ラモンと鬼柳
*
酒は呑まないんだ。言うとラモンは俺のグラスに注ごうとした手を止め、暫く考えたようにしてから砂糖の入ったソーダ水を棚から取り出す。そうして俺のグラスに適量を注いだ。
「というか…お前は昼間から酒を呑むのか」
「ああ、はいまあ」
「……修復作業はまだ序盤なんだが…」
「そうですね。けど今日は休みじゃないですか」
「……」
そうだが、と続けようとして止めた。なにを言ってもラモンは酒を呑むのだろう。ラモンと俺は以前より話すようになり、今ではこのサティスファクションタウン唯一の……友…人…?…話し相手、そう、話し相手だ。
「……なあ」
「はい?」
「なんでお前はまだ敬語なんだ」
確かに俺はこの町の復興指揮を受け持っている。しかしだからと言って敬語は要らない。皆敬語は使わないのだ。この町で敬語を使うのはラモンとニコだけ。サテライトでチームを組んでいた時では敬語なんて有り得なかったから、距離を置かれているような気分になる。
「……先生は」
「ああ」
「チームサティスファクションのリーダーだったんですよね」
「……まあな」
ラモンは応えると、グラスに入った酒を呑む。控え目に上げられた目は真面目な表情だが、しかし目が合うとへらりと笑われた。
「だからです」
「…?」
「だから敬語を使うんです。チームサティスファクションのリーダー、鬼柳京介、だから」
「……」
「ずっと尊敬してたんです。俺より年下の奴らがサテライトを支配したって聞いてから」
やんちゃして痛い目合うのは当たり前で、そうしてセキュリティに捕まったとは聞いていた。
ラモンは軽く説明をし、それから伸ばした手で俺の左頬に触れる。酔っているのだろうか。マーカーをゆるりとなぞり、ラモンは机に突っ伏した。
「あんだけの事してセキュリティから出てくるなんてすっげえっすよ本当、本当すっげえすよ…」
ラモンはそう言って笑う。楽しそうなそれは確実に酔っていると思う。
ただ死んだだけだ。死んで、仲間を傷付けて、消えて。遊星に助けて貰っただけだ。すごくない。すごくはない。
|