鬼柳さんを商売道具としか認識しないラモンと死にたがりの死神鬼柳



*



負け知らずの男、最近では死神とも称された鬼柳京介であったが、やはり彼は所詮人の子だったらしい。血も出るし涙も出るようだ
ラモンはそう思い、町の隅で横たわる酷い有様の“先生”を見下ろす。マルコム勢の奴らにやられたのか、ラモンの与えたコートはボロボロ、体中擦り傷塗れだ。痛々しい有様だが、ラモンはそれをつまらない物を見るように見る。

昨日30連勝を決めた所だ。疎まれて当然だろう。

それにしても、ラモンにとって今の状況は好ましくない。近場に自分の手下はいないからだ。ただ散歩をしていただけなのに、まさかこんな状況に出くわすとは。
商売道具だから放って置く訳にはいかないが、いまいち気乗りしない。はあ、と溜息を吐き下す。そして鬼柳の横へ片膝を着いた。

「先生、生きてます?」

「……ぁ、…ぐ」

「……」

ああ生きているか。ラモンは考え、鬼柳の腕を引く。まず起き上がらせなくてはどうも出来まい、とは思うものの相手は背の高い男だ。如何せん筋肉が付かないし付けもしなていない自分の体では上手く行かないだろう。はあ。溜息が再び漏れる。

「…も……、だ」

「……はい?」

ぽつりぽつり。ふと鬼柳が声を零した。小さいそれにラモンは眉根を潜め、耳を近付ける。伺えない顔色を覗き込み、しかし無駄だと思い耳を口元へ移動した。

「……も、…いや…だ…」

「…………デュエルするのがですか」

「も………いきた、く…ない…っ」

嗚咽が溢れ始める。何回も何回も同じ言葉を繰り返す彼の顔は、青痣が沢山付いていた。痛々しい。
しかしラモンはその様を、冷めた目で見下ろす。ああこの死神はやはり所詮人間なのか、と。

「殴られて気が滅入ったんですか?」

「…も…しにたっ…い」

「普段平然ぶる先生らしく……いや、死神らしくもない」

「い、やだ…っ」

ああこの調子はよろしくない。ラモンは後ろ頭を掻きながら、憂鬱そうに晴れ渡る空を見上げた。
これじゃあ自分の大切な商売道具が自殺してしまう。それは好ましくない。ああ、どうするか。

「今死んだって、地獄にはアンタを待つ奴らの列が出来てるだけですよ」

「……ぁ…」

「30人。いや、身寄りを無くして死んだ子供も何人か居たと踏んで…40人程度…ですかね」

ラモンが言い終わった途端に、鬼柳はガタガタと体を震わせた。可哀相な程に体を震わせ、息は荒い。嗚咽が溢れ、涙がボロボロと溢れている。
ラモンはそれを楽しそうに見下ろし、鬼柳の長い髪を撫でて遣った。

「だから生きなきゃならない。殺すなら沢山、沢山殺せばいい」

「…い…ゃ、だ…」

「いずれは本当の死神になればいいんですよ。死神が死人を送って何が悪いんですか?」

思いの外軽い体を引っ張り、自らの腕の中に招き入れる。すると鬼柳はラモンの体に縋るように爪を立てた。嗚咽混じりの吐息は生きるのに必死に聞こえる。

「……たすけて、くれ」

これは死神ではなく死人だ。ラモンは空を見上げながら、気遣うような素振りで鬼柳の背中を撫でた。



 

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