クロウと鬼柳

*


井の中の蛙、大海を知らず

鬼柳はその言葉を脈絡も無く呟いた。ソファに寝そべる鬼柳を見て、首を傾げる。鬼柳は言った。

井戸の中にいる蛙は、海を知らない。けどなんで蛙は井戸の中に居たんだ?誰かに入れられたのか?蛙は海を知る前に入れられたのなら、可哀相だ。大海どころじゃない、自由も愛も他人から優しくされる事も知らないじゃないか。

知らねぇよと一蹴したくなった。鬼柳は切にそう言い、物悲しそうに眉根を寄せる。
それを見て、それから意味を察して胸が痛んだ。
鬼柳はあまり過去を話さないが、聞いた事のある話が一つある。彼は所謂、捨て子であったと言う事。廃止された店のコインロッカーの中に放置された赤子であった彼の話。そこで拾われたのだと聞いた事があった。
もしロッカー内の薄白銀髪の子供を井戸の中の蛙に例えたのなら、それは一蹴出来るような話ではないのだろう。
俺は暫し思案して、それから言った。

井の中の蛙大海を知らず。されど空の青さを知る。
蛙はただ井戸の中でくさってる訳じゃない。蛙は海に憧れ、空の素晴らしさを知ったんだ。

聞くと鬼柳は少しの間だけ黙った。しかしすぐに立ち上がり、にっこりと笑う。
俺ちょっと出てくる。すぐ帰るから。
清々しい笑顔で鬼柳は外に向かった。



 

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