クラッシュタウンにて
駄目な鬼柳が好きなラモンと癇癪持ちの鬼柳



*



俺と同じくらいに白い頬は殴ると綺麗に赤く染まった。跡がくっきりと残るのは俺と同じらしい、昔セキュリティで殴られた後に薄汚れた鏡を見たあの瞬間を思い出す。記憶を掘り返したせいでまたむくむくと苛立ちが募って来ると、目の前に倒れているその体をずるりと引っ張った。ひ、と随分情けない悲鳴が聞こえたのを嘲笑すれど気には止めずにそのまま俺同様にだらりと鬱陶しそうに伸びた髪を引っ張る事にする。ぎちぎちと皮膚の引っ張られる音がして悲鳴は更に大きくなった。

「なあラモン愛してる」

「…せ、せんせっ」

「喋るな煩い」

助けを乞う表情で見上げられ虫酸が走ったので床へ突き倒した。その軽い体はだん、とつまらない物音立てて床に寝ると再び情けない悲鳴を上げる。
ラモンは俺が好きなんだろう知ってるよく分かる。品を見定めるような舐め回すような視線、サテライトでよくされたその物の見方に俺はすぐ気付いたからだからラモンを部屋に誘うのは容易だった。たった一言、愛してる、それだけ。言ってするりと肩に腕を絡めるだけでラモンは滑稽にもまんまと俺の寝泊まりする部屋へと来た。何を期待してたのだか知らないがそんな男を殴り倒すのは容易で、しかも抵抗も反抗もしないのだから心底滑稽である。

「……愛してる、ラモン。ごめんな痛いな」

「…ぁ、…く」

「ああほら、視線を反らすなよ。俺が好きなら、な?」

気まずそうにやりづらそうに、ラモンは視線を床に落とした。瞬間踏み込んだ左足に力を込めて右足で下腹を蹴り上げれば、ぎりぎりまで抑えられた悲鳴が聞こえる。跳ねた体は仰向けになり、しかし痛みに震えて横座りになりながら俯せになった。そのまま辛そうに額を床に擦り付けて唸って、息を整えながら黙る。

床に膝を着く。木目の見える木製の床はごとんと音がして、気配や音に反応してラモンは顔を上げた。はあはあと辛そうに息の吐吸を繰り返し、両肘を床に着いている。にこりと笑ってつむじにキスすれば、びくんと体は揺れた。くすくす笑って髪を撫でて遣る。臆病に息が潜められるのを聞きながら、俺は何かきっかけがあるでもなくに突然に興が削がれたので口元に張り付いていた笑顔を無くした。そのままずるりと床に寝る。

「……先…生」

「…………」

返事はしない。何もかもが面倒になって、強く瞼を閉じた。指先にはすぐ横で痛みをやり過ごすラモンの服が触れている。小さく指先で撫でて、すぐに離した。ラモンは呼んでからは何も言わない。息は大分整ったようだ。なんだかもう殴る気力がない、俺はなぜあんな事をしたのだったか。後悔はないが。

「……俺はどんなアンタでも…」

ああやはりお前は馬鹿だよラモン殴ってやりたい渾身の力で殴って泣かせたいよ。酔狂な奴は皆死んでしまえばいい、つまり、俺も。
愛してる、と呟く声は笑みが込められていた。だからという訳ではないが俺は何故か涙が止まらなかった。



 

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