要黐の空惚け






※性的描写有


披虐性愛者、所謂、マゾヒスト。Mとも称されるその人種が世間に居る事は、ルドガーは良く知っていた。しかし存在を認識する事と、現実目の当たりにする事では心持ちは全く違うらしい。
ルドガーは冷めた思考で、目の前のマゾヒストを見下ろした。
そのマゾヒストは本来、排泄器官として扱われる箇所に男の精器を捩込まれ、血をダラダラと流している。にも関わらず、娼婦のようにあられもない嬌声を上げていた。語尾にはハートマークが飛び交い、楽しそうに笑い声まで聞こえる。その様は妖艶であり滑稽だ。酷く醜い。

「ひっぁぁあ、んぁあっ…!!痛ァっ…ぁあっ…きもち、いいっ…な、ルドガー、きもち、い?」

「鬼柳……少し黙っていろ」

救いようのないマゾヒスト―――鬼柳京介は、散々に男に犯される事で快楽を得られる天性の変態だ。とルドガーは認識している。
ルドガーの室内にある大きな寝台の上、四つん這いになってルドガーの精器を受け入れる京介は楽しそうに笑い声を上げた。
それにしても気持ち悪いくらいのテンションの高さである。ハイになれる薬でも打っているのだろうか。
寝台に着いていた、白くて細い腕を手首を掴みぐいと引っ張る。ルドガーに背中を向けている京介の向きでは、手首から引っ張る形では無理に持ち上げる仕様になった。無理に曲がる間接の痛みに、ぐ、と小さく悲鳴を上げた京介だったが、少し間が空けば悲鳴すらも嬌声のように甘い吐息が混じる。
気にしないように腕を一瞥。ほんの少し気になっただけであった為に、暫く眺めた後にルドガーはぼとりと掴んでいた腕を寝台へ戻した。

「痛…い、だろっ…て、なぁにすんだよばぁぁぁかがぁぁあ!俺の白い二の腕に興奮したのかよヘンタイ、つか早く動けよ足りねぇだろぉお…!?」

「……黙っていろと言ったが」

「ひっ、…っ……ぐ、んぐっ…」

後頭部を大きな掌で掴まれ、京介の顔は寝台に沈んだ。悲鳴はシーツに吸い込まれてぐぐもり、そこで漸くルドガーは京介の望み通り動きを再開する。
動く度に京介の後孔はぎちぎちと悲鳴を上げ、血液が流れた。ロクに慣らしもしないからこうなるのだ、とルドガーはぼんやりと考える。
京介はマゾヒストだ。肉体的迫害を好んで要求する。しかしルドガーはサディストではない。確かに京介の望む迫害を文句なく叶えはするが、特に楽しい訳でもなかった。
というより逆に、ルドガーは性行為最中の京介が嫌いである。京介の普段時折見せる物憂い気さに可愛気を感じるぐらいの愛情しか持ち合わせていないというのに、痛みに笑い声やハートマークにまみれた嬌声を上げる京介は寧ろ虫酸すら走った。

「んっ、ふーっ……んんんーっ!!!……んー!!んーッ!!!」

抑え付けた後頭部が震え、必死に苦しく呼吸するのが聞こえる。達したようだ。ふるふると細い体が震え、指先がシーツを握り締める。動きを止めても後孔はきゅうと締め付けられ、抑えられた声は大人しくなって行った。
抑え付けていた為に嬌声は少ないな、とルドガーは思う。これからは抑え付けて行為を進めるかと考え、そうしてからシーツに沈む京介の顔を上げさせた。

「は…ぁ…ふ、ぁ……ん」

くたり、と肩は脱力して瞼も閉じられている。漏れる吐息は力無く、今現在は息を整える事に必死なようだ。健気なその様に、ルドガーは少しばかり可愛気を感じる。
媚びを売るようにあんあんと鳴くより、こうして必死に余裕なく見せる方が愛らしい。そうルドガーが思ったと同時、京介はくつくつと可愛気のない笑い声を上げた。
ルドガーの顔がうんざりとした表情に変わる。ルドガーに背中を向けた京介はそれには勿論気付かず、そのまま笑い声は肥大して行った。

「っ…てめぇルドガーまじ鬼畜ありえねぇ!!笑える、腹痛ぇよっ…つかルドガーまだイってねぇよなぁ?」

「………」

先程までのしおらしさは何処へ消滅したのだろうか。背筋を反らせてこちらに目線を遣る京介はうんざりと見下ろし、ルドガーは溜息を吐いた。
ずっと息切れしていればいい。とは本人には言わないが、心底そう思う。

「あ?おい聞いてんのかよオッサン!!返事しろよ耳遠いのか――っ……んぁっ!?」

ずるり、と、ルドガーは何の前兆もなく京介の中から自らの精器を引き抜く。くちゅと音を立てて精器は抜け、中からは分泌された腸液とルドガーの先走りのみが溢れた。
それらの感覚にぞわっと総毛立たせ、京介は肩を縮こませる。そしてその縮こまった肩を引かれ、京介の体は仰向きになった。見上げる形で正面に対面したルドガーを見て、京介は首を傾げる。
するとルドガーは前触れもなく、達したばかりだというのに半立ちになった京介の精器を握り込んだ。節くれ立ったルドガーの指先の感覚に体を震わせる。
そして同時に状況を理解して、にぃと口角を上げた。

「うわマジかよルドガー手コキすんの?やべーじゃんどーしたよルドガー、何か変だぜお前」

「鬼柳、黙っていろ」

「出たよ黙ってろ宣言。それ好きなァ?つかヤるなら早くシろよ掴まれてるだけとか気持ち悪ィからさァ」

可愛いくない。いや野郎に可愛いさを求める事自体間違っているのかもしれない。しかしなんであろうと京介の言動は可愛いくなかった、いっそ憎たらしい。しかし達した瞬間の京介を思うと、ルドガーの手は自然と動いた。まだ可愛い気のある京介と性交したいと思う。
痛め付ければ黙りそうだが、京介は天性なマゾヒストな為に無理難解であった。ずたずたに皮を引き裂いてやれば流石に黙りそうだとも思ったが、そんな肢体を抱いて勃ったりしたらルドガーはサディスト確定である。寧ろ萎えるだろうとルドガーは思うともなしに思った。

「あっ、はぁっ…んぁぁあ…!!!ひぁぁあっ、やばっ…それむりっ…ふぁん、ぁぁあ…んっ…!!」

握り込んでいた京介の精器を、馬鹿みたいに溢れる先走りのぬめりを利用して掌で揉むように刺激する。すると京介はルドガーの腕を掴み、背筋を反らして喜んだ。開きっぱなしの口端からは涎が垂れ、ルドガーはそれを餓鬼でも見るように冷めきった目で見遣る。
そのまま乱暴に揉みしだき、陰嚢に握った掌の底をたたき付けるように乱雑に刺激した。ルドガーの淡泊そうな態度とは反対に、京介は息の間隔が狭く、余裕も無くなっていく。無駄口が減り、吐息に混じって嬌声もがむしゃらに聞こえた。
ルドガーは計画通りなそれに少し気を良する。そして京介の精器を強く刺激したまま、親指でぐりぐりと尿道に爪を立てた。

「ひっぁあああ!!?ぁやっ、イくっ……むらや、め、もっ…………ん、ふぁぁあ…ッ!!!」

どくん、とルドガーの親指で塞がれた場所から精液が溢れた。勢いを無くして精器へ落ちた白濁を眺め、それから京介へ視線を遣る。は、と肩で短く息を繰り返して顔を真っ赤にしていた。絶頂の余韻でかたかたと体を震わせ、涙目の虚ろな目で壁を意味なく眺めている。
快楽が強すぎたのだろうか、とルドガーは身を乗り出して京介の頬に触れて見た。もう大分参っているだろうか。この状態であれば、抱いても普段より静かかもしれない。ぺちぺちと京介の頬を軽く叩くと、京介は何回か瞬きをした後、はっとしたようにルドガーを睨みつけた。
ルドガーはそれと同時に眉根を寄せる。まだか、と溜息まで吐いた。

「てめ…いい加減にしろよ…っつか、早く挿れろ、も、早く挿れて欲しくてウズウズしてんだよ…なぁ頼む挿れてくれよ、なァ…!」

サカリの付いた雌猫。なんと相応しい言葉だろうか。ルドガーの掌に頬を擦り付け、京介は先程より勢いはないが、掠れた声で甘えるように言った。もじもじと太股をすり合わせる様は確かに妖艶である。そんじょそこらの男ならくらりともくるだろうが、ルドガーは違った。イラッとしている。
儚げな京介に一度可愛さを感じてしまったルドガーとしては、媚びを売る京介はとても苛立ちを感じているのだ。どちらが本性だか分かりもしない。分かりたくもない。
ふう、と溜息を吐き下し、ルドガーは再び京介の体を反転させた。俯せの恰好にさせ、腰だけを高く上げさせる。
挿れて貰えると待ち侘びる京介はワクワクした様子でシーツを握り締めて待っていたが、ルドガーに精器を挿入するつもりは微塵もなかった。
指を二本、京介の後孔へ当て行こう。ひくん、と京介後孔が動いた。そうして不安気に視線が向けられる。

「んっ…ん?あれ?ルドガー…?」

「だから少し黙っていろ」

つぷ、とルドガーは二本の指を京介の後孔へ挿入した。精器を挿れろという京介の意見は完璧無視である。ぎゃあぎゃあと文句を言う京介を無視し、ルドガーはそのまま京介の前立腺を刔るように、小刻みに何回も何回も二本の指で刺激した。
途端に悲鳴のような嬌声が上がり、京介はぎゅうとシーツを握り締める。爪先はきゅっと縮こまり、肩もかたかたと揺れていた。

「ひっ、ぁあっ!やっ…きもちよ、すぎっ…だ、るどがぁぁぁぁああ!!!い、やぁぁあ!!」

向きや角度、速度や力加減も変えながら、ルドガーは京介の前立腺を刔った。ぐちゅりという腸液の溢れる音や、ぐぷっという気泡が爆ぜた音、それらが室内に響き渡る。
刺激される度にびくんびくんと体を跳ねさせる京介の背中をぐっと寝台に押し付け、ルドガーは半ばのしかかる形になった。そしてそのまま京介の肩口にキスを一つ落とし、その場所に軽く噛み付く。それにすら京介は反応し、ひ、と悲鳴を上げた。しかしその悲鳴ですら嬌声に掻き消える。

「あぁぁあああ!!も、むりっ…!イく、…っイくからぁあ!!るどがぁああ!!!ひ、ぁぁあっ…――――――っ!!」

がくがくと壊れたように体を痙攣させ、京介はシーツに突っ伏して声にならない悲鳴を上げて達した。精液はシーツに吐き出され、そして射精を終えた京介の体は完璧に脱力して寝台に落ちる。
肩甲骨があからさまに浮き出る程に縮こまった京介の肩は、浅い呼吸を繰り返して何度も揺れた。力なくただ息をする元気の無い京介を見下ろし、それからルドガーは京介の体を起こす。

「あ、な、んだよ……も…無理だからな…」

はあはあと持久走を終えたばかりのように京介は息を繰り返し繰り返した。しかしルドガーは聞く耳持たず、その京介の体を引き上げ、自らの膝の上に座らせる。勿論、ただ座らせるのではない。対面座位の形で挿入する、という事だ。突然の事で、疲労している京介は小さく悲鳴を上げて、きゅうと体を丸める。

「あ、ぃやだ…むりやらっ…も、イくの…ん、辛い…から、ルドガー…」

「…随分としおらしくなったな」

「は、ぁ…んっ…ん…むり、息も、辛いっ…」

健気に体を震わせ、京介はルドガーの肩に額を擦り付けた。本当に辛いのだろう、今日は前戯に2回、本番で3回、その後2回イかせたのだから、いい加減限界とも言えそうか。

しかし気遣い等微塵もない。というか、ルドガーは元々京介が静かになるかもと計画してここまで京介をくたくたにさせたのだ。寧ろ順調である。
ルドガーは気分良さ気に、切なそうに眉根を寄せて涙を流す京介の顔を眺める。目は虚ろで、掌は口元に沿えられていた。息も荒く、時折助けを呼ぶようにルドガーの名前を呼んでいた。
愛らしい、可愛らしい。ルドガーは胸がきゅんとする感覚、という事を無表情のまま体験した。
ときめいた、というよりは、ルドガーはもしかしなくても加虐性愛者…所謂サディストなのかもしれない。このまま弱って行くのを見ていたいとルドガーは思っていた。
思うに、サディストは虐めたれたがる人間を虐めたくは思わないだろう。つまらないからだ。
だから今、弱った京介を見てその性質が顔を出したのだろう、多分。

「おれさ、ふぇら、するからぁ…も、ゆるしてくれよぉ…」

ボロボロと涙を流し、京介は辛そうにルドガーの胸元に縋りながらルドガーを見上げた。普段なら確信犯で使われる上目遣いが、今日は無意識に遣われている。
ルドガーはその様を見下ろし、返事は返さずに京介の体を抱きしめた。

意味がよくわからないが、ぐたぐたな頭で京介はなぜかそれを安心して良い事として受け入れて安堵する。実際、ルドガーの胸の中は妙な包容力があって安心したからだ。
しかしその京介の安心感を裏切るように、ルドガーはそのまま京介をきつく抱きしめたまま激しく突き上げる形で律動を始めた。

「ひぁっ…―――――――…!!!」

一度だけ一際高い声を上げ、京介はルドガーの体にしがみついて声に成り切らない悲鳴を上げた。爪先はルドガーの肩に食い込み、体中ががたがたと痙攣する。とんでもない快楽から逃れようと無意識に体が暴れるも、ルドガーにきつく抱きしめられて身動きが取れない。

「あっ、あっ!…やらだめっ…へん、やぁぁあ!…るどが、だめっ…!」

「何がいけないというのだ?」

「え、ぁぁあっ…!…わか、んなっ…ぁ、あ!あたま、ぐちゃぐちゃ、ぁ…から…!」

「……わからないのなら仕方ない」

まるで子供のようだ。とにかく首を横に振り、京介は行為の終了を促して力無く悲鳴を上げる。嫌に上手く娼婦ぶるより、やはりこちらの方が妖艶に思える。
ルドガーは更に律動を激しくした。精器をギリギリまで引き抜き、押し付けるように最奥まで捩込む。その度に京介は涙を零しながらルドガーの体に縋った。

「るどが、イくっ…んっ…イっちゃう、こわ…いっ…!きもちいいっ…やらぁあ!」

完璧にトリップしているように見える。もう自分でも何を言っているかわからないのだろうか。譫言のように、イく、怖い、と繰り返し叫ぶ。そして京介はルドガーにきつく抱き着いた。
小動物のようである。ルドガーは考え、そして律動を続けたまま京介の顔を上げさせた。
ふるふると慎重に顔が上がる。
真っ赤な顔は涙の後が大量に残っていて、息を荒くしてルドガーに助けを請うような視線を向けていた。
震える唇に触れるだけのキスをして、ルドガーはそのまま律動を続ける。前立腺ばかりを狙う浅い律動にすると、京介は高く悲鳴を上げた。

「ひっぁああ!!やだ、も、イくっ…あ、や、あ、ぁぁ、あ…―――――――…っ!!!!!!」

「…京介…っ」

びくびくと体を震わせ、京介は達した。ルドガーの腹へ白濁を吐き出し、くたりとそのままルドガーへと寄り掛かる。
ルドガーもきつく抱きしめた京介の中へと白濁を注いだ。その度にひくりと体を揺らす京介の肩を、優しく撫でてやる。
なんだか良い気分だった。






「……ルドガーは、サドじゃなくて俺が大好きなオッサンだったんだな…」

ぽつり。京介はくつくつと笑いながら言った。事後、10分後くらいの事である。もうあの調子の可愛くない京介になっているのかとルドガーはうんざりした様子を見せた。

「…どういう意味だ」

「最初は俺を虐めんの、楽しんでんのかと思った。けどさぁ?」

にやにやにやにや。苛立つ表情だ。京介は楽しそうに笑い、寝台に横になったまま寝台に腰掛けるルドガーを見上げる。
ごろごろと寝返りを打ってばかりで、続きを勿体振る京介にいらっときたルドガーは左手を京介の鳩尾へ落とした。
げふ、と京介は醜く悲鳴を上げる。そして「思い違いだったわくそオヤジ!」とうんざりしたように寝台をのたうちまわった。



***



たまにはデレなルドガーさんとか。でもいつか超バイオレンスなルドガーさん書きたいわぁ。

ちなみにルドガーさんは最後の可愛らしいと思った鬼柳さんだけ名前で呼んでます。鬼柳さんその事言おうとしたんだけど、鳩尾パンチされて「愛されてるかもなんて気のせいだよな…」とやめました。複雑ですね。









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