締めていた馨介が私を見上げた。

「…もっ…いいから…、好きに…して…くださっ…」

は、と何回も何回も短く忙しい呼吸をし、馨介はそう言って私に腕を伸ばす。その腕を肩に乗せてやると、着たままであった私のワイシャツを馨介が握り締めた。
……なんでこうも私を煽る言葉ばかりを言うのだろうか。抜けない敬語が拍車を掛け、私の余裕がなくなるのがよく分かった。

「んっ…ふ、ぁ…んッ…ぁ」

「…痛くないか?」

「ぁ…ん…大…丈夫っ…」

ぎしり。寝台が音を立て、その都度上がる馨介の押し殺した嬌声と、余裕のない荒い息。淫猥な空間が、純白の似合う彼に不釣り合いで、少し変態地味た言い回しになるが、興奮する、というやつだ。ぎりりとワイシャツの上から肩口の皮膚に爪を立てて、馨介は小さく喘ぐ。

「んっ…ぁ…あッ…ひ、っあ…」

瞼を閉じて眉根を寄せて身を攀る。その様を見下ろし、頭を撫でた。それから、優しさを意識していた律動をほんの少しだけ早めると驚いたように長い睫毛で縁取られた瞼が開く。

「ひぁあぁっ…ぁっあ…だ、めっ…早…ぃ……っ…!」

そう泣きそうになりながら言い、ぱっと私の肩から手を離すと馨介は私の腰を緩く掴んだ。しかしそれで止めれる訳もなく、咄嗟にした自分の行為に困惑する。それから体制が変わって良い所に当たったのか、馨介は一際高い声を上げて体を完璧に寝台へ落とし、両手はシーツを握り締めた。

「ふっ……ぅ、…だめっ…ゃ…だ…!……きもちいっ……せんせっ……」

「っ…」

先を懇願するよう馨介は私を見上げる。早く絶頂を促してやりたい、が、先程から譫言のように呼ばれる名前に私は違和感以上の感情を感じていた。

もう一度嬌声混じりに呼ばれ、私はついに律動を止める。押し殺した嬌声を上げた後、不安そうにゆるゆると私を見上げる馨介を出来るだけ安心させるよう頭を撫でて遣った。こうすると馨介は無自覚にだが、嬉しそうに目を細める。

「……馨介」

「……はい…?」

「何故…私を名前で呼ばないんだ?」

「……あ」

今気付いた、といった様子で馨介は自分の口元を両手で覆った。自覚がないなら仕方ない、性質は悪くはあるが。

きっと馨介の癖なのだと思う。知り合った時は生徒と教師であり、ずっと先生と呼んでいたのだ。仕方ない反応だ。

だが、だ。

馨介と恋人関係になったというのに、先生、と呼ばれてしまうと…酷い罪悪感に苛まれるのだ。分かるだろうかこの感情。先生と呼ばれると、当時私が培った全てを投げ出された気分になる。実の生徒を犯している、と言われているような気がするのだ。

「……ごめ…なさい…つい」

「ああ…謝らなくていい」

今にも泣きそうに謝るので、優しさを心掛けて頬を撫でる。安心したように私の言葉を聞き、馨介は一度だけか細く私の名前を呼び、頬を撫でる私の掌に頬を擦り寄せた。

「……ルドガー、も…動いて…」

「…ああ」

だから煽るんじゃない、と脳内で呟き、律動を再開する。ずんと最初から勢いよくすると、実に高く愛らしい嬌声が室内に響いた。そのまま勢いを付けて律動を繰り返すと、制止を促す弱々しい声が聞こえる。
額にキスして応えると、困ったような声に名前を呼ばれた。

「っ…ふっ…ぁあ…!んっ…、ね…気持ち、いい…ッ?」

「っ……ああ」

「ぁああっ…ぁ…良かった…ぁっ、んっ…ひぁああっ…ぁあっ!」

なぜ余裕がないだろうに私の気遣いをするんだ。とても愛しく感じ、律動を激しくしてしまう。悲鳴地味た嬌声に、煽る言動全てが無自覚なのだと再確認させられた。なんとも性質が悪い話だ。

「ぁっあああっあ…!ゃっ…イくっ…!!ふっ、ぁあん…!イっちゃ…ぁ…!」

「っ…ああ」

譫言のようにそうイくと何回も告げ、馨介は私を見上げる。涙の溢れる目は虚で、きちんと私が見えているのかよくわからない。だが頭を撫でるとやはり嬉しそうに笑った。
その撫でた掌でシーツを握る馨介の掌握り締め、律動を前立腺ばかりを狙う律動にする。

「っぁあああ…!!ぁっ!ひ、あああっ…!ぁっ…イくっ…んんっ…!!!」

「…っ」

「ぁああっ…せんせ、ぇ―――――……んっああっ…!」

びくんと大きく体を震わせ、馨介は達した。シーツと腹部に白濁を吐き出し、何回も何回も深い呼吸をして私の掌を強く握り締める。私も続けて馨介の中に出し、同様に馨介の掌を握り締めた。

荒い息を互いに整え、余韻に浸る。馨介の上気した頬を撫でると同時か、はたりと何かに気付いた様子の馨介が体を起こした。いきなりのそれに少しばかり身を引くと、馨介は中の私自身の違和感に眉根を寄せながら私を見上げる。泣きそうな表情なので首を傾げて見せた。

「…ごめんなさい、俺…また…先生って…」

「……ああ」

そういえば呼んでいたな。達する瞬間に艶やかな声で呼ばれたその名称を思い出し、なんだかよくわからない感情が沸く。しかしすぐに目の前の叱られる直前の犬を彷彿とさせる、健気に反応を待つ愛らしい恋人に気付き、頭を撫でて遣った。

「…これから直せばいいだろう。……癖を直すのは難しいからな」

そう言い、頭をぽんぽんと撫でると、馨介はありがとうと小さく礼を言って私に抱き着いた。その細い体を抱きしめ返し、薄い背中を撫でて遣る。

「……俺、幸せ…です」

もう一度、本当に幸せですと泣きそうな声で言い、馨介は私の胸元に額を擦り寄せる。それに私もだ、と返し、何回も頭を撫でる事で応えた。





***





衝動で書いてしまった…!
この間の茶会でですね、missing!のみしろさんとルド馨の話になりましてですね、ついついルドガーさんの事を先生と呼んでしまう馨介さん、というネタをみしろさんが下さったのですよ…!なので書きました…!あ、愛は一杯詰めました…よ?(聞くな)

あとフリリクの話をルドガー先生視点で書きたかったのです。

結論。自己満足で最っ高だぜ!!←

ああもう最近エロ小説ばっか!!←







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