ワールドオーダー



※死神パロ


出会いと言っていいんだろうか。あいつと会ったのはつい先日だった。あまりにいきなり過ぎて、声も出なかったのをよく覚えている。

教室で普段通り授業を受けていた時に、だ。俺の席は一番後ろの窓側なんだけど、外の体育の授業を眺めていたらあいつと目が合った。

そいつは窓の近くに生えている木に座っていて、色素が薄いというか無いに近いくらいに白い髪と、病的に青白い肌を持っていた。黒いコートを着ていて、一直線に俺を見ている。
おかしな点は幾つもあった。まず、此処は2階の教室で、その横の木に何食わぬ顔で座っているなんて不可思議極まりなかった。それと、その男は背中に異様に刃渡りのデカイ黒い鎌を持っている。銃刀法違反だ。
あと休み時間に発覚したのだが、あれは俺にしか見えないらしい。なああれ、と指差して意見を求めたクラスメートは皆一様に小首を傾げた。

幽霊ってやつだろうか。正直あまり気にはならなかった。そういえば先日友人に「クロウは優しい奴だがどこかドライだな」とか言われた気がする。
いやだが下校中も家に居る時もしゃあしゃあと背後に居られると、どうにも違和感は感じるがそれ以上のものを感じられなかった。

俺の家は両親が忙しいからほとんど一人暮らし状態なのが救いなのかもしれない。リビングでテレビを見ながら夕飯を食べて、それから後方で俺をじっと見ている男に目を移す。男は瞬き一つせず俺を見ていて、長い白銀の前髪から覗く生気のない目を見て、漸く俺は重い腰を上げた。

「お前ってなに」

言うと男は一度だけ瞬きし、それから考えるように視線を反らした。その間無表情であったので、俺は急かすでもなく言葉を待つ。そうして男は存外澄んだ声色で言ったのだった。






死神というやつがこの世に居るらしい。その死神ってやつはやはりよく漫画なんかで見るのと通りが同じで、近々死ぬ者の魂を霊界だとかに運ぶ役割だとかそんな。

「前から疑問だったんだけどさ」

「………なんだ」

「死神ってヤツは俺と話とかしてていいのか?」

幽霊とかそういうのは絶対に信じないという性質の俺だったが、今回ばかりは仕方がない。こいつがその死神、とやらでないのなら、こいつが見えないらしい人様達に理由が付かないのだ。皆で俺を騙そうとしている、とか、そんな理由しか思い付かない。それこそ信じたくなかった。

「マニュアルには話NGとは書いていなかった」

「……マニュアル?」

「こっちに来る前に読んだ。大丈夫だ、ちゃんと頭に入ってる」

「………初心者なのか?死神の?」

見上げた死神は何処か気まずそうに目を逸らす。はあと溜息を吐いて、真横にある金網を握り締めた。この学校の屋上は滅多に人が来ない、多分理由は、この学校の屋上から見える、近くにある墓地のせいだと思う。こんな場所であんな景色見ながら食う昼飯が旨い訳ない。

「魂を送るのはお前が初めてだ」

「ご苦労なこった」

「ああ。寿命までは生きてくれよ、早く死なれると点数を差し引かれる」

「……システムがよくわかんねーよ」

死神とやらはどうやら複雑らしい。ノルマがあったり、決まり事があったりする。
見上げた死神はやはり今日も蒼白な肌色をしていた。時折儚く浮かぶ笑顔は、ドラマなんかで見る死に近い病人によく似ている。

「寿命まで生きろ、って言うけどよ」

「ああ」

「俺の寿命。いつまでなんだよ」

「………規則がある、具体的には言えないな」

そう俺は近日中に死ぬのだと言う。まあ死神が来たのだからそれはそうなのだろうけれど。なんだかあまり吃驚もしなかった。理由はまずこの死神とやらの存在のインパクトが大きかった事が大きい。ああ死神なのか、と納得して驚きを引っ込めた時に死ぬ事を説明された。飲み込むと同時に、死神がいるならそうだよな、なんて簡単に納得して今に至る。そりゃ多少は焦りもある、俺はまだ若い。

「…死神ってどんな気分だ?」

「どんな?」

「人が死ぬのを、傍観して、それを仕事にしてんだろ?」

「まだ初仕事だからわからない。だが、思うに、気分も何もない。目の前にゴミが落ちていたら拾う、それと同じだ」

「……ゴミ」

なんつーもんと一緒にしてやがるんだ。苦笑して、ばさりと風に髪を靡かせる死神を見上げる。死神の薄ら笑いはいつも儚い。それこそこの死神が今にも死んでしまうのではと言うくらいに。

「……死神って」

「ああ」

「いや違うか………お前って、名前あるのか?」

「………名称は死神で構わない」

「違う。そうじゃない、名前だ」

見上げた死神は、一旦キョトンとした表情を見せた。珍しく見せる人間地味た表情に少しばかり頬が綻ぶのが分かる。なんだ案外可愛い気があるんだな、と思ったと同時か、死神は眉根を寄せて俺を見た。

「確か、鬼柳だ。下の名前はわからない」

「……わからない?無いんじゃなくて?」

「………」

尋ねると死神は、鬼柳は、俯いた。そういえば詮索をした事がなかったし興味もなかったが、今いきなり疑問に思う。
死神、とはなんなのか。何から生まれたのか。無から生まれたのであれば、何故見た目は人を象るのか。特徴を持つのか。独特な色素の薄い髪に白い肌、それから黄色の双眼。彼は人として強い個性を持っていた。

「………死神ってのは、元々人間なのか?」

「……わからない。だが、多分、そういう事なのだと…思う」

ぎゅうと拳を握り締めて見せ、死神は少し間を開けてからその場に座り込んだ。そしてゆるゆると俺に視線を合わせる。不安定な表情はやはり今にも死んでしまいそうだ。

「覚えてないんだ」

「……」

「ただ、落ちて行くのだけは覚えてる。高い場所から。あとは、知らない」

言って見せて鬼柳はほくそ笑んだ。皮肉な笑顔は辛そうだったが、俺はただそれを眺める。そして鬼柳の言う事を理解しようとしていた。
死神は元来人間であった者がなる、のかもしれない。わからないが。ただ記憶があるのだとこの死神は言った。もし人間であった頃があったのだとして、何を弾みに死神になるの、か。ああ俺そんなに頭良くないから分からないな。頭痛い。

そうして、んーと唸って首を傾げたと同時か、がちゃりと扉を開く音がした。その方向を見ると、屋上の入口から遊星とジャックが入って来るのが見えた。
遊星とジャックは学年が一つ違うが友人である。そういえば最近テストが忙しいので会っていなかった。調度いいと手を振って二人を呼ぶと、二人はにこやかに笑って手を振って返してくれる。

「やはり此処に居たのだな」

「探したんだぞ」

「悪ィ。ちょっと…一人になりたくてよ」

ちらりと死神を見遣る。小さく笑ってそうかと返すジャックと、俺に首を傾げて見せる遊星。ジャックはともかく、遊星の反応の意味が分からずに俺も首を傾げ返すと、遊星は少しだけ黙ってから片手に持っていた売店の紙袋を地面に置いて座った。

「クロウ、校外の人か?」

「……は?何が?」

遊星はそう尋ね、紙袋からがさりと紙パックのお茶とパンを取出した。意味がわからず首を傾げ、ジャックを見る。ジャックも同様に「ああ、校外の者か、なるほど」なんて言っていた。もう一度首を傾げて見せて、そこで漸く遊星は言う。

「……この人だ。コートだし、見ない顔だ」

「教育実習生か?知り合いなら紹介しろ」

「………え」

遊星もジャックも確実に鬼柳を、死神を指差していた。俺は一瞬事態が読めずに混乱し、しかしすぐに事態を読んで死神を勢い良く見上げる。

「なんで見えてんだよ!」

「知らない。こういうケースマニュアルには書いてなかった」

「はあ?」

「ただ、死神は死に近い者にしか見えない。たがら多分そういう事だろう、よくわからないが」

「…クロウ?」

「どうした」

「……あ、いや…」

俺が死ぬ。これは大丈夫だった。別にどうとも、いや、ゼロではなかったけれど、あまり驚きはしなかった。しかし今目の前にいる仲の良い友人。この二人が死んでしまう?あまりに酷い。俺は一旦冷静になろうとして、しかし上手く行かずに頭を掻いた。いきなり焦りを感じる。死んでしまうかもしれない、この二人が。

「……サービスだ、クロウ。教えてやるが…二人の寿命はお前と同じみたいだぞ」

「……は?」

「よくわからない。………だけどお前らは数分の差で寿命が並んでいる」

「……一緒に、死ぬのか?」

「そこまでは、な。知らないし言えない……」

くつりと俯き笑って見せて、鬼柳はジャックと遊星に微笑みかけた。二人は恐縮するように頭を下げる。俺はその様を見て、ただどうするべきかと混乱した。

「俺はあくまでお前らの魂を導くだけだ。何もしないし、仕事を熟せないと怒られる」

「………会社か何かよ死神ってのは。冷徹野郎が」

「ああ。まあ、そういう事だ」

「クロウ?さっきから何を話しているのだ?」

「説明してくれないか?」

「……あ」

理解に苦しむように苦笑する二人。俺はその二人の見慣れた姿を見て、泣きそうになった。俺が死んでこの光景を見れなくなるだけでも淋しさは募っただろう。なのにそれどころか、こいつらまで死んでしまうだなんて。認めない。認めたくない。

もしかしたら、こいつは新人の死神だから何かを勘違いしている、だとか。そういう事なのかもしれない。

見上げた死神はつまらなそうに金網越しに遠くの墓地を眺めていた。興味も正気もない表情は、本当に今にも死んでしまいそうだ。遊星とジャックの生き生きとした表情を見て、死ぬならお前が死ねよと小さく思う。

「……俺は、死なないからな」

「……それは困る。魂を運ばなくては叱られる」

「…叱られる、って事は、前例があるんだろ?死ななくて魂を運べない死神が居た前例が」

「………」

「図星だろ?」

一度はこちらに目線を遣った死神は、ふいと再び墓地に視線を移した。絶対に死なない、ともう一度呟き、俺は説明をするからと遊星とジャックを連れて校内へ帰った。



***



松茸御飯様から頂きました、満足同盟×死神鬼柳先生のパラレル です!

素敵な設定でのリクだったのに生かせなくてごめんなさい…!そして尻切れですね…!もっと素敵設定を生かして一杯書きたかったです…!orz


この後遊星ジャックにカミングアウトして、死神鬼柳の死神になった理由とか明かして、死神社会の面倒臭さも書いて、結局死ぬのか死なないかも決めて…と色々したかったのですが、ぐだぐだになって来た上に無駄に長くなったので…切っちゃいましたぁああ…!←

こんな仕上がりでごめんなさい松茸御飯様!苦情受け付けております…!

では、リクエストありがとうございました!







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