驟雨の悲願、諸々




※少しだけ性的描写有
先天性女体化注意


明日帰るんだよな。そう聞く鬼柳が酷く悲しそうであった為に、俺は色々と察してしまった。
何をかと言えば、この町に暫く滞在すると決めた遊星がその時鬼柳に言った「俺達と一緒に行くのか、残るか。決めるのは鬼柳だ」という言葉に対しての、鬼柳の答の事である。

鬼柳はこの町に残るつもりなのだろう。

ロットンという輩の仕業により半壊した町の周囲には、大量のテントが人数分作られている。治安維持局の配慮なのだと聞いた。中々に気遣いが上手い。
その中で俺にと分けられたテントの中に、鬼柳は居た。簡易式で、サテライトで暮らしていた頃を思い出させる浅い綿の入ったシーツが敷かれた寝台(と呼べるかは不明だが)に座り、入口を開けたまま中途半端に中に入っている鬼柳を見遣る。
鬼柳は気まずそうに、正座していた足をもじもじと動かした。

「貴様はどうする?」

「え」

ぽつり。鬼柳は吃驚したようにか細く声を上げて肩を跳ね上げる。見上げた視線は少し涙目で、反応に困っているようだ。

「残るのだろう」

「……あ、うん」

「遊星には言ったか?」

「まだ…」

「では早く報告して来い。奴が一番気にしている」

だが同時に、一番鬼柳の答が読めていたのも遊星だろう。言わずに思った考えに、我ながら賛同出来た。
ふと、そそくさと行動を移すと思われた鬼柳が何も動きを見せない事に気付く。しかも何故だか俯いていた。俺は不思議に思い、少し身を乗り出して鬼柳の肩を叩く。

「鬼柳?」

「ジャックは」

「…?なんだ?」

「ジャックは…その、気に……してたか?……俺が、残るか、どうか」

ちぐはぐちぐはぐ、しどろもどろ。俯いたまま言い、鬼柳は黙った。答を返せ、という事か。ふむ。
俺も同様に俯くも、答は簡単であった為に顔はすぐに上がる。

「勿論気になっていた」

「……そっか」

「安心しろ、俺は意見を尊重する。貴様がこの町で満足出来るのであれば、止める理由はないのだからな」

「……うん」

「……鬼柳?」

華奢な体が震えているように見えた。ので、肩に触れて遣る。
体調が悪いのだろうか、と思う。しかし鬼柳は先程まで至って平常であった筈だ。
肩に触れ、離した後に鬼柳の顔がゆっくりと上がる。そして見詰められた。嫌に真剣な顔だ。

「あれから…3年だな」

「……そう、だな」

あれから。唐突に切り出された話題であるなと思いながらも、言われれば記憶は甦る。
きっと、あれから、とはまだチームを組んでいた頃の。まだ俺と鬼柳が付き合っていた頃の話なのだろう。
付き合っていた、は自然消滅に終わったが。

「覚えてるか?昔の事」

「ああ、当たり前だ。沢山思い出がある。決して捨て切れん」

「ジャックは天才的に料理が下手だったよなぁ…懐かしい」

「な、なぜそこから思い出す…!それを言うなら貴様とてそうだろう!」

びしっと真っ直ぐに鬼柳の鼻先を指で指すと、鬼柳は俺の指先を眺めた後、くつくつと肩を揺らして笑った。

「あはは、そうだな、俺も下手だったよ」

とても穏やかな笑みである。幸せそうに笑っていると思い、自然とこちらまで頬が緩んだ。

鬼柳と俺は料理があまり上手くなかった。それでも一応は作れる物だから作ったりもするのだが、まあ、味はあまり良くなかったかもしれない。
味なんかロクに覚えてもいないが、ただ、そんな料理を作って作られた時のチームメンバーでの和気あいあいとした雰囲気はよく覚えていた。穏やかなな空間だったと思う。幸せだった。

「なぁジャック」

「なんだ?」

ふと、昔の話でこのまま話題が発展するだろうと思われたが、話題は変わるようだ。嫌に真面目な声色で鬼柳は俺に声を掛けた。どうしたのかと鬼柳を見遣ると、やはり真面目だ。

「……鬼柳?」

「…初めて手を繋いだ時の事、覚えてるか?」

そう真面目に言われたので、とりあえずは考える。答えなくてはならない雰囲気だからだ。しかしながら鬼柳はいきなりどうしたのだろうか。

「覚えている」

「え、本当?」

「買物の途中だったな…それこそ、料理の邪魔だとクロウに言われて二人で行ったのだったか」

「そうそう!確か…夜だったよな?」

「ああ。……シティがやけに賑やかで、眩しかった」

鬼柳は俺が覚えていた事がとても嬉しかったらしい。身振り手振りを添えてその時の気持ちを説明口調に話した。

俺と二人きりが珍しくて緊張しただとか、その時から俺の後ろを歩きながら後ろ姿を見るのが好きになったとか、俺が意外に女性の歩幅に合わせる男だと気付けた、だとか。沢山沢山うれしそうに話し、しかし鬼柳はやはりふとした瞬間に真面目な表情へ変わってしまった。

俺はというと、やはり不思議でならない。鬼柳、と名前を呼ぶと鬼柳は苦しそうに笑った。

「なんかさ…悲しい」

「…鬼柳?」

「悲しいな、やっぱり。俺もうジャックの彼女じゃあないんだもんな」

目元も口元も笑いきっていない表情だ。誰の顔だそれは、と叱咤したくなる程痛々しいその表情に、俺は胸が痛くなる。

まだ鬼柳は好きだ、恐らく。鬼柳を守りたく思うし、愛おしい。
しかしダークシグナーから復活した鬼柳が言った筈だ「2年間待っててくれてたらありがとう、でも俺なんか忘れていいから」と。ダークシグナーであった時はともかく、セキュリティにいた時の記憶があったからこそ言った台詞だったのだろう。俺はそう理解し、受け止めた。

だから俺達の関係は消えた筈だ。しかし何故鬼柳は、泣くのか。
少しばかり顔を俯けてぽろぽろと涙を零す鬼柳の頬を撫でる。鬼柳は床に視線を向けたまま、か細く俺の名を呼んだ。

「俺、ジャックが…まだ好きなんだよ…っ狂いそうなくらい好きなんだ…っ」

ボロボロと溢れる涙が幾つも床に落ちる。鬼柳は胸を掻きむしって、ゴメン、と言った。
そのゴメンの言葉と同時に、鬼柳は俺の胸元へと抱き着く。勢いのあった行動の為に無抵抗であった俺の体は後ろへと倒れた。
見上げて見えるのはテント独特の三角の形をした布の天井。どうするかと暫くそれを眺める。
腕を組んだまま倒れた為組んだままであるその腕を解き、鬼柳を抱きしめたいとも思った。しかしあまり軽率な行動もとれまいと冷静な思考が仁王立ちしている。あの頃より進歩したという事か。
胸元に当てられた、昔より豊かになった鬼柳の胸の感覚。当てているのだろうか、なんて考えるくらいに今の俺は冷静だ。

「鬼柳」

「……」

「俺は明日帰る」

ちら、と鬼柳を見遣る。鬼柳は俺の胸元に額を擦り付けて今だに漏れる嗚咽を堪えていた。
頭を撫でて遣ると、肩が跳ねる。しかしこちらに視線は向かない。

「俺はあの場所が帰る場所だ」

「……うん」

「お前は、此処が帰る場所になるのだろう」

「……うん」

「俺の言いたい事はわかるな」

「…うん」

ぽつりぽつり。鬼柳は静かに返事をする。わしゃわしゃと髪を撫でてやれば、鬼柳は嗚咽を一つ堪えた後に息を整える為か深呼吸をして見せた。

あの頃とは何もかもが違う。背負う物も、関係も、場所も、人格も。あの頃のように上手く行く訳がない。上手く行く理由も確証もない。

鬼柳は「いいんだ」と笑って、顔を上げた。満面の笑顔で、点数で言うなら97点だ。目元の涙の跡が少し減点対象だろうか。
鬼柳はそうして、礼の言葉を呟いた。





テントである為に、防音性は皆無に近い。周囲には幾つか別なテントも張られている。そう鬼柳に言ったのだが、鬼柳は心得ていたのか上手く声を押し殺していた。

テントの浅い毛布に組み敷いては体を痛めるだろうと、なだれ込んだ情事でありながら体位は座った俺に鬼柳が向き合って座り、繋がるという形である。
ぎゅうと抱き着いた鬼柳の口元は俺の耳元にあり、吐息や押し殺した嬌声も、小さく名前を呼ぶ声も、全てがよく聞こえた。愛しくて愛しくて強く抱きしめて華奢な体を揺さぶる。

「んっ…ふ、…ぁ…ぁ、あ…っ」

「……鬼柳、平気か…?」

「ん、…ぁっ……あた、ま…くら、くらぁ…する…っ」

ボソボソと軽減された声量がテント内に響く。言い切った鬼柳は一際強く俺に抱き着いた。首に回された腕は強く絡み付いている。

この腕を一生離したくないと叫びたい。しかし俺には帰る居場所があり、鬼柳にもある。
鬼柳にも俺にも守るべき者があって、大切にしなくてはならない。だがこの細く華奢な体が、鬼柳という儚い人間一人が酷く愛しくして堪らない。

元気に笑う鬼柳に愛してると言い、鬼柳が俺もだよと返す。そんな幸せな毎日が、遠く思えた。あの頃は幸せだった。とても幸せだった。取り戻したい。けれど不可能だ。

「っ……鬼柳…好きだ」

「……ん、…ぁっ…んぁぁっ…」

愛してるとすら言えないのか。根性無しの自分め。汗ばんだ鬼柳の首筋に一つ痕でも残そうかと唇を寄せるが、好きだ、に対しての返事がない事に気づき、止めた。離した唇はそのまま肩口に口付けを落とす。

明日になったら、俺達はもう。

思えば思う程、俺は鬼柳を強く抱きしめていた。



***



先天性女体化馨介でジャ馨の裏(現パロでも本編沿いでもどちらでも) というリクでした…!最終的に本編沿いになりましたです…!そして裏、とのリクであったにも関わらず微裏になってしまいましたぁああごめんなさい!!orz

あとグダグダ過ぎて申し訳ないです…一回全く書き直して書いてたら、その後一回なんか文が消えたという不思議現象が…とは言い訳です、遅くなって申し訳なかいです…!
もう内容が酷く酷いですね、苦情受け付けております…!


では、リクエストありがとうございました!








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