尊敬してました




仕事が早めに終わった。3時前に終わるのは大変珍しく、携帯の画面に表示される時間が、妙に違和感を抱く。そのまま京介にメールを打った。
内容は「仕事が早く済んだから、迎えに行ってもいいが」。
狂介にもそう伝えるようメール内容に記載し、携帯を閉じる。

職場から二人の高校まではそう時間は掛からない。職場から家は近く、高校から家は遠い。
つまり車に乗っている自分が少し遠回りすれば、可愛い弟二人が楽を出来るのだ。自分からすれば、少しの遠回りだろうとなんて事はない。

自分の携帯の着信は無音の為、ただライトが点滅する。携帯を開いてメールを確認した。帰って来た内容は、「委員会で少し残るけど待てる?狂介は迎えに来て欲しいってさ」というもの。
別段、少し待たされて困る事なんてない。「学校の裏で待っているから、狂介に来るように伝えておいてくれ」。メールを打ち終え、携帯を閉じた。



車内は異様に片付いている。あまり人を乗せないし、京介や狂介を乗せるが二人はあまり汚さない。…狂介は汚すが、まあ大体京介が片付けてくれる。
自分も元来あまり汚し屋ではないので、必然と車内は整頓されていた。
以前ラモンを乗せた時に「片付いてんなー」と呟かれた記憶がある。ラモンの車は、想像するだけで散らかっていそうなのが想像出来た。



久しぶりに見た高校に視線を奪われながら、学校の裏手に車を止める。職員用の出口手前の邪魔にならなそうな場所で待機して、携帯を開いた。
メールは来ていないが、まあ狂介はすぐ来るだろう。携帯を無音からバイブになるようにマナーモードにしてから、ポケットに入れた。

暫くして、窓をこんこんと叩かれる。狂介が来たのか、と暇を埋める為に見ていた書類から外に目を移すと、そこには狂介と、見覚えのある大人が居た。
二、三瞬き、それから窓を開ける。うー、と窓を開ける流暢な音が鳴り終わって、漸く窓が完璧に開いた。

「……狂介、と…ルドガー先生?」

面倒臭そうに頭を掻く狂介と、それを小さく叱りながら「久しぶりだな」と笑うルドガー。
首を傾げて見せれば、狂介が口を開いた。

「説教喰らってて、お前が来てるっつったら一度保護者と話すべきだなってよ」

「悪いな。時間あるか?」

「……あ、まあ…」

「そうか。では、車は職員用の駐車場に止めてくれ。此処で待っている」

言われ、頷いて窓を閉める。職員用の入口の手前にある駐車場に車を進めた。
つまり、三者面談か。頷いて車を止める。狂介の素行がよくないのは大体予想がついた。
しかし高校でそういう事はするのだろうか。あまり聞かない。
中学の時の狂介は真面目というか大人しかったから、あまりこういった経験はなかったか。

というか。
ルドガーはそういう教師だったのだろうか。俺は、それこそ真面目な生徒だったから、わからない。
彼の教科で良い点を取り、頭を撫でられた事はあっても、わざわざ彼の日常の時間を割いてまで説教を……時間の共用までをした事がなかった。
彼にとって自分は、真面目な生徒。頭の良い生徒。それだけ。
だから説教なんてされなかった。彼は素行の悪い生徒とは、時間を共用するのか。




「鬼柳、お前は何処かで時間を潰していろ」

「ええー!?なんで!?」

「お前のお兄さんと二人で話すから、だからお前は邪魔だ」

「………要らない事言うなよ!」

教室の前でルドガーが狂介を追い払う。学校生活をする狂介を見るのは珍しく、教師に従う狂介はなかなか微笑ましく思えた。
さて、と教室に入る事を促されて、中に入る。以前となんら変わらない教室を見回し、手前の椅子に座った。
その向かい側にルドガーが座る。

「まずは……校内の素行なんだが」

言って、ルドガーは苦笑しながら後ろ頭を掻く。ペンを手に取り、持って来ていた資料を見ながら、ペンで資料の文字をなぞった。
その仕種に、思わず微笑してしまう。すると、こちらを見ていたルドガーが怪訝そうに首を傾げた。

「ああ、いや……昔のままだなと思って」

「…何がだ?」

「癖、とか。表情とか」

「…よく見ているな」

ほう、と感心するようにルドガーは言う。その表情も全く同じだ。
懐かしい。

「俺、ずっと先生のクラスだったから」

「ああ、そうだったな…」

懐かしむように、ルドガーは穏やかに笑む。
クラスには一人元気な奴が居た。そいつが騒ぐと、クラスの中も明るくなる。必然と騒がしいクラスの中で、呆れたように叱るルドガー。もう戻れないその光景が、古ぼけたネガのように色も動きも音もなく掠れて浮かぶ。

「お前は真面目な奴だったな、赤点は有り得なかった」

「……そうですね、勉強は好きだった」

嘘。貴方に褒めて貰いたかった。貴方の教科は楽しくて、その教科の参考書ですら貴方を思い出していたから。

「素行も良かったな」

「まあ…学校生活が楽しかったですから」

嘘。本当は不良が羨ましかった。貴方に叱られる奴らが。
呆れて叱る貴方が、その実彼らを気に入っていたのは知っていた。だけど自分は素行を悪くして、もし貴方に叱られたら、と怯えていた。

もう、昔の話だけど。
学園生活で、一時期の恋だ。
もう、何も思っていない。


「にしても、弟はお前に似ていないな」

「引き取った時期が時期ですから」

「……反抗期真っ只中だな」

資料を見ながら、ルドガーは吃驚したように言う。
ルドガーは、素行の悪い者に手間を掛ける癖があった。だから、だから羨ましかった。

「手間の掛かる奴だ、アイツは」

ルドガーは言って、困ったように小さく笑う。その表情を見て、俺は胸が痛かった。
ああそうか狂介も、そうなのか。狂介も手間の掛かる奴か。

俺は出来なかった事が、狂介には出来ている。羨ましくて、仕方なかった。



***



ルド←狂もルド←馨も美味しいです。本命はルド狂。




2009/12/34/Web


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