不合理不尽




サティスファクションタウン。というなんとも過去の記憶を掘り起こされる名称のこの町は、鬼柳を中心に現在立て直し作業を続けているようだ。立派に名前の掲げられた看板を潜り、入った町並は修復作業で賑わっている。建物沿いの一角では休憩時間なのか、寄せ集めた木材で簡易に机を作ってその上でデュエルをしている者や観戦をしている者も居た。作業をする者達も声出しや協力する様から楽し気だと伺える。
その様子を見ながら、俺達はDホイールを押し進めながら町中を歩いた。

「作業は大分活発のようだな」

「みたいだな。明るい町だ」

ジャックが辺りを見回して言うと、遊星は続けて安心したように言う。俺も続けて相槌を打ち、町の人間の注目が少しばかりこちらに集中している事を二人に言うと、二人は苦笑した。

「俺達は一応、町の英雄らしいからな」

「あー…あの4日間は凄まじかったしな…」

今日このサティスファクションタウンに来た理由は、鬼柳の様子見の為だ。WRGPの日にちも大分迫って来ては居るが、たまには休みも必要だとブルーノに言われたのである。本来は遠出等せずに休憩をするべきなのだろうが、遊星の提案で鬼柳の様子を見に来る事になって今に至った訳だ。

以前、鬼柳を救出に行ったっきり暫く帰って来なくなった遊星を様子見に来て、色々と巻き込まれて結局少しばかり滞在するようになった際には、先程ジャックが言ったがその4日間は毎日英雄と担ぎ上げれて散々だった。鬼柳や遊星はともかく、俺やジャックはほとんど何もしていないというのに。

「あの頃に比べりゃ少し見られるくらい平気か」

「そうだな」

まあこの町の人達には信仰する何かしらが必要なのだろう。二つのグループで争っていた人々が協力しなくてはならない状況なんて何か一つ、縋れる何かを中心に事を進めなければ生きていけないような、そんな状況の筈だ。多分、今はそれが鬼柳なんだろう。

町の中心辺りまで行くと、大きめな設計図を持って寄り集まる男らに指示をする長身で黒いコートを来た男が目に入った。遊星とジャックを見れば、同様にこちらを見て頷いて見せる。あれが鬼柳だ。
その男はこちらに少しだけ目線を遣った後、一回何事も無かったように設計図に視線を落とし、しかしすぐに吃驚したように華麗な二度見を披露した。

「………お前ら…え…どうして…!?」

こちらを勢いよく指差し、わたわたと動揺したように動きまくっている。すぐ傍に居た数人の男性に設計図を押し渡し、こちらに走り寄って来た。

「遊星、連絡していないのか?」

「忘れていた」

鬼柳がこちらに到着する前に小さい声でジャックと遊星がやり取りをする。遊星がうっかり忘れる、なんてする訳がない。
きっと驚かせたかったのだろう。遊星は鬼柳を溺愛しているから、多分今も「驚いた鬼柳可愛い」とか考えている筈だ。頭痛い。かくゆう俺も鬼柳が好きだ、更に言うならジャックも鬼柳が好きだ。憧れに近いがはっきりと好意と言えるだろう。思いを伝えた事はないが。







「連絡くらいくれりゃあいいのによ…いきなりじゃあ大した持て成し出来ないだろ」

鬼柳はそう言いながらも戸棚から高そうな茶菓子を取り出して見せる。
町中で少しばかり会話をした後、通された場所は町の中でも一番大きな家だった。鬼柳が言うに「町の皆が勝手に此処に住めって決めたんだ」そうである。この家は比較的に爆撃の被害が少なく、修復を一番始めに終えたのだそうだ。

家の大きさ見合った立派な木製のテーブルを囲み、卓上には鬼柳の出した茶菓子が置かれる。ニコという少女が紅茶を出してくれて、鬼柳はその少女の頭を撫でた後に俺達同様椅子に座った。ちなみに席順は俺とジャックが隣同士でジャックの前が鬼柳、鬼柳の隣は遊星(遊星の威圧に負けて隣を取れなかった、無念だ)。

「で、なんか用でもあんのか?ダイン分けて欲しいとかか?WRGP近いしなー…」

ティーカップに手を添えながら鬼柳は首を傾げて見せる。ダイン、というのはあの鉱山で取れるDホイールに必要な鉱物の事だろう。続けて鬼柳は「幾つかなら分けても大丈夫だけどよ」等と言って見せた。…まさか鬼柳は鉱山の主導権まで貰ったのだろうか。なんだか恐ろしいので聞かないでおこう。

「いや、ただ貴様の様子を見に来たのだ。…元気そうで何よりだ」

「…え、あ、まあ。…ジャックがそんな事言うのはなんか…珍しいな」

言い、鬼柳は照れ臭そうに笑って見せた。可愛いです、はい。抱きしめたいとか考えましたごめんなさい。遊星も同様か真顔で横にいる鬼柳をガン見している。ちょっとそれ怖いぞ遊星、言わないけど。

「……まあ、俺は元気だ。上手くやってるし、町も大分立て直して来たしな」

「そうか、ならいいけどよ」

にこりと笑って、鬼柳は紅茶を飲む。その様を見て、俺も同様に紅茶を飲んだ。
何かあるんじゃないかと心配した訳でもないが、元気みたいで何よりだ。まあ様子見ってのは口実で、此処にいる三人は鬼柳に会いたかっただけの筈だ。言わないけど確実にそうだ。


暫くは雑談を続けた。WRGPに向けての俺達の日々の事、鬼柳がこの町でどういう役割をしているのか、そんな事なんかを。
聞いて行く内に分かったのだが、どうやら鬼柳はあのニコという子とその弟のウェストという少年を引き取って養っているらしい。町での仕事はやり甲斐があるから、と鬼柳は笑っていた。確かに以前より肉付きもよく見えるし、笑顔も無理がない。

正直、少しだけだが“あの鬼柳”が子供二人を養える訳がない、なんて思ってしまった。けれど話しをする鬼柳は些細な気遣いなんかが出来ていて、成長したのだと俺は感じた。
俺が、俺達が関与しない間に変わってしまった事は淋しかったが、だがそれは鬼柳にとって良い事の筈だ。受け止めようと思う。

「今日はすぐ帰るのか?」

「ん?あー、どうすんよ?」

鬼柳がはにかむように言うので、俺は応えが分かっていながらも正面の遊星と隣のジャックに聞いて見る。二人は考えた様子を見せながら、少し間を空けて笑っ見せた。

「鬼柳さえよければ、一日程度は滞在したいと思っている。…そうしょっちゅう来れる距離ではないからな」

それらしい理由を言う遊星に、鬼柳は「そうだよな」と笑って返す。爽やかなその笑顔をガン見して見せる遊星が怖い。
鬼柳は遊星に見られている事に(慣れたものなのか)全く気を止めずに、「それじゃあ…」と呟く。

「角のとこにある宿はかなり顔利くから、あそこで…」

「なんなら此処に泊めてくれて構わんのだぞ」

偉そうに踏ん反り返るジャック。思わず苦笑して鬼柳を見て見れば、鬼柳は少しばかりポカンとした後に吃驚する程声を上げて笑った。それこそ俺がポカンとしてしまう。

「あっはははは…!ジャックは本っ当に変わらないな!」

ばんっばんっと盛大にテーブルを叩きながら目尻に涙を溜めて鬼柳は大声で笑った。その様を俺も遊星もジャックも唖然として見詰め、少しして笑いの引いた鬼柳は目尻を拭いながら「悪い悪い」と苦笑しつつ俺達を仰ぎ見る。
ああこの光景は懐かしい、昔よく見た。笑いの沸点の低いこいつの爆笑風景だ、そういえば。

「いいぜ、どうせ客間が2つ空いてるからよ。片方二人で寝て貰う事になるの構わないんなら泊まってけよ」

「え?大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫っ。にしてもジャックってば本当にそのまんまなんだなー…なんか安心したぜ」

あはは、とまだ笑って見せて鬼柳は「ニコー!」と例の少女を隣の部屋から呼んだ。
その間のぶすっとしたジャックと言ったら確かに笑えるかもしれない。多分、笑われたのが癪だったらしい。

と、その時だ。ニコ、と鬼柳さんが廊下に向かって呼んだ少し後に、廊下からひょっこり誰かがこの部屋に入って来た。普通に考えればこの場合にニコという少女が来るのだが、その入って来た人物というのが黒い髪の痩せ型な背の高めの男性だったのである。
その男性は俺達を一瞥し、それから鬼柳に向かって首を傾げて見せた。

「お客さんですか?」

「お帰りなさい、ラモン!」

なんだか噛み合わない問答の後、鬼柳はガタンと椅子から立ち上がってそのラモンとかいう男に駆け寄った。俺は状況が理解出来ずに、横のジャックを見遣る。しかしジャックも同様に首を傾げて見せたので、二人で遊星を見た。
遊星は、なんか、すんごい形相でラモンを見ていた。なんだろう、殺した筈の人間でも見たような、驚きと憎しみが入り混じった表情。ますます意味がわからない。

「作業はどうだった?」

「ああー…まあ鉱山ですからね、楽じゃないですが、ロットンタウンとやらの時に比べりゃ簡単でしたよ」

そう言って着ていたジャケットを脱ぐラモンからそれを受け取り、鬼柳は「ご苦労様」とラモンに微笑んで見せた。
なんだこの新婚風景は。ただの友人にしては鬼柳の笑顔はデレデレしているし、それにこの家が帰って来る場所、というのは…つまり?

意味がわからず困惑していると、鬼柳はラモンの頬に手を沿えて、少しの間触れるキスをした。
………は?キス?

「ななななななっ……!?」

「貴様ら何をしている!!!」

「……へ?」

俺とジャック。揃って鬼柳とラモンを指差してテンパる。裏返ったジャックの声は珍しく、相当困惑しているのが分かった。
鬼柳は鬼柳で吃驚したようにキスをやめ、俺達を見ている。いや、「へ?」じゃないなんだその表情、いや違うなぜキスした?同性だろうそいつ、いやいや確かに俺だって鬼柳にキスしたいけど、…もう意味わかんねェ!

「お帰りのキス、だけど…なんかダメ…だったか?」

「先生、あんま人前ではやんない方がって言ったじゃないですか…」

「あ、また先生って呼んだな。早く京介、って呼べよなー…」

「ははは…すいません」

なんだこのラブラブな雰囲気は。臓が煮え繰り返りそうだ、つかラモンって誰だしもう意味が本当にわからない!いい加減文句を言おうと立ち上がろうとしたと同時か、暫く(発言的な意味で)静かだった遊星がダンッと音をたてて勢いよく立ち上がった。顔は伏せていて見えないが、全員の視線がそちらに移る。
しん、と気まずい空気が流れ、恐る恐るというように鬼柳が「遊星?」と尋ねると、遊星はまたも勢いよく顔を上げた。

「…っ鬼柳!!!」

「え、あ、はい…っ」

「認めないぞそいつだけは!!!」

遊星らしからずキンっと煩い怒声。鬼柳は勿論、俺もジャックもラモンもキョトンとしている。気持ちはわかるが遊星、いきなり怒鳴るとか怖いぞ。鬼柳も困っているし。遊星とラモンを交互に見遣り、手の付けようがなく困惑する。

「ラモンちょっと表出ろ、そして俺とデュエルしろよ」

びっと親指で外を指差した遊星に、ラモンは首を傾げて「はあ…いいですけど」て従った。なんか嫌な予感がする。しかし鬼柳は

「なんだか遊星元気だな!」

なんて笑っていた。気楽な奴だ。
表に出たラモンの断末魔が町に響き渡るまで、そうも時間を必要とはしなかった。遊星グッジョブそしてありがとう。




***



由良様よりいただいた、CT編後ラモ京←満足同盟で、ラモンさんと普通な顔でいちゃついてる鬼柳さんと満足同盟 との事でこんな仕上がりです…!せっかくの素敵リクでしたのに、最後グダグダでごめんなさい由良様…!苦情受け付けております…!orz

とりあえずお帰りのキスと名前呼び強要書けて満足でした…!でも本当グダグダで申し訳ないです…!


それでは、リクエストありがとうございました!







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