不安定な遊京と保護者ジャックと京介が気になるクロウ
未完で尻切れ



*



遊星と鬼柳、二人共よく似通った部分があるなと思ったのはチームを組んでそう日を空けなかった日の事であったと思う。
どちらも人を惹き付けるカリスマ性のある人間で、そして先導を得意としている性質で、ただ何処か物憂いていて、しかし誰かに凭れようとはしない性格だった。
そうして二人共なにか弱い部分を持っていた、一人では抱え切れないだろうくらい弱い部分を。親友でありチームメイトであったから、嫌な程に分かった。だから同時に二人が誰にも頼らない事が酷く心配だっだ。

二人が付き合い始めたと知ったのがいつ頃だったかは明確には覚えていないが、しかし俺自身賛成ではあった。俺は二人共大好きだし、幸せになってもらいたいと強く思っていたのだから。ジャックも反対の態度は一切見せず、二人もそれ程ベッタリとはして見せなかった。
二人は不安定で辛い事を辛いと言わず、笑顔で誰かを励ます事の出来る人間だ。誰か一人くらいは涙を流しながら泣き事言える相手くらいは作らなきゃならないだろうと思っていたから、だから互いに傷口を舐め合う…という言い方はナンだが、とにかく痛みを共感しあえる奴同士身を寄り添い合ったのは安心したし、自然とも思えたのだった。



いつだったか。ハッキリとは覚えてはいないが、あれ、と思った事があった。鬼柳の遊星を見る目が、という事からまず二人の亀裂を見付けてしまったのだ、残念な事に。


遊星は他人を愛し、尊敬出来る人間だ。個人の魅力を尊重して評価しており、決して個々同士は比べないし他人と自分も比べない。人は人で、という考えが当たり前なのだ。
そんな遊星の考えを俺はいつもすごいと思っていたし、感心するように「すげぇよな」と褒めてもいた。しかし遊星は決まって不思議そうに納得いかないように褒め言葉に対しての礼を言うまでである。無意識、なのだろうか。だからこそ遊星は人を導けるのだろう。

しかし鬼柳は違った。鬼柳は個々をランク付けた上で優秀な人間には特別賞品を与えるような、そんな性格だったのだ。鬼柳自身がどの辺りに位置付けられていたかは俺には分かり兼ねないが、ただ鬼柳にとって俺達チームメイトが限りなく上位にいた事はよく伝わっていた。

だからなのか、違うのかは分からない。しかし鬼柳がある日、遊星を妬ましそうに眺めている事があったのだ。無口な遊星には珍しく機械いじりの友人が出来たらしく、部品も安く譲ってくれるというのでとても仲良さそうに話していた。
アジトの入口で行われていたそれを、鬼柳はソファに座りながらただ見ている。妬ましそうな納得の行かなそうな、そういう視線で見ているものだから、遊星が他人と仲良くしている事が嫌なのかと最初は思ったのだが、鬼柳は間違いなく部品についてを話す遊星へ嫌悪の視線を向けていた。此処で俺は、あれ、と思った訳だ。

翌日から鬼柳の視線をよく意識して見ると、憶測が当たってしまった。鬼柳のあの視線は、遊星が人に頼られるであろう場面で向けるものだった。作戦会議中の提案をした際やただただ誰かと話す時や何かしらの機械を作る時、とにかくふとした瞬間である。
何故そんな目をするのか、と考えてしまえば答は簡単である。

遊星は人を純粋に尊敬出来る人間で、遊星から見た鬼柳はただただ愛しいのだろう。
しかし鬼柳は違った。鬼柳は人に位を付けていて、ランキングを形成する。その鬼柳の目に写る遊星は自らより優れた位置に居る人間で、自らの存在価値を奪うかもしれない存在。そう見えたのではないのだろうか。

所謂、才能への嫉妬だ。

そんな感情、近くに居れば居る程辛いだろうに。鬼柳が痛々しかった、なんで鬼柳は痛い思いをしてまで遊星に擦り寄るのだろうか。
遊星が人に頼られる行動をしている時以外の、通常である場合での時に鬼柳から遊星へ送られる視線は愛情のみなのだ。俺には理解出来ない。

ジャックにその件をそれとなく聞いてみれば、ジャックももうそれには気付いていたらしく暫く悩んだ後に何故かという憶測を説明するに適当な言葉が見当たったらしく、これだ、と呟いた後に言った。

「見るに、遊星と鬼柳は悲哀の性質が似ているのだろう」

「悲哀の?」

「…憶測だがな。似合った弱い部分を見せ合い、安堵する、だから何か不満があろうと互いに側に居たがるし依存もする」

言ってみせたジャックは少しだけ口角を上げて嘲るように笑って見せた。
弱者によくある物悲しい支え合いなのだとジャックは笑う。
遊星と鬼柳の場合でも、そうなのだろうか。あの二人に限ってはそうは感じない。そんなちんけな様子じゃなく、俺にはもっと神聖に感じていた。

「それは、幼なじみやチームメイトの俺達が支えるんじゃ…駄目なのか」

「だろうな。…何人もを気遣い連れて歩く者のみ感じる苦しみは、少なくともこの俺にはわからん」

「……そうだな…俺もだ」

「まああの二人の問題だ、二人でなんとかするだろう」

二人でなんとか。なんだ淋しい響きだった。

ジャックは二人は悲哀の性質が似ているからこそ愛し合えるのだと言ったけれど、俺はなんだか納得出来ない。付き合うって互いに支えになるべきなのに、互いに悲哀が似寄っているからと互いに互いを慰めあっていたら、駄目だろう。悲哀の性質が似ているよりも、喜悦の性質が似ている方が互いに幸せだろうに。互いに悲哀にどろどろと浸かって、言いたい事も言わない。それはきっと辛いだろうに。
かなしさから抜け出さずに佇んで、それなのに遊星への歪んだ感情を抱えて、鬼柳は辛くないのだろうか。…鬼柳が可哀相だ。しかし遊星は悪くない。誰も悪くない。だからこそ鬼柳はきっととても辛い筈だ。


鬼柳が鬼柳が鬼柳が。
いつからか俺は鬼柳の事ばっかり考えるようになっていた。いつからだったか。俺なら鬼柳を幸せに出来るのに、と考えるようになったのが地区制覇完了より少し前の事だったというのはよく覚えていた。
そんなある日に、二人の情交を偶然に見てしまった事で俺の思考はその考えに覆い尽くされようになったのだと思う。慎まずに、倉庫変わりに使っている最上階から一階下の部屋で二人は致していた。
のぞき見てしまったその光景は酷く醜かったのだ。互いに互いを見詰め合いながら何度も何度も愛しているか、愛している、とまるで自問自答のように繰り返す。そして貪り合うように抱きしめ合って、何回も何回も互いに愛していると伝え合うのだ。
それは名を付けても構わないというのなら、セックスなんて軽い名称ではなく、もっと神聖でいながらそれでいてとても醜い行為だと考え、名付けるに相応しく思える。
心酔や倒錯や信頼や依存や悲哀、とにかく色々がぐちゃぐちゃに一集まりになって丸められ、不格好な形になって投げ捨てられていた。なのに何処か綺麗に写るのは、二人が必死にそこで愛を表現しあっているからなのか。…。

(…遊星と鬼柳は、何であんなに焦ってんだ)

我ながら冷めた思考であったと思う。互いに愛情を押し付けて受け取ってはまた押し付けて安堵して貪って心酔して喜んで不安になってまた互いに愛情を押し付けて受け取って…まるで水面でもがく魚でも見ている気分だった。何故そうなるんだ、と二人に叫んでやりたかったが、俺はそのまま階下へ降りて屋上へ向かおうとしていたジャックを誘って近場の広場でデュエルをした。ジャックは何も言わなかったが、ただ状況は何となく察していたのだとは思う。一度デュエルを終えた後、ジャックはあと数回デュエルをしようと提案した。そのまま何回と単調にデュエルを続けて、遊星と鬼柳が夕飯だと呼びに来るまで、二人で外に居た。
あと少しでデュエルが終わるから先に帰っていてくれと二人に告げ、俺とジャックは少し遅れてからアジトへ向かう。ジャックは普段長い足ですいすい先へと進む性格の奴だが、今日に限って一歩前に居る程度の距離で俺に歩幅を合わせていた。
それを見遣り、俺はぽつりと声を上げる。ジャックから話があるのだろうかと、とりあえず声を掛けた。

「……付き合ってくれてあんがとな、ジャック」

「ああ。……なあ、貴様はアジトに、あの場に居たくなかったのだろう?」

「あ……まぁ、な」

何処まで感づいているのだろうか、とジャックを横目で見上げる。するとジャックは俺をちらとも見ずに、真っすぐに見えて来たアジトを一直線に見遣っていた。

「あの二人は絆で結ばれているだとか、そんな甘い話の元で夢を見ている訳ではない」

「……」

いや、アジトをを見ている訳ではないようだ。何処か遠くを見ている。ぼんやりと見遣り、それからジャックはふと空を見上げて溜息を吐いて見せた。重苦しい溜息である事が、俺の不安を掻き立てた。不安というのは漠然としたものだ、ここのところ常に胸の中を渦巻いている。鬼柳を見ていると、更に強くなっていくのだ。

「互いに足りない部分を埋め合っているのだろう。合わないパーツを貸し合って、無理矢理に互いにはめて貰っている」

「……あ」

「何か思い当たるか、当たらないか……どちらにしても、貴様もそう思わないか」

そうだジャックの言う通りだ。互いに悲哀ばかりに精通しているクセに、互いに悲哀ばかりを寄せ合っている遊星と鬼柳を例える言葉はまさにジャックが言ったそれである。
足りないとぽっかり空いた部分に必要でないパーツを無理矢理にはめ込んでいるから、だから互いに客観視してもわかるくらいに不安定なんだ、なるほど。

「辛そうだと思うだろう。しかし俺は何をする気にもなれん。所詮あれは弱者の馴れ合いの一環だ」

「ジャック、そんな言い方は」

「俺は、あの二人の弱い部分は見ていたくない。決してだ」

言い切り、ジャックは再び重苦しい溜息を吐いて見せた。
ジャックにとってあの二人は輝かし者でなくてはならないのだろう、か。俺にはわからない。二人がどんなに完璧であろうと、弱い部分があり、そしてやはり人間なのだ。どう頑張ろうと芯は弱い。あの二人は特に、群を抜いて弱い部分がある場合もあるのだから。

「あの二人…いや、鬼柳を救いたいのならば、遊星のような奴ではダメだ」

「…なに」

「遊星と鬼柳では相性が良いが、それが逆に効果にはならない。前には進めない」

何も相性が良ければいいという訳ではないのだからな、とジャックは言う。その場が居心地良く感じてしまうと。そう言われて考えたが、俺の唇はその通りだとは声に出来なかった。
鬼柳の隣が遊星である事以外、想像が出来ない。想像力が貧困なのだろうか。

「……救い出すのなら、クロウ、貴様が適任だろう」

「は」

「鬼柳に必要なのは慈愛に満ちた善者ではなく、叱咤をする教者だ」

「……」

「ただの弱者に成り下がるあの二人は、あまりに無様で惨めだとは思わんか」

「…そーだな」

「……クロウ」

ぐる、とジャックは振り返る。とても皮肉地味た、口角を上げた笑みでもって高い身長で俺を見下ろした。ジャックは人を見下ろすのが、見下すのが好きなのだと思う。身長が人より頭一つ出る程の大きさになった頃から、ジャックはよく人を愉悦に見下ろすようになった気がする。
…遊星や鬼柳に前へ歩む為の教者が必要だというのなら、ジャックにはどんな人間が必要なのだろうか。彼の尖ったプライドに気付けばそっと触れられているような、そんな人間なのだろうか。それは無神経なように見えながら聖母のように優しい、そんな人物なのだろう。…なかなか難しそうだが。

「――貴様も男ならば、好きな相手を押し倒すくらいの勢いで挑んではどうだ」

「……は、ぁ、え?」

「心配なら、愛しているのなら、あの暗い泥濘から引っ張り出してやれ。後の事は引きずり出してから考えればよかろう」

がっと音を立てて後ろ頭を小突かれる。痛くはないが音ばかりが辺りに響き、そして後から痛みが遅れてやって来た。

「恋人同士の遊星と鬼柳、と、それを眺める貴様…いたたまれん俺の気持ちを、貴様らは少し察してはどうだ」

「あ、おう…悪ィ」

「同性同士で何が楽しいのか、俺には理解不能だ……」

そりゃあジャックは女には困らないだろうけれど、と考えながらも、今更ながら頬が熱い。ジャックは俺の恋心なんか承知だったらしいのだから、なんだか恥ずかしい。




 





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