満足同盟期のクリスマス
クロウと鬼柳



*



雪がしんしんと降っている。寒い寒いと騒いでいた鬼柳も、今では毛布に包まって無言を押し通していた。
俺はというといれたての紅茶(ティーパックを使いまわしているので、最早色付け用具だ)を飲みながら体育座りで修理したてのストーブの前を陣取っている。暖かい、暖かいのだが、少しばかり熱が高すぎる気もする。後で遊星に調整した方がいいと言うか、と考えながら俺は古い時計に目を移した。

「……もうこんな時間か」

「何時だ?」

「起きてたのかよ」

「寒くて寝れない……で、何時だ?」

「23時」

のそり。鬼柳は毛布から頭を出して俺を見た、そして時間を聞くと少し考えたようにしてから気怠そうに立ち上がった。

「俺もう寝なきゃダメだわ」

「……早いのな」

「だってサンタさん来るだろ」

「………………は?」

鬼柳は笑って言って、毛布を頭から被せたままズルズルと部屋を出ようとする。なので、俺は暖かいストーブは2度程名残惜しく見ながら、立ち上がって鬼柳の後を追って肩を引いた。

「サンタっつったか?」

「ああ。今日はイヴだろ?だからサンタさんが来るから、」

「いやいやいや待て待て待て」

「ん?」

「お前今何歳だ?」

「18」

「………あのなぁ」

はあ、と隠す気もなく溜息が出てしまう。全く、なんというか。
良い年してサンタを信じている、だとか。ああなんていうか幸せな奴だなぁ。全く。頭痛い。
俺は「どうした?」と不思議そうに尋ねる鬼柳を見て、少し考えてから口を開いた。

「サンタが居ると思ってんのか?」

「居るぜ?」

「……本気でか?」

「本気も何も、居るだろ?」

頭痛い。真顔で何を言うか。

(…ああ、なんか初めて会った時を思い出すな…)

サテライトを統一する、だとか真顔で言っていた。懐かしい。最初は頭可笑しいと思っていたのだったか、ああ本当に懐かしい。今実際、サテライト統一まではすぐだ(あと2地区、だったか)。

「居るっつってもなぁ、だってお前…」

マーサの所で育てて貰って、それなりにサンタを信じていた時期が俺にだってあった。しかしマーサの所にいた頃でだって、サテライトを目の前に俺はサンタを信じる事が不可能になっていった。

(……こいつは、孤児院に居た訳じゃない…よな…?)

ふと違和感が頭に渦巻く。そうだ、鬼柳は環境が俺達とは全く違った。孤児院に居た訳でなく、サテライトを保護なく生きて来た筈だ。なのに何故サンタを信じているんだ?なんでそんなにも純粋に?

「……サンタに、」

「んー?」

「……サンタさんにプレゼントを貰った事…あるか?」

俺は恐る恐る聞いた。鬼柳は俺の質問に瞬きして見せ、しかしすぐに普段の満面の笑みをして見せる。
それが無邪気で、本当に無邪気で何が不幸かも知れない無垢な表情だったから、俺はぎゅうと心臓をわしづかみされたように胸が痛んだ。

「無いけど?」

「………そう、か」

「ほら俺、悪い子だからなぁ。盗みとかするしさ、サンタさんも見てんだろ、そーゆーの」

な、と鬼柳は笑って見せた。そしてそのまま「お休み」と呟いて部屋を出ていく。俺は無言でそれを見送り、きゅうと痛む胸元を爪を立てて撫でた。



 

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