懶メランコリー






風呂上がりで眠りこけるだなんて、まるで子供だ。

クロウはぼんやりと寝台の上、腰にバスタオルを巻いて頭にもタオルを乗せたまま、ほぼ裸の格好で寝ている京介を見て苦笑する。

仕事でサティスファクションタウンの近くまで来て、それさえ終えればもう仕事はなかったのでどうせだからとこの町に寄った。空が雨模様だったからと言う理由もあるが、なによりクロウがわざわざ京介を訪ねたのは京介が気になったというのが大きい。

玄関先で「鬼柳は」と訪ねた際にニコが少しばかりしどろもどろとしていたので、クロウはてっきりまた京介が元気を無くしているのでは、とも思ってしまった。だがそれはどうやら取り越し苦労という事か、クロウの眺める京介は裸に近い格好ですやすやと安らかに眠っている。

「……バスタオル二枚も使って……ニコちゃんが泣くぞー」

「……ん」

「タオル取っても起きねぇか…」

頭にあったバスタオルをズルズルと引っ張り、寝台の隅に置く。それから、どうするか、とクロウは後ろ頭を掻いた。
疲れているようなら寝かしておきたいが、こんな格好では風邪をひくだろう。しかし昔の誼があるからこそ言えるが、京介は一度起きてしまうと眠気が全く消えてしまう人間なのだ。
起きるまでに時間はかかるが、鬼柳は、夜に一度起きてしまうとすっきりと目が覚める性質であり、しかしながら朝方は低血圧のそれだった。よくわからない。
クロウを始め遊星もジャックも、ソファで寝ている京介を親切心で起こして「もう寝れねーだろばか!」と理不尽に怒られたのは一度きりではない。

まさか町長にもなって毎日グータラ生活な訳もないだろう。今のこの、だらし無く露出して惰眠を貪る光景は日頃の疲労あっての状態の筈だ。
疲れている人間は休ませたい。しかしこれでは確実に風邪をひくだろう。しかし起こせば、鬼柳は暫くは寝れないだろう。

(……複雑だな…なんだよこれ)

思わず苦笑が漏れた。詰めデュエルでもしている気分である。まあ詰めデュエルには必ず正解がある訳だが、これはどうにも正解があるようでもなさそうだ。複数正解がある場合があれば、不正解しかない可能性だってある訳で……。

(……どうすっかな)

ぎしりと音をたて、鬼柳の眠る寝台に腰掛ける。スプリングに合わせて鬼柳の体も揺れ、短く呻きが漏れた。起きる気配がない事を見届けてから、天井を見上げて小さく息を吐く。

まあ、起こすしかないだろう。とは思った。
しかし実際目の前でこうもぐったりと眠られると、どうにも。もっとすやすやと幸せそうな顔で、とかならまだしも、今の鬼柳の寝顔は疲れきって脱力した眠り方だ。

(……まぁ、考えてたって仕方ないよな)

起こそう。よし起こすぞ。
意気込んで、鬼柳の肩に触れる。当然、タオルしか身に纏っていない為に素肌に手を置く事になるのだが、鬼柳の肌はひやりと冷たい。風呂上がりで濡れた体が冷めたのか、それとも元の体温なのか。
まるで死人の肌だ。考えながら、は、として小さく体を揺する。親友に対して死人だという感想を抱くなんて間違っている。

「鬼柳、起きろ。風邪ひくぞ?」

「……ん、ん…」

数回揺さ振れば、鬼柳は小さく唸り声を上げて身を攀った。
目覚めは早いのだとは過去と照らし合わせて笑う。
しかし、もう一度揺するも鬼柳はやはり唸り声を上げるばかりだ。
起きる気配がない。熟睡しきっているのだろうか。
ひょいと鬼柳の顔を覗き込むと、ちょうど薄く瞼を開いている鬼柳と目があった。

「………クロウ」

名前を呼ぶ。というよりは、確認したように聞こえる。
寝起き独特な掠れた声色で計三回は名前を呼ばれ、俺は返す言葉がわからずに暫くは様子を見た。
鬼柳は再び身を攀り、体を少し起こす。そしてそのまま、俺の腰に抱き着いた。勢いがあった為に、身を乗り出していた俺の体は、ぼすと寝台に座り込んだ。俺の腕に濡れた薄白銀の髪が流れ、ひやりとする。

「……おい、鬼柳」

「…夢、か」

「………夢?」

「……クロウが居るなんて…夢だろ…」

ぽつりぽつり。寝言のように鬼柳は言う。
どうやら、俺が此処に居る事自体が夢だと思っているようだ。失礼な話だ。
確かに滅多に連絡もしていないし、訪ねて来たのも久しぶりだが、しかし夢だと勘違いする程間を開けてはいないだろうに。

「…すっげ…いい夢…」

「………」

腰に抱き着かれている為、鬼柳の表情は伺えない。しかし鬼柳の声色はとても嬉しそうなそれだった。思わずこちらの表情が緩む程。
それから、鬼柳は何も言わないで居る。寝息だけは少ししてから聞こえ、鬼柳はずっと強く俺に抱き着いていた。



***



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