並列アスペクト




※遊星が例に漏れずに鬼柳大好きっ子の、思考がアレな感じ。




――で、悪いんだけど、明日の11時頃に来てくれないか?あ、大丈夫?ありがとう遊星!いやマジ参っててさぁ…うわぁ本当助かる!ありがとうな!


これが昨日の鬼柳との会話だ。片手に持った携帯のディスプレイで現在の時刻を見て、さてととエレベーター内から回数が上がる毎に見える暑そうな外を、遊星は珍しくうんざりとした表情を露骨にして眺める。
今日は猛暑だ。だらりと顳から顎へ汗が伝い、遊星はまだエアコンが効いている筈のエレベーター内だというのに…額の汗を拭い、遊星は少しばかり苦悶する。
しかし今回の目的を思い返せば、なんて事はない障害であった。



これはまあ、夏のとある日曜日のお話だったりする。




「遊星!あんがとな!さあ入れって!」

みんみんと蝉の鳴く声が聞こえる。鬼柳京介の住む階は決して低い位置ではない。蝉も随分と頑張って鳴くものだと遊星は思っていた。が、インターホンを押して現れた友人の外見に他の思考は全て消え去った。暑くて狭くて海やら山やらと騒がしいぎゅうぎゅう詰めだった電車の記憶も吹っ飛んだ。

遊星は鬼柳京介に友人という感情以上の感情を抱いていた。愛だとか生温いものでもなかった。独占欲というか、そう、なんにしろ手酷い欲を彼に向けているのは確かである(しかも鬼柳京介張本人が気付いていないというのが現状)。

そして話は戻るが、遊星を自宅へと招く京介の格好は夏場にあったとても薄着のものだった。
薄い赤色をしたランニングシャツにジーパン生地の短パン姿である。彼にしては珍しく上下共に模様(センスの悪い)が描かれておらず、片手には戦隊ものか何かの絵のプリントされたうちわを持っていた。

「ああ、お邪魔させて貰う」

「ん。で、まあリビングなんだけど…」

玄関内から廊下へ誘導され、遊星は脱いだ靴をきちんと整えた後、従順に京介の後を追う。
その間遊星は、普段日の下に晒されず白く綺麗な京介の脇元や膝裏、また、普段ワイシャツか制服で伺える事の出来ない腰の線なんかをジロジロと眺めていた。

(…プールの時間は見れなかったからな…)

先日のプールの授業を思い出しながら、遊星はそのまま忙しく楽しそうに振り返りながら話し掛ける京介に相槌を打って笑い返してやる。
先日行った体育のプールの授業では、京介はああも細く白いくせに体育が好きで得意なので、早々に一番奥のコース独占で自由型耐久を始めてしまっていた為、接近する事は愚か水着姿を落ち着いて見る事は出来なかった。仕方ないのでプールから上がって泳ぐ京介を眺めようと考えた遊星ではあったが、他クラス合同で行ったプールの授業であった為に親友のクロウとジャックに止められてしまった。しかも開始時も終了時も整列は名前順な為に距離的に伺えないし、移動中や着替え中もやはり二人に邪魔されていた。

なので遊星は満足に京介の際どいラインを眺めたのがこれが初めてになる。満足行くまで見ていたいと生唾を飲むも、しかし玄関からリビングはそうも遠くはない。20秒も要さなかった。

「暑くてごめんな、はいじゃあ頼むわ!」

リビングに入り、京介はテーブルに置いてあった家庭用工具セットと書かれた用具の容れ物を遊星に手渡した。そうして指を指したのが、エアコン。
遊星は漸く、渋々と京介から視線をエアコンに変え、リビング入口付近からベランダ近くの壁に付けられたエアコンへ歩み寄った。

「いつから調子が悪いんだ?」

「一週間前?かな?やっぱり無理に使ったのが原因か?」

「見てみない事にはなんとも言えないな…」

京介の家、つまり鬼柳家のリビングにあるエアコンは、3日程前から動かなくなったらしい。
それが理由で、今回遊星は呼ばれたのだ。校内でも機械をいじらせれば敵なしと言われる遊星は、先日も印刷室のコピー機を3分足らずで直した実績がある(紙詰まりから起きた熱暴走だから簡単だったとは言ってはいたが)。

「付けても生暖かい風しか起きないんだぜ?地獄だ…」

「よし、じゃあ見てみるから、何か踏み台をくれないか?」

「あ、わかった。暑いだろうけどちょっと待っててくれよ、すぐ持って来るから!」

気利かなくて悪いな、と笑う京介に否定の意味で苦笑して遣ると、京介は軽くお礼の言葉を言った後にリビングから自分の部屋へと駆けて行く。その様を眺めて、ばたんと開かれた扉が大きな音を立てて閉まったと同時に、遊星はどかりとソファに座った。

(……耐え切れるだろうか…)

両の掌で口元を覆い、遊星は俯く。正直「鬼柳に感謝されるし、鬼柳の私生活を覗ける。それに薄着だって見れるかも」とは軽く思っていた、思ってはいたがまさかあれ程薄着だったとは。遊星は、ふー、と息を吐き深呼吸に近い呼吸を暫く繰り返した。しかし落ち着けない。
目の前に置いた工具容れを手繰り寄せ、中を探って必要のありそうな工具を幾つか取り出した。工具容れは新品なのか、使う機会がないまま今に至るのか、使われた形跡がなく綺麗な状態である。
遊星は漸く邪念(と呼んでいいのか)を取り払い、これからの作業に集中して工具を選び始めた。やはり彼は機械については人並み外れた関心を持っているようだった。


「おっす先輩」

「……、っ?」

ぽすん。不意に遊星の肩が叩かれた。工具を眺めて集中していた遊星は、普段しないようなくらいに過敏な反応で肩を叩いた主の方向を振り返る。するとそこには、遊星以上に吃驚したように瞼を二、三回瞬かせる青年が居た。

「……狂、介?」

「うん。なんだよ文句あんのかよ」

遊星がいや別にと首を振るも、狂介は聞いておきながら興味がないのかひょいと工具を覗き込んでその工具を指差した。しかし遊星の視線はその指先には行かず、依然狂介を見ていた。
狂介は京介の一個下の弟だ。学年も一つ下で、同じ高校に通っている。見た目は互いによく似ているが、性格は全く違うと遊星は認識していた。先輩にタメ口をきくあたりがまず理由だろう。

「先輩が修理してくれんの?」

「…そう、だが」

「暑ぃから早く直してくれよ先輩」

それじゃあ。投げやりに言い、狂介はそのままリビングからキッチンへとフラフラ歩いて行った。寝起きなのだろうか、頭は酷い寝癖である。
いや、まあそこはいい。そこはいいが……遊星は再び口元を両の掌で覆って俯いた。
正直な話、遊星は京介に惚れた沢山の要因の一つに外見も含まれている、し、京介自体の認識だって勿論外見であったりする。だから、少なからず鬼柳家全体に興味があるのだ。

(……なんであんな格好をするんだ…!!)

狂介は、上半身裸にジーパンという格好だった。恐らく昼の暑さから次第に露出を求め、最終的にああなったのだろう。
しかし遊星には理由はどうであれ“鬼柳”の多大な露出に心を躍らせざるを得なかった。
肩甲骨も背骨の凹みも肋の形も鎖骨も臍も、乳首も、そう乳首も丸見えである。遊星は脳内にこびりついた映像に足をバタバタとさせて悶えた。遊星らしからぬ、非常に感情的な行動である。

(………耐え切れるだろうか…)

本日二度目の苦悩だ。遊星は今度は頭を抱えた。
正直クーラーの効かないこの部屋は非常に暑い。その上もんもんと物事を考え、遊星は頭がくらくらとして来ている。早くエアコンを直してしまおう、と立ち上がるも、エアコンを見る為に京介が何か踏み台を探しに行ったキリだと思い出した。
そうして遊星が諦めたように再びソファに座ったところで、先程京介が忙しく駆けて行った扉が控え目にキィと開かれる。は、としてそちらを見遣った遊星だったが、そこに居たのは京介ではなかった。

「……馨介さん?」

「ああ、こんにちは…遊星君」

控え目に扉を開けて閉める、それをしてから馨介はやんわりと遊星に微笑んで見せた。京介の明るい無邪気な笑顔や、狂介の何か裏があると思わせるような不適な笑みとは違い、二人の兄である馨介の笑みは落ち着いた雰囲気ならではの他人を安心させる柔らかい笑顔だった。
遊星はそれに暫く見とれた後(といってもその間無表情ではあったが)、同様に挨拶で返す。馨介はスタスタと歩み寄り、遊星の座るソファの背もたれに手を付いた。

「京介、少し時間かかってしまっててな…脚立があるから、少し待って遣ってくれないか?」

「はい、大丈夫…です」

「ありがとう。……それじゃあ、何か冷たい飲み物を持ってくるから、暑くて悪いけど待っててくれ」

「あ…はい、わざわざありがとうございます」

馨介の口調はゆったりとした時間を感じさせる。と遊星は普段思うのだが、今回はそんな事思う暇もなく、遊星は馨介がキッチンに向かってこちらに背中を向けたと同時に口元も両の掌で覆って、再び俯いた。

(…だからなんなんだ兄弟揃って…!)

そんなに俺を満足させたいのか!と遊星は意味のわからない憤りを一人、脳内で主張した。
馨介は、灰色の無地のタンクトップにジーパンを履いていた。これならまだ二人に比べれば破壊力(凄い表現だ)は少ないのだが、馨介はジーパンの裾を折り、更に長い髪を高い位置でおだんごにしている。

(…うなじっ…!)

うなじが、長い髪に日光から守られて病的白く、またぽっきりといきそうな程に細い首筋、うなじが、遊星には堪らなくクリーンヒットしたようだ。遊星は所謂部分萌えの人種であったので、なまじか全裸より攻撃力(凄い表現だ)があったと思える。勿論、全裸が見れるのであればそちらをテイクアウトするのは間違いないのだが。



そうして飲み物をくれた馨介に悶え、昼食を食す狂介に萌え、脚立をうれしそうに見せる京介に鼻血が出そうになったりと、遊星は鬼の所業に打ち勝った(理性が崩壊しなかった事を指す)。
現在は脚立に乗りながら、エアコンの内部を見ていた。ドライバーを始めとする様々専門用具を取りやすい位置に置きながらも、遊星は中を眺めながら心底困っていた。

(……数分あれば直ってしまう)

そう彼は悲しくもスーパーメ蟹ック。熱からからショートしたらしい回線を一発で見付け、それに繋げるべき回線も予備も近くに手繰り寄せてあった。それどころか、以前より起動が早くなるようなシステムを組み込む気でもいる。しかし全てで要す時間が数分であった。
何が困ってしまうのかと言うと、言わずもがなこの状況をなくしてしまう事だ。控え目に振り返った先には、リビングで寛ぐ狂介と心配そうに眺める馨介と進行具合が気になるらしい京介が居る。一応言うが、全員薄着だ。いい加減耐性の付いて来た遊星は暫く眺めた後、エアコンに向き直る。

「…………あと数時間はかかりそうだ、鬼柳」

「え、マジで!?」

「ああ。だがちゃんと直してみせるから、安心しろ」

「うわぁああありがとうな遊星!大好きだぜ!」

「すまないな遊星君…」

「先輩、がんば」

背中に掛けられる言葉を聴き入りながら、遊星は考えていた。「4時間もかければ夕飯にも招かれるだろうか」と。




***




遊星×鬼柳三兄弟の現パロ、という事でこんな仕上がりです遊星がいつも通りですね!←

変に三者目線で書いたので、読みにくかったらごめんなさい!
服装の薄着さは姉が考えてくれました!ありがとう!
ちなみに京介は暑すぎてオシャレする気にならないらしいです(笑)

三兄弟の個性出せてたらいいなぁ…なんて!←


ではでは、リクエストありがとうございました!

 






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