チーム解散後の鬼柳



*



一人で生きる事が特に苦でないと思ったのは物心が付いた後だったか前だったか、定かではない記憶を模索しようとすれど寝起きの頭ではなかなか辛いものだ。
くたり。肩を落とし、最近水漏れが酷いシンクからの水音をまるで他人事のように耳で聞く。耳から耳へ音が漏れる、さてどうするか、立ち上がるのもどうにも渋りが出てしまうようだ。
はあ。溜息は重い。

遊星達と会ったのは何年前だったか。日数にすると3ケタを越えるか、4ケタに入るのか。毎日に夢中で覚えていない。
日常を一人で歩むのが楽しくて楽で好きだった頃の自分がまだ頭の片隅か、いずれは何処か一部分に残っているのだろう、なんとなくだがそう思えた。掴めはしない感覚だが。

幼少期は小柄な子供であった自分は飯にありつく事で頭が一杯になる毎日を過ごしていた、というのはよく覚えてはいるのだがそうして小さな自分が上手い事日々を満腹で過ごせていたのかは、まあ、覚えていない。ご都合主義な自分の事だから記憶から消したのだろうか、幾ら首を傾げようが頭を抱えようが思い出せず仕舞い。なんだか自分にはそんな癖があるような気がする。
第一、幼少期の自分の記憶を塗り潰すような俺が苦も楽も共通しあい笑い話として話を咲かせる事の出来るアイツらと交わった事自体が間違いだったのだろう、か。結局自分は誰とも馴れ合えないだとか、そういう事だ。

誰も居ないアジト内をぐるりと見回して思い出すのは昔の事ばかりだ、前向きに生きようと前に前にと歩んでいた頃の記憶が点点点、ぶつりぶつりと浮かび上がり消えて行く。前向きだった頃を昔として振り返って思い出すのは少し不思議な感覚だ。
突如胸が酷く痛む。涙は不思議と流れないのだから皮肉と言う可きか否か、わからない。

チームが解散…いや、チームが俺一人になってから何日が経ったのだろうか、ハッキリとしない記憶を掘り返そうと部屋に篭ってばかりであった為に何回日が落ちたなんかは知らなかった。

暗い室内で箱に詰めてあった保存食達を取り出して食べ終わり、食べたばかりなのにどうにも肋の浮いた腹部を撫でながらソファに横になる。なんだか昔を思い出してしまう、毎日を一人で必死に生きて余裕の無かった頃の事を。



(………ああ、なんだ、そうか…)



は、と意識が浮上。無意識に閉じていた瞼を開き暗闇を何処ともなく眺めた。ああそうか、そうだ、簡単な話だったのだと唐突に理解する。



(俺は元々一人だったんだから、ただ、元に戻るだけじゃないか)


何を悩んでいたと言うのだろうか。優しくて頭の冴える遊星も頼もしくて信頼出来るジャックも暖かくて安心出来るクロウも、そんなの居なくたって俺は生きていた。ただ奴らに出会って、一人であったのが一人でなくなっただけだった。

ただ、元の状態に戻るだけなんだ。



 





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