霧
「霧雨だな」
「だなー。傘ささなくて平気か?俺、傘無いんだ」
校舎から出ると、校庭が白靄掛かっていた。風に流されてポツポツと顔に掛かる冷たい粒を払って、鬼柳を振り返る。
まだ靴を履いている途中のようだ。鞄片手に片足浮かせて履いているので、気を効かせて鞄を受け取る。鬼柳はあんがと、と呟いた。
「クロウ、どーすんの、帰りゲーセン寄る?」
「いやまあ、本降りになるかもしんないからな」
「そうだな、じゃあ帰るか」
「だな」
近くのゲームセンターに新しいレーシングゲームの台が入った。と聞いたので、一緒に行こうという話になったのだが、直帰決定みたいだな。
折り畳み傘は一応鞄に入っているが鬼柳が持っていないなら出すのは止めておこう。うん。
「なーんかゴメンなクロウ、折角一緒に残ってもらったのにさー」
「本当だよ、俺は英語の補習なんて無関係だっつの」
校庭に出て、髪が濡れるのを気にしている鬼柳が少し早歩きになる。雨が降るのが分かっていたなら、先に帰ってしまった二人と一緒に帰ったというのに。
…いや分かっていても結局、鬼柳と一緒に帰ったな。
「なあなあ、今からクロウん家行っていい?」
「あ?なんで?」
「いや今日さ、帰っても遅くまで家誰も居ないんだよ」
「へー。珍しいな」
鬼柳の家は三人兄弟で暮らしていて、親が居ない。だからか分からないが仲が良いようだ。
それは鬼柳の普段の話題でよく分かる。よく話題に上がる兄弟達の話はとても楽しそうに繰り広げられるのだ。
長男の馨介さんは社会人で帰りが夕方だとか、三男の狂介はまだ高校生でバイトしまくりだとか。妙に鬼柳の兄弟について知識があったりする。
「淋しいって訳でもないんだけど、補習とかかったるいの帰って一人ってなーんかなぁー…ってさー」
「あーなるほどな」
「平気?」
「最近部屋散らかってんだよなー。まいっか」
「うん大丈夫大丈夫」
なんだその返事。にこにこと笑いながら鬼柳は言う。
本当になかなか散らかってるけど、まあこの間見た鬼柳の部屋に比べれば大丈夫か。鬼柳の部屋は綺麗な時は綺麗だけど、汚い時は汚いから。
霧雨で濡れた髪が額に付くので退けて、ふいと空を見る。あ、と声が漏れた。
「晴れたぞ、鬼柳」
「おお」
「ゲーセン行くか?」
「クロウの部屋がいい」
「あー、そう」
***
クロウと鬼柳でほのぼの書きたかったので、SS投下。
この二人は良い意味でも悪い意味でも友達以上恋人未満でいて欲しい。好きだよクロ京。
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