しょうもない




グツグツと音のする鍋。蓋をしめたそれは、あと数分煮込まなければならない。それだけで美味しさが大分違うから。鍋の横にある中鍋の火加減も気にしつつ、皿を出して置く。
それから炒め物。とても簡易な炒め物だけど、味付けは自分好みにしておいた。文句は言わせない。炒め物を皿に盛り、とりあえずキッチンに置いておく。

「…やっぱり凄いな」

「何がですか?」

「……手際とか」

言い、手持ち無沙汰に横にいた鬼柳さんが「これ持って行くか?」と炒め物を指差す。頷くと鬼柳さんはそれをリビングへ運んだ。

鬼柳さんの家は、兄弟と三人暮らしだ。
中3の狂介と高2の京介(今まで数回この家に訪れたが、この二人はなんだか人懐っこい)それらを養う鬼柳さんはすごいが、だがこの人達の食生活が恐ろしかった。
育ち盛りが二人も居るというのに、食事がカップ麺かコンビニ弁当だという。たまに外食もするらしいが、だがなんにしても不健康及び不経済だ。
という話をした所、何故か俺が鬼柳さんの家で手料理を披露する羽目になった、というのがほんの数週間前。現在は3度目の手料理披露中である。
一人暮らしを始めてから、金銭面的にも料理は必須だったから、料理出来るのは当たり前なつもりでいた。だがどうやら、この適当な料理ですら彼らには喜ばしいらしい。よくわからない。





「ラモンの料理、やっぱ美味いよ」

「うん美味い美味い。すっげー美味い」

「そうだな、確かに美味いな」

「…そうですかね」

食べ慣れた自分の味付けではよくわからない。里芋と人参と豚肉の煮物を食べて、やはり慣れてしまった味に首を傾げる。
食材も自分の家の余り物や、コンビニで買えた物なんかの集め物だ。どうせならもっとハンバーグだとかそれらしい手料理を披露したいのだが、どうも毎回こういった有り合わせ食材で作る有り合わせ料理ばかり。
だが皆美味しいとは言ってくれる。

「誰かに習ったの?」

「ああ、いや、自分で適当にだな」

「へー!すっげー!」

京介と狂介が和気藹々と言う。明るい兄弟だと思う。
普段は自分の部屋で、今日より適当に作った料理食いながらテレビ見るだけだから、こういった和気藹々とした食事は正直、貴重だ。

「自分なりに、好きなように料理するから最初は黒焦げばっかだったけどな」

「でも上手くなったんだよな。すげーよそれって!俺に料理教えてくれよ!」

京介はそう嬉しそうに言う。
料理を教える、はいいかもしれない。そうすれば今後この家の食生活はコンビニ弁当やカップ麺なんて不健康さは有り得なくなるだろう。京介が料理下手でもなければ。

「…京介、ラモンは忙しいんだぞ」

「あ、いやいいですよ。今度の休日、良かったら教えに来ますけど」

言えば、鬼柳さんは「すまないな」と笑う。こういった表情は、よく家に来るようになってから見れるようになった。打ち解けた、と考えていいのだろうか。

「マジで?ラモンまた来んの?やった」

狂介は嬉しそうに笑う。狂介にはなかなか懐かれている。ただ理由がよくわからない。ああ餌付けか、それ以外ないな。
隣に座っていた狂介の頭をぐりぐりと撫でた。

「じゃあ今度の日曜でいいっすかね」

「ああ。…ありがとう、ラモン」

「お礼なんていーっすよ。俺、料理とかって好きなんで」

鬼柳さんも、少し嬉しそうに笑う。笑った表情は兄弟揃ってよく似ていると思った。



***



ラモンは料理上手なんだよ、って書きたかったから書いた。後悔はしていません(^ω^)

煮物、炒め物、味噌汁、大根の浅漬け。が今回の食卓でしたと。







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