チーム解散後
鬼柳が好きだったクロウとピアスン
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名前を呼んではくれないのかと、前触れもなく話題に上げられた。俺は一瞬、ピアスンが何を言っているのかを理解出来なかったので、椅子に座りながら歩み寄っていたピアスンを見上げて首を傾げる。ピアスンは困ったようにぞんざいな仕種で後ろ頭を掻き、それからもう一度言った。
「俺の名前だ」
「……ピアスンの?」
「ああ。あいつの名前や、子供達…たまに話題に上がる、遊星?だったか?そいつらは名前で呼ぶだろう?」
あいつ、とピアスンは後方でパソコンを操作しているヴォルガーを指し、それからそこいらで遊び回っている子供達を優しそうな目で見た。
「何故名前で呼んでくれないんだ?最近になって、少しばかり疑問に思ったんだ」
「……あ」
そう困ったように笑って言うピアスンの表情が昔、よく見た事のある表情だったのでつい泣きそうな声が口から漏れてしまった。
「…呼ぶように…心掛けるよ」
「あ、いや、別に強制している訳じゃ……ないからな」
ピアスンが話している最中にふらりと椅子から立ち上がり、奥の部屋へ歩いて行く。付け加えるように、気を使うように言うピアスンの声を聞きながら、俺は泣きそうなのを必死に堪えた。
鬼柳もよく俺に名前を呼ぶように、何故名前を呼ばないのか、そういう話題を持ち掛けたのだ。その度に適度にはぐらかしていたのだ、俺はただ愛しい相手の名前を呼ぶのが気恥ずかしいから、それだけで。
いつかは呼ぼうと、思っていた
だが鬼柳は死んだのだと、知らされたのは先月だ。もう俺はあいつを名前で呼べない。そんな過ちを犯したにも関わらず、俺はまた愛しい相手の名前を呼べずにいる。
だがいつかは必ず呼ぶ。呼びたい。時間が掛かってもいいから。
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