捏造サテライトの食料事情
遊星と鬼柳



*



サテライトには月一で来る連絡船がある。勿論、シティからサテライトへ向かうそれはサテライトからシティへ行ける物ではない。船着き場に止まるその船の周囲には、一個団体くらいでは敵わない人数のセキュリティが配置されていた。

連絡船からは大量の食料が積み降ろされ、それはサテライトで食料品店を営む物に渡されている。それは治安維持局で定められた、まあ所謂、サテライト内で存在が極少な法の一つだ。

勿論食料はシティとは比べられない物ばかりである。
トップスは勿論シティのレストランでは到底出せない、形の悪い物はまだシティで食す物も居るが、色や匂いが良くない物、市場にすら出す兼ねると判断された物はサテライトに回された。
例えば、形がいびつな野菜や、雑穀であったり虫のはいった米、市場には到底出せないパンクズ、長時間の保存を用いれば消費の安全が確実でない肉、体調の良くない鶏や牛の卵と牛乳等である。

しかしそれですら新鮮な物としては運ばれない。

野菜は大型機械で細かく切り、ぞんざいに乾燥させられた後に大雑把に袋詰め。
肉は脂肪分を極限までこそげ取られ、それもまた乾燥して薄くした物を量も計らず袋詰め。
卵や牛乳は粉末状に加工され、液体の形でなく缶に詰められた。

これですらサテライトでは過度の高級品であった。これらの物が毎日食卓に並ぶのであれば、それはサテライトでも頭一つ高い地位に居ると考えていいだろう。




「……この目玉焼きはどうしたんだ、鬼柳」

「ん?」

遊星は今朝の食卓に乏しい表情を、珍しく驚いたそれに変えて見せている。遊星の体を向けたガタの来ているテーブルの上には、ヒビの入った皿の上に目玉焼きが乗っているという光景が展開されていたからだ。

破いて開いた紙袋上に置かれた少ないパンとその目玉焼きのみ。シティやトップスの者から見れば、それはさぞ貧しい朝食の形と見えただろう。しかし此処、サテライトでは違う。
サテライトの市民は通常、粉末状に加工された卵しか口には運べない。粉末状に加工された卵で作れる料理は、スクランブルエッグや卵焼きやオムレツ…とまあ、卵としての形を持っている料理は食べる機会などない筈なのだ。
目玉焼きはまさしくその筈などない物である。それこそ遊星は卵が卵として殻の形をしている形状を実際に見た事もなかった。

「鬼柳、卵なんか何処で」

「気にすんなよ。ほら」

椅子から立ち上がり、心配そうに鬼柳へ歩む寄る。しかし振り返った鬼柳は、遊星に微笑みを向けて透明のグラスを渡した。遊星は咄嗟の事であった為に、黙って受け取る。

何をする気か、と鬼柳を見ていると、鬼柳は足元に置いてった紙袋から何やらビンを取り出した。それは薄赤の細いラベルが巻かれている、掌二つ分程の大きさのビンある。中には白い液体が入っていた。

「遊星、牛乳好きだろ?」

ああ、これは牛乳なのか。粉末状の牛乳すら高級品であった為に、日頃真っ白にはならない程に薄めて飲んでいた遊星は鬼柳の言葉を聞き、目を見張った。

何か怖い、聞いてはいけない雰囲気がする。遊星は考えながら、まず戸惑い気に鬼柳の名を呼んだ。
しかし鬼柳は「どうした?」と逆に普段と違う態度の遊星に、真剣に心配したような声を出して見せる。言いながら、鬼柳はビンを傾けて遊星の持つグラスへ牛乳を注いだ。

「あ、そうだよ、ベーコンも手に入ったんだ。でも雑誌にあったみたいな、卵との焼き方わかんなくてさぁ」

鬼柳は笑う。聞いてはいけないのだろうか、何故、どうして、何処で手に入れたのか。
遊星は物を言おうと開けた唇を、ゆっくりと閉めた。



 

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