痛い




行かないで下さいお願いします。今貴方が居なくなったら俺は頭がおかしくなってしまう。泣いてしまいそうなんです。悲しくて仕方ないんです。

明日の卒業式に読む答辞の言葉。その読み合わせを確認するという項目で折角二者面談をしてもらったのに。終えて俺達以外誰もいない教室から去ってしまう先生に必死に抱き着いて、上手く言葉が出なくて混乱する。苗字で呼ばれて頭を撫でられた。大丈夫か、貧血か、なんて聞かれて、はい、と応える。情けない。明日は卒業式だから、体調管理はしっかりとな。ルドガー先生はそう笑う。

「…明日、で…皆とお別れですね」

「そうだな」

「……俺は、その、淋しい…です」

答辞を淡々と読む自信はある。だけどもし答辞を読んでいる途中で、貴方が視界に入ってしまったら。俺はきっと泣き崩れてしまうかもしれない。貴方が好きです。好きなんです。言えない言葉が頭にぐるぐると回った。

「私も淋しい」

「……」

「もう何回も自分の生徒を卒業式にまで見届けたが…やはり淋しいな。無論、嬉しいが」

「………もう大丈夫です。すいません」

ふらりと先生から離れる。先生はそうかと言い、廊下に出た。
その背中も声も性格も。全部全部好きです。だけど俺は男で生徒でしかもこんな性格で、良いとこなんてない。悲しい。

「じゃあ…先生…また、明日」

「ああ。気をつけて帰れ」

言って先生は廊下を歩く。明日になれば、先生はもう俺の先生ではない。先生はもう。先生とはもう会えない。会えない。
先生が廊下の角を曲がるのを見届けて、小さく辺りを見回す。誰も居ないのを確認してから、ぶわと流れた涙に合わせて床に座り込んだ。声も上げないで、ただ生理的に涙が流れる。





「狂介、昨日帰りが遅かったが……友人の家にでも居たのか?」

「え、あー…まあ、そんな感じ」

珍しく動揺したように狂介は言う。手元にあった空のマグカップをキッチンに運んだ。
嫌な夢を見た。昔の夢だ。恋に恋していた頃の話。だが事実辛かったそれは、目覚めた瞬間に涙が止まらなかった。それがまたむしゃくしゃする。
俺がいけなかったんだ。男の、生徒の分際であの人に惚れた俺が。もやもやする頭を掻いて、リビングに戻る。

多分冷蔵庫のジュースを取りに行ったのだろう狂介と擦れ違う。ちらと見ると、しかしはっきりと見えた。狂介の首筋に赤い痕があった。同時に昨夜遅かった理由を考え、何も言わないで置く。彼女でも出来たのだろうか。キスマーク付けるような彼女が。17のクセにませてるな。

なんだか淋しいような、微笑ましいような気分になった。



***



狂介に痕付けたのはルドガー先生。ルド→←馨前提でもいい。
馨介に似てる狂介が気になっちゃったルドガー先生とか。
ルドガー先生は大人だから自分からアピールしないの。だから自分からアプローチしまくる狂介には弱いの。







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