嫌い




僕、また京介君家に行きたいな。という僕の言葉は、じゃあ今度の日曜日に行くかという事で受け止められた。

僕と京介君達が知り合ったのはつい先日。先月来た転校生であった僕を遊星や京介君は優しくしてくれて、また他のクラスの生徒である二人の友人も仲良くしてくれた。遊星とは趣味が合い、京介君とは思考が合う。クロウは優しくしてくれるし、ジャックは…まあ、構ってはくれる。

大分学校にも慣れてきて、先日京介君の家に行った。くだらない話をしたりして賑わっていたら京介君のお兄さんが帰ってきて、僕はその日初めて一目惚れという現象を体験した訳である。
京介君より長い髪の毛は何故か京介君よりずっとずっと美しいものに見えて、黒いコートを着た細身の体はとても儚く見えた。背は高いが僕よりは低く、また物悲しさを纏った雰囲気や白い肌なんかが酷く魅力的に見えて、一瞬にしてずどんと僕は恋に落ちたのである。名前は馨介さん。紛れも無い男性だった。
しかし僕はだからと言って引く気はない。恋は平等である筈だ。あちらがどう思うかは別として。





日曜日。仕事も休みなので、足りない日用品を買いに近所のデパートに来ていた。雑貨の棚を見上げ、歯磨き粉が無かったなと考えながら手に取った安めのそれをカゴに入れる。
あとはもう大丈夫か、と踵を返そうとして、ああと菓子のコーナーに向かった。
確か今日は京介の友人が昼から来るそうだから、何か買って行ってやるか。
適当にスナック菓子を数個取り、カゴに入れた。


家に帰ると玄関にある見慣れないいくつかの靴を確認すると同時に、楽しそうな声が聞こえる。もう来ていたのかと一人頷き、靴を脱いだ。

「京介、菓子買って来たが…」

「え?マジ?ありがとー!」

ひょいとリビングに顔を出して言うと、京介が嬉しそうに駆け寄って来る。可愛いなと頭を撫でてやると、照れたように俺を見上げて笑いながらまた、ありがとー、と言った。最後にぽんぽんと頭を撫でて菓子の入った袋を渡す。
テレビ近くのソファに居る、4人の京介の友人達がぺこりと頭を下げるのが見え、こちらも返した。

「あ、そうだ。兄ちゃん車買い替えたいって言ってたろ?」

「ん?……ああ、まあな」

元気に友人達の元へ去ろうとした京介が、足を止めて俺にそう言う。
車を買い替えたい、とは常々思ってはいた。だが言ったのは一度だけだった筈だ。京介は覚えていてくれたのか。優しい子だ。

「あそこに居る、ブルーノって奴。車に詳しくて、しかも駅前にあるあの車店の偉い人の息子だから、色々相談してみなよ」

言われ、ブルーノと呼ばれた子を見る。遊星やジャック、クロウという名前はよく聞くが、ブルーノ…ああ確か先月来た転校生だったか。
手前のソファに座っているブルーノという子を見ると、話が聞こえていたのかニッコリと笑って俺を見ていた。愛想の良い子だな。
駅前の車店というとあの大きめな店だろうか。つまり京介が言いたいのは、友人コネで安く買い替えられるかもしれないと言う事か。いや、まあ悪くない提案だ。

「…けど、折角遊んでいるのに邪魔だろう」

「ブルーノから提案したんだよ。好意は受けなって」

そう言って、京介はソファへと帰る。レーシングゲームをしているようだ。遊星という子とジャックという子が白熱した戦いを繰り広げている。それを見てから食卓用のテーブルに先程買った日用品を置き、手前のソファに座る青年の元へ向かった。

「…えっと、ブルー…ノ君?」

「ああ、ブルーノ、でいいですよ」

「…そうか。…じゃあブルーノ、車についてなんだが、また改めた日の方がいいか…?」

「いえいえ、今で構いませんよ…!」

笑顔でそう言うブルーノ。酷く明るい表情だ。じゃあ手短に済むようでいいから、と呟き、空いているソファに座る。
京介は気を利かせてくれたのだろうけれど、俺は他人と話すのが苦手…いや、嫌いだ。確かに車は買い替えたい。コネがあって安くなるだなんて更に良い。
けれどこういう笑顔の映える人種と話すのが一番苦手だ。

とは思っていたのだが、暫く話していると彼がいかに良い人物なのかが分かる。話し易かった。話題は彼が途絶えさせないし、俺の言葉は尊重してくれる。思いの外、話は楽しかった。

「じゃあ、あまり大きめでなくても平気ですね」

「そうだな…主に通勤だけだ。ほとんど貰い物だから、デザインが気に入らないだけで…」

「……馨介さんは…その、彼女とか、乗せたりするんですか?」

「……彼女?」

戸惑うように、あからさまに前後と態度の違う様子でブルーノに聞かれて思わず大きく首を傾げてしまった。
…高校生は彼女という言葉に、こう…敏感なのだろうか。傾げていた首を戻して気を遣わせないようにやんわりと笑う。

「…残念ながら、彼女はいない」

「あ、そう…ですか。…すいません、なんか」

苦笑しながら言うブルーノ。赤くなってしまっている頬を掻いて頭を下げる仕種にやはり気を遣わせてしまったかと眉根が寄る。俺はこういったように他人に気を遣わせてしまう性格をしていて、嫌になる。ブルーノのような性格になれたらそれはすごく良い事だろうに。

「……そうだ…!馨介さん、メアド教えて下さいよ。帰ったらパンフとか写メして送りますから」

「…ああ、すまないな。助かる」

再び人懐っこい笑顔でブルーノは言う。優しい子なんだな、と携帯を取り出して、メールアドレスの赤外線通信を選んだ。ブルーノも携帯を取り出す。

「……はい、完了です」

「…すまないな、本当に…色々と」

「いえいえ、僕とても楽しかったですよ…!」

ブルーノはそう言いながら携帯わ閉じる。始終ほとんど笑顔だった彼は、純粋にすごいと思った。京介がこういう友人を持っていてよかったと思う。



***



何故かいきなりブル→馨に滾ったので書いてしまったorz

ブルーノのは策士なので、メアドを入手したり彼女確認したりはさりげなくすると思います。
そして後日二人で会う約束までもこじつけたりしたり(^ω^)

馨介さんは純粋無垢なので、ブルーノをただの親切な子としか考えていないとかそんな。
馨介22歳、ブルーノ17歳かな。この年上キラーめ…!←







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