とにかく狂ってる鬼柳と冷めきったルドガー

※殺人描写があります



*



細い首筋が跳ねるのを他人事のように見ていた、でも何故か他人事のそれに鬼柳の口角は上がり、ぐ、とぐぐもった音が気管に響くのを彼は掌で感じ取ると更に楽しそうに笑った。床に押し付けた青年の体はどうしようもなく痙攣して、首を絞めた事から圧迫された青年の顔は醜い有様だけれど鬼柳には美しく見える。水晶玉のように綺麗であった筈の青年の瞳は濁っており、しかしくっきりと自分の姿が写っていた為に鬼柳は上機嫌に笑い声を上げた。しきりに青年の名を呼んでは返答を求めるのだが青年の喉は鬼柳の白く長く細い指に諌められているのだから勿論彼の望みは叶わない。首をきつく絞めたまま鬼柳は青年の唇へ自らのものを押し付け、そして愛しそうに青年の唇を唇でもってなぞった。

「なぁ、好きだった、好きだったんだ超好きだったのになぁ、なんでなんだ、なんで、」

ぽつり、ぽつり、ぽつりぽつり。壊れた機械のように間を空けながら呟かれる言葉はどれも楽しそうな声色であり、それは寒気がしそうな程に狂っているように聞こえそして実際に彼が狂っているのだと切に実感させた。
ルドガーはその様を眺めながらいい加減に呆れてきている、かつての仲間は自らで留めを差したいと提案したそのくせ、彼の行動はまるで恋人同士のそれとしか言い得ない様子だからだ。鬱陶し気に眉根を潜めた後ルドガーは鬼柳の正面へと向かった、青年に跨がり楽しそうに言葉を続ける狂人は目もくれないがルドガーも気に止めずに床に押し付けられた青年の顔を見遣った。

「死んでいるが」

絞殺死体の有様は酷いとは分かっていたがルドガーは流石に怪訝そうにして見せる、死体の外観も勿論そうではあるのだが何より臭いが酷いと、飛び出てしまっている瞳を落ちていた鬼柳のマントで覆ってから一歩その場から引いた。暫くは死体を眺めていた鬼柳であったが、自らのマントをじっと見ると瞬きを数回してからルドガーを見上げる。

「死んだのか?」

「ああ、死んだ」

「本当か?」

「ああ。確かめて見ればいい」

きょとん、と、鬼柳の表情はまるで今この場に駆け付けた人間のように純粋であるのだが彼の指先は真っ赤になっている。死体の首にはくっきりと跡が付いており、しかも凸凹としているのだからどれだけの力で絞殺を謀ったのかはルドガーには予想は出来たが如何せん興味はなかった。
そうして鬼柳はルドガーが掛けた自らのマントを死体の顔から剥がす。ぱさりと床に落としたマントをゆっくりと見てから鬼柳は死体の顔を覗き込んだ。死体の瞳は濁っており目尻からは血が溢れているし、口元も大量の唾液がぐちゃぐちゃと溢れている。他にも悪く評価は出来たがする必要性も感じられないとルドガーは思う、しかし鬼柳はどう感じているのだろうか、ルドガーが見下ろして見た鬼柳の表情は表現を要するのであればプレゼント箱を開けた子供のそれであった。

「死んでる」

「ああ」

「死んでるよな?」

「ああ」

「死んでる、死んでる死んでる死んでる…!」

随分と嬉しそうに鬼柳は死体を抱き寄せた、だらりと垂れる腕にがくんとバランスを崩す首と足、ぐにゅぐにゅとしていそうな皮膚や絞殺死体独特の臭いにルドガーは吐き気がしている。愛しそうにほお擦りまでするのだから正気の沙汰ではないと言いたい所ではあったが、しかし彼とて生前はこうでもなかっただろうとも思えばルドガーは境遇からすればあながち他人の事をとやかくも言えないのだろうと押し黙り鬼柳を眺めた。
ふと、鬼柳は嬉しそうに死体を持て余していた筈がぴたりと動きを止める。それが本当に突然でルドガーはほう、と少しばかり興味がありそうにその様子を観察して見せた。そうして暫くしてから鬼柳は動き出した、つんざくような絶叫と共に勢い良く抱いていた死体を床に突き飛ばしたのだ。死体は勿論抵抗なく床にだらりと体を投げ出し、声も上げずに一度だけごろんと体を回転させる。そして鬼柳はその死体を見ながら長い長い絶叫を続けた、言葉にならない叫び声の為によくわからないが、しかし少しするとルドガーを見上げて言葉らしい言葉を言うようになった。

「ああぁああああ、あ、あああ、あああ、なんで殺したんだ、俺、なんで、なんで、なんでなんでなんで…」

なんで、と何回も言う。泣きながら言い鬼柳は死体を引き寄せて再び抱き寄せた、その様子を見ながらルドガーは溜息を吐き下すのだ、まるで大根役者のくさい演技のようだと。鬼柳自身本心で何が何やらわからないのだろう、彼は激情が激情という言葉では収まらない程に激しい人格者である、そこを地縛神に付け込まれと言ってもいいだろう。
鬼柳は抱き寄せた死体の汚れた唇にキスをした。愛しそうにキスをして愛してると何回も囁く、そして力なく開く唇へ自らの舌を割り入れて見せたのだが、そこで漸く傍観を決め込んでいたルドガーは目を反らす。気色が悪いと吐き捨てたくもあったが、あまりに面妖な映像が頭に残った為にそれすら忘れてしまった。



 





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