クラッシュタウン編前
旅に出たボマーと鬼柳



*



遊星達に何も言わずに旅に出た。旅は中々楽しく思える。
旅をして一ヶ月経った。気ままで気ままで、とても楽しい。

空は青くて、雲は白い。空気も澄んでて、ああ、なんというか、

(……サテライトの外って、本当に広いなぁ…)

思考を遮るようにがたんと車が揺れた。
ヒッチハイクの旅で、今俺が座っているのは何台目とも分からない心優しいドライバーの車の荷台。眺める景色は一面の荒野。

「あと数分で下りるが支度は平気か?」

「お、おう」

ボマーが俺に声を掛けた。言われ、俺は置いておいた鞄に手を掛ける。焦って行った行動で結んだ髪がぱさりと鳴った(肩辺りまで伸びてる)。

ボマーは俺が夜逃げした時に偶然出会った奴だ。
夜逃げというのは、俺が遊星達の居るポッポタイムとやらに居られなくなって夜に逃げ出した事を指す。
居場所のなさに絶望したのだ。元より幼少期を別に過ごした俺はかなり三人に距離があったのだが、セキュリティに収容されていた時間はそれを更に強めた。
距離のある俺を気遣う遊星も、比較的優し気なクロウも、以前より丸くなったジャックも。哀れみに気遣うようで、他者だからこそ上っ面を優しく見せているようで、俺の知らない間にアイツらが成長したってのも、もう全部が全部虚無感溢れる淋しさに繋がって、もう、耐え切れなかった。
そして「旅に出る。まあ心配すんな」と拙い字で書き残して窓から逃げた。少し心配してほしくて、俺の存在の必要性なんかを感じてほしくて、そんな感情もあったと思う。
俺はむしゃらに走った。何処かへ行こうと、逃げようとしていた時にボマーに会ったのだ。

ボマーは俺がシティで寝ていた時にも(正直いまだに何故あんなコートを着て、シティの地面で見知らぬ男女入り乱れておねんねしてたのかは理解不能だ)一緒にいた奴である。
その時の事もあり、意味不明な現象の被害者同士という仲間意識に近かったが、俺はボマーに好感を持っていた。だから、「旅に出るつもりだ」と言ったボマーに着いて行く事にしたのだ。ボマーは少しばかり渋ったが、最後は引き受けてくれた。


「あの山を越えたら故郷に向かうが、お前はどうする?」

「俺……んー…わかんね。その時考えるよ」

がしゃりと様々な用具が当たりあっているらしく、鞄を持ち上げると音がした。
ボマーは俺の返答に頷き、わかったと言う。
と同時か、ボマーの鞄から無機質な着メロが鳴った。音は小さい。

ボマーと旅して来た中で、ボマーに着信があるのは初めてだ。携帯を取り出してメールを確認する姿を、俺は車に揺られながら眺める。

「………誰からだ?」

「不動遊星」

「は」

ボマーは呟き応えた後は、ぽちぽちと図体に似合わずちまっとした返信作業を始めた。
俺は暫く黙り、それから意味わからないくらいに込み上がった感情に合わせて声を上げる。

「なんてメールしてんだ?」

「今は旅してる。何処まで来ているか。だな」

「……っはぁああ!?俺夜逃げした意味ないだろそれじゃ、」

「安心しろ。お前の名前は出していない。一人旅と伝えている」

「……」

ぽちぽち。拙い返信作業を続けたまま、ボマーは言った。視線はただただ携帯へ落ちている。

「あ、そう」

「ああ」

「……ふーん…そっか…」

「ああ」

「………………」

「残念そうだな」

「………んな事ねぇよ」



 

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