マージナルエコー



※後天性幼児化



俺は可哀相な子なのです諸事情により。可哀相な奴、でなく今に限り可哀相な“子”です。ここ重要なんでそこの所ご理解頂きたい。



俺は一応、サティスファクションタウンの指揮官として生活をしていた。といっても、工事や鉱山関係なんててんでからっきしだったから、中心に立って皆を励ましたり作業開始前に全体に今日も頑張るぞと少しばかり話をしたり、そういう役割をしていた。それでも皆俺を頼ってくれるもんだから、一応もっと役に立ちたいと思って資料集めて近場の町に掛け合たりして作業の効率を倍にする事に働き掛けたり、まあ、色々と頑張った訳だよ。
得意分野を専攻する奴らに囲まれ、自分は皆を励まし資料を集めててっぺんに立たせて貰う。ああチームサティスファクションの時を思い出す、なんて考えながら毎日楽しんでいた。中でだ、突如の事件に俺は顔面蒼白だった。

朝起きたら小さくなっていて、しかもそれは身長だけだとか全長だけだとかではなく、幼くなっていたという言い回しがよく合うだろうそれだった。ウェストと同じ…いやウェストより少し幼いくらい。有り得ない。なんて事だと慌てる俺とは反面に同居しているニコはやけに冷静に俺にウェストの服を貸してくれ、そしてある奴に連絡を入れたのだった。なんでそんな手際いいんだニコ、とはなんか聞けなかった。



そして現在に至る。もうやだ泣きたい。


「どうしたよ鬼柳、そわそわして」

「なんだトイレか?あそこにあるからクロウとでも行ってくるといい」

「いや俺と行こう鬼柳。ジャック、クロウ、順番待ちは頼む」

「トイレじゃねーよ!!平気だ!!」

今はなんと観覧車の順番待ち中です。わあ俺観覧車とか初めて乗るよやったー、って違う違う。悲しいよ何これマジ泣きたい。

ニコがやけに冷静に連絡を入れたのは遊星達にだ。何やら話した5時間後くらいに鼻息荒い遊星が迎えに来て、なんか俺は遊星達に世話される事になり、そんでなんか遊園地に連れて来られた。

理由はあれだ、なんだっけ?えーと…そう、思い出した。「子供っつったら遊園地だ」とかそんな、クロウ意味わかんないからその提案、と言う前に支度して連れて来られた。泣ける。ちなみに留守番はブルーノとか言う奴らしい。誰だし。

俺の現在の外見は、8歳くらいの少年で濃いめの青色したパーカー(なんか良いメーカーの物らしい)とジーンズ生地の短パンと膝下まできてる白い靴下と、まあ、靴。そんな感じ。長い髪は遊星に連れて行かれる前にニコにポニーテールにされた。そしてマーカーは健在。これじゃあ遊星と仲良いラリーってガキみたいだ。

「つか…俺らこれ周りから見たら意味不明なメンバーだろ…家族?には見えないよな…」

「そうかー?」

ああ脳天気に返すなクロウ。畜生。返事をしたクロウは俺を見ずに頭をぽんぽんと撫で、少しばかり列から離れて前方の列を確認した。「長いな」なんて笑ってから、クロウは俺の手を握り直す。そうそう、身長差近いからって何故か俺はクロウと手を繋いでる。迷子になるからだとよ、嘗めんな。ならねーし。

「あそこに書いてあるな…20分待ちだそうだ。そんなに長くはないな」

「何故ああもゆっくりと回るのだ!さっさと回転しろ!」

なんかジャック観覧車指差して阿呆な事言ってるし。もう嫌だ。
せっかく遊園地来たし、本当はジェットコースターってやつに乗ってみたかった。サテライトに居た時に捨ててあった雑誌で読んで知ったんだ、この遊園地がシティで一番有名で一番楽しくて、んでこの遊園地のジェットコースターが最高に怖いって。けどさっき行ったら身長制限でアウトだったから、なんかもうどうでもいいや(クロウがセーフだったのがまたなんか屈辱的だ)。

「……もうヤだ。なんか食いたい」

「だそうだクロウ」

「なんで俺なんだよ」

「手を繋いでいるからな」

俺が呟けば、クロウは遊星とジャックに「なんか買いに行け」アピールされている。まあ子供の姿だと大体の我が儘が許されるから、これはまだ許せる。
見上げなくてはならないクロウの高い目線に苛立ちながらクロウを見上げれば、よくクロウが子供達にしているような笑顔で見下ろされた。ぐりぐりと頭を撫でられる。

「じゃあ鬼柳、なんか持ち歩けるモン買いに行くか」

「……ああ」

とてつもなく優しく言われ、俺はぎゅうとクロウの掌を握った。やっぱりクロウは子供に優しいんだな、なんて。なんか悔しい。

「それじゃあ遊星、ジャック、順番頼んだぜ?」

「ああ任せておけ!」

「あまり高い物は買わないようにな」

ひらひらと手を振られ、俺はクロウと遊星達を交互に見上げてから列を外れて店の並んでいる方へクロウの手を引っ張る。
クロウは「待て待て」と苦笑いしながらも、子供相手に優しく対応してくれた。やっぱりなんか気分が良いかもしれない。なんて(何度もいうが、普段はありえない)。

「で、何食いたい?」

「えっとな、肉とか!」

「はいよ、了解了解」

ぽんぽんと頭を撫でられ、手を引かれた。無理矢理でなく、気遣って引かれる感覚と、それから優しく見守られる感じ。不思議な感じだと考え、辺りを見回せば、あれ買って、と親に甘えるシティ育ちらしい女の子がすぐ近くに居た。とても楽しそうだだ。

(……あ、これが普通の子供の生き方か…)

意識して、なんだかじわりと暖かい感覚に包まれる。自分の幼少期といったら、もう思い出したくもない過去だった。あの頃をふと弾みで思い出したら、忘れたくて仕方なくて、がむしゃらに何かをして忘れようと必死になった。
大人に、年上の大きな存在に甘えるなんて出来なかった日常だったから、今自分の手を包み込むように握る大きな掌を眺めるとつくづく不思議な気持ちになった。リーダーとして兄貴風を吹かせるのは、生き甲斐のように感じていた、使命のように。

(……守られるって、いいな)

あの店にするか、と優し気に問うクロウを見上げて俺は涙腺の不穏な動きに気付いた。これは泣いちゃうルートだ、我慢我慢。





と、まあそうして買い物を始めたのがつい5分程前の事だ。
俺が今居るのは、まあ雑踏?いやまあ、多分あれが買い物してた店なんだとは思う。ただ昼だからか食い物の店の近くは人混みが出来ていて、そこまで行けない。し、何より似た雰囲気の店が並んでいるから、あれが本当に俺の行きたい店なのかもわからない。まあ、あれだ。

クロウとはぐれた。

「……うぅ…」

もう嫌だ。なんでなんだよなんではぐれんだよ。ちゃんと手握ってろよ保護者、もう嫌だ。泣きたい。いやもう泣いてる。
ぼろぼろと溢れる涙が顎から首へ伝ってく感触が気持ち悪い。

「くろー…ゆーせ…じゃっく…ばかぁあ…」

誰も握ってくれてない掌が怖い。ぎゅうと服の裾を握り締めて、俯く。たくさんの涙が地面に落ちて、それを追うように俺もその場へしゃがみ込んだ。

何からも見放されたような、もう誰も俺を守ってくれないような。そんな気分になる、怖い、なんで誰も守ってくれないんだ。どうして俺の頭を誰も撫でてくれないんだ。

周りは大きな大人ばかりが歩いている。子供は皆手を繋がれ、抱っこされ、おんぶされてる。俺は、ただ一人で泣いている。
過去を嫌でも思い出してしまう。誰も守ってくれなくて、いつも泣いていて、毎日毎日生きる事に必死で、がむしゃらで、真っ暗な道をただ歩いていたような恐怖が脳にこべりついて取れない。

「うっ…、…ひぐっ…ぅう…ニコぉ…」

助けて欲しい、抱きしめて欲しい。いっそ誰でもいい。
ラモンでもマルコムでもロットンでもバーバラでもルドガーでもミスティでも誰でも、もういっそセキュリティの奴でもいい。一人にして欲しくない。もう嫌だ。

「…ねえ君、大丈夫?迷子?」

「……?」

ふと、声を掛けられた。俯いていた顔を上げて、声を掛けた主を見る。優しそうな男性が、ニッコリと微笑んで俺同様にしゃがんでいた。人懐こい笑顔でヘルメットを小脇に抱えている。

一瞬安心したが、見ていた顔からすとんと視線を下ろすと見えた服装に、俺は大きく退いてしまった。

「……セキュリティっ…」

「うわっと…大丈夫?」

「触るなっ!!」

男はセキュリティだった。確かにセキュリティでも良いと言ったがそれは言葉の彩だ。
条件的反射で退くが、しゃがんだままでの行動は酷く不安定で、セキュリティの男は俺を抱き抱えた。そうしてそのまま持ち上げられる。
必死に抵抗するも、男は離す気配がない。というか、俺の力はあまりにも弱い。

「……ほら、落ち着いて」

「なんだよっ…!離せ降ろせ!触るなぁあ…っ!」

辺りの視線は集めるけれど、周囲の視線は全てが興味もなさそう。それはそうだろう、マーカー付きのガキがセキュリティに抱き抱えられてる。それだけだ。

「迷子センターに連れて行ってあげるから、ほら…落ち着いてくれよ」

「嫌だっ嘘だ…!セキュリティは嘘付きだ!」

「……あ、君…マーカー…」

「触るな!どっか行けよ!」

するりとマーカーに触られ、俺は男の肩を叩く。しかし男は気にせず俺を真っ直ぐに見て来た。真っ直ぐで揺るぎない視線は邪険でなく、また真剣そのもので、俺は次第に何もいえなくなる。なんだよその顔。

「…こんなに小さいのに、こんな…上から下まで…」

「………」

「……すまないな」

そう言って、男は俺の頭を撫でた。いつの間にかすっかり止んだ涙で腫れてしまった目の回りを撫でて、それから俺の体をすとんと地面へ下ろす。

すまないな、って、なんだよ。マーカーを自分で撫でて、俯く。何謝ってんだよ、そんな奴はセキュリティなんかじゃない。俺は知らない。
優しいセキュリティなんて知らない。でも事実、頭を撫でられて酷く安心した。
それからすっと手を差し出され、俺はそれを眺めた。そうして意図を理解し、俺は男の指先を握る。手を繋ぎたくはないが、ただ、なんだろう…言い訳が思い付かない。

「君、名前は?」

「……鬼柳」

「そっか、誰と来たの?家族?」

「…、…親友…」

「……仲良いんだね?」

「……うん、大好き」

ぎゅうと掌を握り締める。遊星達に会いたい。遊星達に会いたい。不安でしょうがない。でも、男性の体温は、他人の体温は酷く安心した。

(……子供になってよかったかも…な)

他人の大切さなんて、あまり実感してなかった。自分一人でなんとかなるだろう、なんて。自惚れていた。でも他人はこんなにも安心する。こんなにも頼れるんだから。
子供になって、強く実感した。良い経験になったかもしれない。



***




御然様よりリクエストをいただきました、後天性ショタ化鬼柳さん+満足同盟で遊園地で迷子になっちゃう鬼柳さんを迎えに行く満足同盟、です!

はい、迎えにいってないですね!←←

本当にごめんなさい!

ですが書いていて楽しかったです!それと、沢山の用事を挟んでしまったので、書き上げるのが延び延びになってしまって申し訳ないです…!orz

ちなみにあのセキュリティは風馬さんではありません、伊東さんです。隠れ伊東ファンとは俺の事。やかましいわってな←←


では、リクエストありがとうございました!







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