難渋トラバーユ


 




ロットンから解放されたこの町は、現在死神――もとい、鬼柳京介を町長としたサティスファクションタウンとして動いている。
町の者は鬼柳に従い、町の復興に取り組んでいた。勿論、死神と謳われていた鬼柳をよく思わない者だって何人いて、マルコム勢力であった事を誇りに思っていた奴らだって、鬼柳をよくは思っていなかった。
しかしなんというべきかか、鬼柳には人を引っ張る力があるらしい。
鉱山から取れる鉱物の管理作業の指揮を任されているラモンは、それをよく知っていた(作業をよくサボり、鉱山付近から抜けて復興中の町に顔をだすからである)。
鬼柳はそんな一筋縄ではいかない奴らを一人一人話し合って話し込んで、打ち解けようとする人物であった。

「アイツならこうしたと思ってな」

作業の効率も何もない丁寧な人当たりに不思議がって質問をしたラモンは、そう鬼柳に笑って返された。
実際、そうして鬼柳と話し込んだりした奴は、大体その後鬼柳によく従っていた。中には鬼柳を純粋に尊敬していた者より従順になってしまう奴もいたぐらいである。

それ程まで、少しの時間での会話で人を惹き付けてしまうまで、鬼柳京介は魅力的な人物なのだろう。そう、彼に惹き付けられている人間の一人であるラモンは思った。

(アイツってのは、アイツを指すのかね…)

ラモンはジリジリとフィルターを焼く煙草を銜え、ぼんやりと考える。今日は珍しく作業が全面休みの日で、復興の進んだ町は酷く賑わっていた。
箇所箇所に華やかな彩りの花々が飾られ、十字路になった町の中央には近場の酒場から引っ張りだしたのか、木製の椅子に座った数人の楽器隊(といっても各々趣味の楽器で即興曲を奏でているだけだ)が明るい曲調を町に響かせている。
日頃の労働を労るように町中では少量ながら酒や食事が振る舞われ、過去デュエルタイム時に何人もの人間が立った路上は沢山の机が並べて置かれ、男女も老若も入り乱れて賑わっていた。

(…まるで祭だな)

冷めた意識も自覚しているが。ラモンは店員も込みで、人の全くいない宿屋の2階に居る。窓際の壁に寄り掛かりながら、下方で盛り上がる町の者を眺めていた。
持ち歩いていたアルミ製の軽い灰皿に煙草を押し付け、窓につけられた鉄の柵にだらりと体を預けて呆ける。

「…不動…なんだっけか」

ぽつり。小さく思考が声になった。ラモンはぼんやりと、鉱山送りにされたあの日の事を思い出す。
ああ確か遊星だ、と名前を浮かべ、そのまま手持ち無沙汰であった両手でポケットを探り煙草を探した。しかし先程の煙草で終いであった事を思い出し、肩を垂らす。

(……先生は、不動遊星を酷く尊敬してる)

よなぁ、と最後は声が漏れた。見下ろした町はやはり騒がしい。途中、自分の部下や夜によく世話になる艶やかな女性等が手を振るので、ラモンはその度に苦笑いに近い表情で手を振った。

(確かに根性すげぇ奴だよな、ロットン倒すし)

不動遊星。ラモンには鬼柳の次に、と付くがすごい奴だと印象があった。実際遊星は鬼柳を打ち負かせたし、鬼柳の生気を立て直すきっかけになった本人である。
が、ラモンからすれば鬼柳が一番に思えてしまうのだ。町を復興していく中でもそう思っていた。鬼柳には、そう、カリスマ性があるんだろう、多分。ラモンは考えて一人頷いた。
しかし鬼柳がそうなる過程に、あの不動遊星が居たことも確かなのだろう。ラモンはあまり考える事が好きな質ではないが、今回ばかりは思考以外する事もないので考えは止まらなかった。

「……町長だからなぁ…」

ああ、と思わず感嘆(というか最早呆れだ)の声を上げ、ラモンは左方から歩いて来る人物を見下ろした。
そこには人込みの中で数人に話掛けられながら歩く人、鬼柳京介が居る。困るように笑う鬼柳の両サイドにはニコとウェストが居た。
大方、折角のオフで子供達と過ごしたいのに仕事の話でもされているのだろう。ラモンはそれを暫く無言で眺め、それからアルミ製の灰皿を無遠慮に放置して、宿屋のその部屋から出た。




鬼柳は困っていた。

普段は半ば押し付けで町長の仕事をさせられている自分は(勿論文句はないのだが)、帰りは遅いし身も心もくたくただしで、疲れるのも勿論だが何より自分と暮らしている子供二人と過ごせる時間がないと思っていた。しかし今日は、なんとか通した全面作業オフという日である。

(だから、ニコとウェストと一日、家族らしく過ごしたい…)

鬼柳は町長になると同時に、父親を亡くしてしまった互いが唯一の家族である姉弟の親代わりになった。
鬼柳自身、過ごした環境が環境であったから家族が、親がどういう存在かの知識は付け焼き刃でしかない。しかしそれでも、愛している二人には安からな家族の時間を与えたかった。

(……のに、これだ…)

うんざりと溜息を小さく吐く。
賑やかな祭の真ん中で、鬼柳は町の地図や近場の街との交流の件の書類を見せられながらくらりとする頭を撫でた。

分かってはいる、分かってる。この仕事を強要する彼らだって今日は休みたいのだろうと。しかし仕事がある以上片付けなくては次に進めないのだから仕方ない。

(頭が痛い…)

ふと目線を下げれば、心配そうに見上げるウェストと、微笑むニコ。優しい子達だと鬼柳は苦笑で返す。文句なんて全く言わないのだから、愛しくてたまらない(いつか文句を少しでも言われるくらい打ち解けて欲しくもあるが)。

「鬼柳さん、私…私達は構いませんから、だから仕事の話、しに行っていいですよ?」

「……ニコ」

「僕も大丈夫だよ!」

「……ウェスト」

ね、と二人共微笑み合い、そして鬼柳を見上げた。胸が痛い。泣きそうだと表情を崩さないながら、鬼柳は瞼を閉じる。

少し間を空けて、それから急かすように名前を呼ばれて鬼柳は瞼を開けた。そして堪忍したように笑いながらわざとらしい溜息を吐いて、鬼柳は「…わかったよ」と呟く。

「ごめんな二人共、約束破っちまうけど…俺、行くからな」

ウェストの柔らかな髪の毛をわしゃわしゃと乱雑に撫で、ポンポンと優しく叩いた。それからニコの芯の固く綺麗な髪をさらさらと撫でてやり、肩を優しく叩く。
二人共普段通りの元気な笑顔で鬼柳を見上げて、鬼柳もそれに倣って笑顔で返した。

「それじゃあ俺……うわぁっ」

鬼柳が踵を返そうとしたと同時か、人が一人、人込みを分けて目の前によろけて出て来た。ので、鬼柳は思わず勢いよく身を引く。

「あれ、ラモンさん?」

正直誰かと確認するのも忘れるくらい反応の遅れた鬼柳は、ニコの言葉を聞いて「え?」と呟いた。言われて見れば確かにラモンだと、人込みに揉まれてか疲れた様子のラモンは服を正しながら何か文句言いたげに鬼柳を見る。
しかしすぐに溜息を吐いて、腰に手を当てて苦笑してからもう視線を反らして再び鬼柳を見た。鬼柳はそのラモンの仕種に、ぐいと大きく首を傾げる。
するとラモンは笑いながら言った。

「様子は全部見てましたから」

「……様子?」

「はい、だから、任せて下さい」

「………任せる?」

「はい」

「何をだ?」

ラモンの言いたい事がわからず、鬼柳は先程とは反対側に首を傾げた。
仕事を急かす奴らが鬼柳とラモンを交互に見遣るので、鬼柳もラモンとそいつらを交互に見遣ってから、結論を言うようにラモンの名を一度呼ぶ。するとラモンは「だから」と歯痒そうに言った。

「俺が大体の仕事しときますから、アンタはニコとウェスト連れて遊びに行って来いっつってんですよ」

「……………」

「聞いてます?」

「………あ、ああ」

ラモンは遊び好きなサボり魔で有名である、まる
と鬼柳は意味もなく復唱して、それからラモンを見た。真剣に言っているようだと理解して、そこで漸くラモンへの感情や嬉しさが混み上がって来る。

「いいのか…!?」

「だからそう言って、」

「じゃあ、頼んだ…!ありがとうなラモン!」

言うが早いか、なんというか。鬼柳は笑顔でニコとウェストの手を引き、人込み掻き分けて町の中へと入っていた。

あまりにあっさりではあったが、ラモン自身は鬼柳の本当に嬉しそうな笑顔を正面で見て、まあいいかなんて思った。

(死んでるのか生きてんのかわかんない死神から、大分成長したもんだ)

まるで何か動物でも育ててる気分だとぼんやり考え、ラモンはずるずると鬼柳の普段使う執務室のある屋敷に引きずられていた。
カッコつけたいからと颯爽と仕事引き受けたけど、どうすっかね。ラモンは煙草を探してポケットを探すが、無い事に気付いて肩を竦めた。

(……今頃楽しんでるといいけどな)

ああなんかガラでもないな俺。
ラモンは溜息を吐いて、連行された執務机に座りながらまた煙草を探した。



***



満足町、鬼柳+ニコ+ウェスト+ラモン、ほのぼので鬼柳と姉弟が家族みたいな話、とのリクでした!


……はい、ラモンがでしゃばりましたね。まったくラモンはでしゃばりさんなんだからまったくもうしわけない言い訳してすいませんorz

グダグダでラモ→京臭くて姉弟影薄いですねこれ…!ごめんなさい…!
苦情バチコイですので…!orz

こんな作品ですが書いてて楽しかったです…!


では、リクエストありがとうございました!

 






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