GelPin
※女体化
昼休みは教室で弁当食うのが俺らのスタンスだ。
鬼柳と遊星は席が前後と近いので、二人の机を向かい合わせにしてそこで食う(椅子は適当に近くから拝借する)。
そうしていつも通り飯を食おうとしたのだが、鞄を開けた途端に鬼柳は「ぁああーっ!」と素っ頓狂な声を上げた。
「……どうした鬼柳」
普段鉄面皮な遊星までが心底驚いた表情をしている。しかし鬼柳は聞かずにガサガサと必死に鞄を漁っていた。
それに俺とジャックと遊星は大きく首を傾げる。どうした、と鬼柳にもう一度聞くと鬼柳はぐるりと俺達を振り返った。
「弁当忘れたっ…」
泣きそうな顔。うわぁなんだかなぁ。
「このド阿呆が!購買部で何か買ってくれば良いだろう!」
「今金ないんだよぉおだから珍しく弁当なんか作ったのぉお」
うわぁんと泣き真似までする始末。呆れて苦笑するが、遊星は真剣に心配しているらしく「少しなら貸せるが」なんて言ってる。遊星は本当に良い奴だと思うよ本当。
俺はあまり金持ってないんだよなぁと鬼柳から視線を外すと、ふと入口付近に目が行く。そこには見覚えのある人物が居て、なんだか真面目な表情でこちらにつかつかと歩いていた。
みじっっかいスカートに校則違反な化粧(ほんのりと薄いがあれは化粧だ)。鬼柳より少し長い薄白銀の髪の毛を揺らすとちらちらと見えるシルバーのイヤリングに、手首に付けたカラフルなリストバンド。
胸元に光る学年毎のバッチはきっちりと1を示しているにも関わらず、そいつは当たり前な顔でこの2年の教室内を歩いていた。
しかし顔は良いものだから、周囲の男子生徒の視線を軽く引き付けている。俺は溜息を吐いて、鬼柳にもそいつにも向けれない視線を天井に向けた。
そいつは何食わぬ顔で、先輩に挨拶もなしで俺の前を通り過ぎて鬼柳の机をばんと両手で叩いた。
「お姉ちゃんお金ないからお弁当分けて」
「あ、狂ちゃんじゃん。よっ」
なんだか噛み合わないながら、鬼柳はへらりと笑って狂介――自分の妹へ近いながらに手を振って見せた。
狂介はその間近で振られる鬼柳の掌を眺め、一歩引いてまた同じ事を言う。
「お弁当分けて。お金ない。大好きなお姉ちゃんお願いします」
「あ、弁当ね。忘れたよゴメン」
「……帰る」
くるり。狂介は鬼柳の言葉を聞いた途端繕っていた笑みを消して溜息を吐きながら帰ろうと方向転換した。
変わり身の速さに呆れて肩を竦めるが、歩き出そうとした狂介はがくんと肩を引かれて動きを止める。
「なにすんだよ先輩」
「貴様は礼儀を知らんのか。先輩に睨みを効かすとはどういう礼儀だ」
「知らねぇし知りたくねぇ。ああほら離せよセクハラ」
ごちゃごちゃごちゃごちゃ。ああまたジャックと狂介の突っ掛かり合いが始まった。
なんでかこの二人は出会い頭に言い合う事が多い。二人共少し似た箇所のある二人だから(二人が聞いたらきっと俺を殴るな)、引っ掛かりあってしまうんだろう。
「鬼柳、少ないが俺の弁当を分けるが…」
「ああ、俺も分けてやるよ」
慣れたようにジャックと狂介を気にせず、遊星はコンビニ袋からガサガサとプラスチック容器の弁当を出した。俺もそれに倣って紙袋から買ったばかりのパン二つを取り出す。
鬼柳はそれを見て、少し黙った後にとてもまばゆい笑顔を見せた。
「ありがとうな!お前ら大好きだぜ!」
「ああ」
「どういたしまして」
じゃあ早速、とばかりに遊星の弁当に手をつける鬼柳に苦笑して、俺も分けるパンの量を考える。
と同時か、控え目に「あの、」と声を掛けられて、俺は間も空けずにその声の方を振り返った。
そしてそこに居た人物を少し、いやかなり凝視する。
鬼柳によく似ているが、鬼柳より長い薄白銀の髪。黒いコートを着ていて、中には薄い色のインナーを着ている(余談だが胸がでかい)。
そして苦笑っており、手には黒い鞄とビニール袋を持っていた。
よく見知った人物であったが、しかし此処、学校、校内で見る姿は新鮮で理由もわからず俺は暫く黙ってしまった。
けれどすぐ状況を理解し、くるりと再び鬼柳の方へ向き直る。
「鬼柳」
「ん?」
「馨介さん来てるぞ」
「へ?」
俺の言葉を聞き、それまで背中を向けたまま返事をしていた鬼柳ががばりと勢いよく振り返った。心底驚いていて、それは遊星も同じようである(ジャックと狂介はまだ喧嘩している)。
「馨姉?え、なんで?え?」
「これ、届けに来たんだ。すぐ行かなきゃならないけど」
そう笑い、その人――馨介さんは鬼柳に持っていたビニール袋を渡した。鬼柳はそれを受け取り、中身を見て、すぐに馨介さんを見上げる。表情は嬉しそうだ。
「ありがとう馨姉!」
「仕事休みだったから、気付いたんだ…まあ、仕事入ったから出勤ついでに、な」
優しくふんわりと笑い、馨介さんは鬼柳の頭をポンポンと撫でる。馨介さんは鬼柳をおしとやかにして大人しくさせたような人で、美人だ。そのせいか、狂介のせいも相俟って教室内の男子の視線が少し痛い気もする。
「遊星君とクロウ君、だよね?」
「え、あ、はい」
「お久しぶりです」
「いつも京介に優しくしてくれてありがとうな」
まるで自分に優しくされているかのように、馨介さんは幸せそうに笑って俺達に頭を下げた。
そして鬼柳の頭を撫でて、まだジャックと口喧嘩している狂介の方へ歩く。
「狂介、えっと…」
「え?あ、うわっ…馨介じゃん…帰る、離せっ…!」
「貴様は実の姉にまでそんな態度を取るのか!いい加減にしろ!」
「……ジャック君も、いつも悪いな。ありがとう」
二人の全力に見える抵抗等のやり合いに少し吃驚した様子の馨介さんだが、すぐに嬉しそうにしてジャックに小さく頭を下げた。
それから首根っこを掴むジャックに抵抗している狂介の頭を優しく撫でて、「それじゃあ」と笑んで教室から出て行く。
「じゃあね馨姉!ありがとねー!」
ブンブンと手を振る鬼柳に小さく微笑みながら手を振り、馨介さんは廊下を曲がって歩いて行った。俺も遊星もそれを眺め、それからくるりと鬼柳を見遣る。
「何を貰ったんだ?」
遊星が興味深そうに聞き、鬼柳は「ああ」と笑って袋を広げた。笑顔が酷く似ている姉妹だな、と考えながら眺めると、袋からだされたのは小さめの弁当箱である。
「俺が忘れてった弁当!」
「わざわざ届けてくれたのか…」
「ま、仕事ついでみたいだけどな」
あっけらかんと鬼柳は言い、「狂介一緒に食べよー!」と狂介に手招きをする。
仕事ついでと言っても、わざわざ弁当を届けに来てくれるなんて優し過ぎるだろうと俺は苦笑した。
仲の良い家族で羨ましい限りだと思う。俺は引いた椅子にどかりと座った。
***
鬼柳三姉妹と満足組、との事で以上です!
ちょっと小説の書き方忘れてしまったくさくて、グダクダです。というのは言い訳で、グダクダです。ごめんなさいorz
とりあえず馨介さんが妹大好きなのとさりげないジャ狂プッシュが伝わったらいいです!←
ではでは、リクエストありがとうございました!
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