94話ネタ
クロウと鬼柳
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電話が掛かって来た。
一応持っている携帯の着信音を酷くシンプルなもので、以前ウェストにこれにしようよとよくわからない賑やかなものに変えられてしまったくらいだ。その後すぐにニコが戻してくれたが。
誰からの着信かを見ると、クロウだった。クロウからの連絡は初めてで、少し戸惑ってから慣れないように通話ボタンを押す。
「……もしもし?」
『………鬼柳…』
クロウには珍しく、ボソボソと弱々しい声で名前を呼ばれる。元気がない、のだろうか。どうした、と聞くとクロウは暫く黙った。吐息が聞こえる。息は荒いようだ。雨の音も聞こえる。
もしかして泣いている、のか。
「……なあクロウ、どうした?」
『…俺、』
「うん」
『………俺…っ』
嗚咽が聞こえた。クロウのこういう声は初めて聞く。
俺はただ、うん、とクロウが何か話すまで返した。今俺が話しているクロウは、どんな表情で俺に言葉を伝えようとしているんだろう。どんな気分で俺に言葉を伝えようとしてるんだろう。
どういう感情で俺に電話したのだろう。俺じゃなきゃいけないから、なのだろうか。
『……悪ィ…俺、何言いたいのかわかんね…』
「ん。……俺、今クロウを抱きしめてやりたい」
『…はは…俺も抱きしめられてーよ…』
目の前に居たら抱きしめるのにな。手持ち無沙汰な片手を握り締めて、携帯越しで意味もないのに俺は笑った。
「クロウは頑張り屋だからな。あんま頑張らなくていーんだぞ?」
『……ん』
子供のように返事が返ってきて、あははと俺は返す。クロウも弱々しいながらも笑って返してくれて俺は少しだけホッとした。
クロウは何かと抱え込む癖があるから、だからたまには発散しなくてはならないと思う。何があったのかは知らないが、正直俺に電話してくれたのは嬉しかった。
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