クラッシュタウンにて
無気力鬼柳


*



棺の中はしんとしていた。外からは少しばかり声が聞こえる。
遊星と誰かが言い合っていて、普段温和な遊星の声色としては些か首を傾げてしまう雰囲気だな。ああだけど遊星はさっきからあんな調子だったか。
まさかこの町で遊星に会うとは思わなかった。最後に見た遊星の顔は、そう、救いたいという感情一つだったな。遊星はいつまでも真っ直ぐな奴だ。変わらないあの時と。
思案もそこそこに、鉱山送りの馬車はガタンと一度大きく揺れた後に動き始めた。静かな棺の中には自分の吐息と馬車が石を蹴り上げる音だけが響く。

(…何かに似ているな…)

少しばかり引っ掛かった。ひんやりと冷たい棺の中は無音に近く、音は別世界から響くような感覚。

(……ああ、思い出した)

裏切り者と遊星を罵ったあの日だ。あんなにも大切だった人間をあんなにも憎んだのは、きっとあれが最初で最後だろう。
セキュリティに連行されたあの送致車の中の、あの雰囲気に似ていた。まああの時はざあざあと雨の音が耳鳴りのように聞こえ、憎しみや怒りや恐怖から発狂したようにメンバーの名前を叫び、運転していたセキュリティの奴らに咎められる程に壁やら床やらを叩き回ったのだが。今は全く違うか。静かに瞼を閉じて物事を思案出来る。

それに此処は居心地がいい。



 

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