排撃準備は万全なのです



※鬼柳先生はカードの精霊が見える人
そしてリクエストとかなり掛け離れてしまいました。ほのぼのの、ほの字もないですすいませんorz


今日のデュエルタイムも終了した。落ちる太陽。少しばかり長引いてしまったが、だが日没よりは早く済んだ。
後ろから喚声が聞こえる。デュエルディスクを仕舞い、前方のデュエリストを一瞥した後、踵を帰してその場を後にした。
ラモンが労いの言葉を掛ける。俺は少ない言葉を返し、会話の回数を重ねるごとにその言葉すら無くした。殆ど無視の状態になると、ラモンは何も言わなくなる。そのまま用意されていたバイクに跨がった。


町から少し離れた場所にあるラモングループの館。趣味は一貫されているのか、シックな外観である。自分に宛がわれている部屋へ向かおうとし、しかしバイクから降りようとしたのを止めた。
続いて隣に止まるラモンは、どうしたのかと俺を見る。返事をするのが面倒で、少しだけ考えてから口を開いた。

「……少し、その辺りに行って来る」

「ああ、わかりました」

ラモンは二つ返事に言う。何も今回が初めてではないからだろう。帰って来たら声を掛けて下さい、ラモンはそう言って子分を引き連れてバイクを仕舞いに行った。
エンジンをかけてバイクを走らせる。向かう場所はいつも居る崖だ。あそこは人気がなく、見晴らしが良い。俺を後方から見掛けて寄る奴もいないだろう。あそこならば、俺は一人なれる。



崖に着き、まずデュエルディスクを外して地面へ放った。それからその場所へどかりと座り込む。空はもう夜空の色をしていて、仰いで見上げればサテライトでは有り得なかった綺麗な星空がそこに広がっていた。
仰いで見た空は昔の記憶とは一切掠らずに、真新しい感覚で脳に刷り込まれる。一切掠らない、それが逆に昔の記憶を擽った。いや、なんでも俺の罪悪感を煽ったのかもしれない。

今日も、また、一人。

俺は地獄の鉱山と呼ばれる場所へ、一人の人間を送った。俺を殺せなかった奴を。こうして何回デュエルを続けたのだろうか。何人、俺のせいで死んだのだろうか。

俺は、サテライトに居た時から今まで、沢山の人間を殺した。

しかし一度として直接殺した事など無かった。爆破テロでセキュリティの人間を、地縛神の生贄とされた人間を、デュエルを終えて鉱山へ送られる人間を、沢山の人間を、だ。死んだ瞬間を直視した事すらが無い。

何が死神だ。誰が呼び始めたかは知らないが、俺は死神と呼ばれている。
ああそうか、確かに死神だ。
死神は人を殺すのではない、死を運び、人を死へ誘う。ああ俺は死神だ。冷静に考えればそうだな。

くく、と嘲笑が漏れる。俺は死にたかった。なのに今、死神となっている。なんて笑える話だろうか。
するり、とデュエルディスクを撫でる。見て見ぬフリをしていた後方を漸く振り返り、なあ、と声を掛けた。笑いを促すが、誰も笑ってはくれない。真剣に俺の行動を推し量っているようだ。

「本当…お前らも不運だな、よりにもよって俺に使われるなんて…」

はは、と溜息混じりに笑う。
俺の背後には、ずらりと並ぶモンスター達。名前は一体ずつ言える。
左から、インフェルニティ・ビースト、デーモン、デスドラゴン、デストロイヤー、デスガンマン、ネクロマンサー。
…ああ今日は大分少ないな。いつもは他にもクライマーやリベンジャーなんかが居るんだが…。

俺はこの町に来てから、妙な目を持ったらしい。以前は見えなかった筈の物が見えるようになった。
それはこのモンスター達である。デュエル中でなく現れる、ソリッドビジョンではない見た目。
サテライトに居た時、最近明確に思い出して来たダークシグナーであった時。その時には見えなかった筈のモンスター達が、見えるのだ。最初こそ驚いた。しかし口喧しく俺に話し掛けるあいつらに俺は驚きを忘れ、次第にうんざりとするようになる。
当時の俺なら嬉しくて仕方なかっただろうに。

「…お前らは此処に居ろよ」

返事のない面々を睨み据え、デュエルディスクを拾い上げる。
デュエルディスクはバイクのシートの上に置いた。
そのままもう一度モンスターらに「来るなよ」と言い付けて、崖伝いに遠方へ向けて歩く。

辺りは先程より更に暗さを増していた。風が怖いくらいに静かに吹いて、ばさりと無駄に伸びた髪が揺れる。
俺は一人になりたい。一人になりたい。一人がいい、だが、あいつらはそれを許さない。
適度な距離を取って俺に寄り添う。慰めのつもりか、なんなのか。いくら罵倒しようと当たろうと、あいつらは俺の側に居た。

足を止め、ぐるりと振り返る。踏んでいた草はぐしゃりと音を立てた。

振り返った先には、一定の距離を空けて着いて来ていたのだろう、てくてくと歩いていたインフェルニティ・ビーストが居る。俺同様に足を止め、小さく声を上げて俺を見上げた。くう、と鳴いて姿勢を低くする。

「来るな、と言った」

目一杯の憎悪を込めた声色で言った。ビーストは更に姿勢を低くする。ひっそりと上げられた目に睨み返し、溜息を吐いた。
目線をビーストの後ろに遣ると、何十メートルか距離を空けた場所で様子を伺っているのか、立ち止まってこちらを見遣るデスドラゴンとデーモンが居る。
他の奴らは俺のバイクを見張ってたりだとかしているんだろう。適当に考え、再び溜息を吐いた。

「お前らは何がしたいんだ」

話し掛けるな、構うな。そう言うとこいつらは何も言わず、俺から距離を空けるようになった。しかし付き纏う事は変わらない。

「なあ、何がしたいんだ?俺に付き纏って、俺を監視して…俺に、俺なんかに何を求めてる?」

くぅん、ビーストは小さく鳴いた。そうして足を伸ばして首を伸ばす。俺に歩み寄って足に擦り寄った。それを見下ろし、溜息を吐く。

「…お前じゃ話にならないな」

くう。弱々しく鳴き、ビーストは尻尾を垂らした。
また溜息を吐き、しゃがみ込む。つ、と一歩引いたビーストの頭を撫でると、ビーストは一旦の間を空けてから尻尾をゆるゆると揺らした。

「……あいつらを呼んで来い、ビースト」

ぽんぽんと頭を撫で、後方に居るデスドラゴンとデーモンを指す。ビーストはワン、と鳴いて後方へ走って行った。
颯爽とした走りっぷりに少しばかり微笑んでしまう。なんだかんだで俺はデュエルが、モンスター達が好きだ。ただ放っておいて欲しいだけで。




「俺達は貴方の隷ですから」

「だから私達は貴方を守ります」

「……はあ?」

開閉一番に、デーモンとデスドラゴンはそう言う。
普段慣れていないように荒い声色で敬語を言うデーモン、案外落ち着いた声質で敬語を使い熟すデスドラゴン。
何故俺に付き纏う、という質問に対してのそれは酷く献身的であった。意味が分からずに俺は首を傾げる。
パックを買い、デッキにカードを加え、デュエルで使う。それだけでこいつらはデュエリストを主人とし、仕えるというのか。

「……じゃあ、質問を変える。お前らはこんな俺でも、主人として認められるのか?」

見上げる高さにあるデーモンとデスドラゴンの顔を見上げ、尋ねる。足元ではビーストがたまに足に擦り寄っていた。

「はい」

「当然です」

真っ直ぐな視線に少しだけたじろぎ、そうして合わせづらくなった目線を地面に落とす。

「貴方はとても強い。過去を悔やんでらっしゃる」

「そして自分を責めている。俺が思うに、それは並の人間なら出来ない」

デスドラゴンとデーモンはそう言って、俺を伺った。俺はゆるりと視線を上げ、胸元の服を掴む。

「……デーモン、お前は知ってるだろ?俺は…仲間を傷付けた」

「はい、見ていました」

「……俺は最低だ」

眉根を寄せ、俯く。噛み締める奥歯がぎりと音を立てた。
くうん、とビーストが鳴く。ああお前も見てたか、と呟けばビーストは甘えるように足に擦り寄った。

「けど、貴方は変わった」

「……そうして、死神になった」

デーモンは言葉に悩むように黙る。俺は口角を上げて自分を嘲笑した。
何故こいつらに当たるんだ。いつもこうだ、俺はこいつらに当たる。そしてこいつらはそれを受け入れてくれる。それが、酷く辛い。

「貴方が何であろうと、私達は貴方が全てで、貴方を愛している。ですから貴方に従う、心配もします」

「……」

「もうあまり、自分を傷付けないで下さい」

至極優しい声色で言われ、俺は下げていた視線を上げた。

何故そんなに優しくするんだ。
なんで俺なんかに。何故俺に愛を向ける。なんでこんな俺に。

意味も分からずぼろりと溢れる涙に、俺は困惑する。
わしゃわしゃと頭を撫でられ、デーモンを見る。大きな掌は俺の頭を優しく撫でてくれていた。

「…こんな、俺を…守ってくれる奴なんか居ない。俺は、人殺しだ」

「俺達が守ります」

「私達は貴方の味方です」

「……っ…」

ぶわ、と溢れる涙に負けて、俺はその場に座り込む。俺は人殺しだ。人殺しで、殺されたい。誰も俺を守ってはくれない。けれどこいつらはこんな俺を愛してくれる。こんな俺を。あんなに邪険に扱っていた俺を。
だらりと垂れた手に、ビーストが頬を擦り寄せた。

俺がお前らの事が見えるようになった理由はわからない。けれど救いようのない俺を、支えてくれる。お前らが見えて、見えるようになって。俺には良かったのかもしれない。

お前に人殺しを手伝わせて、ごめんな。

涙を堪えながら言うと、デスドラゴンとデーモンは「いいえ」と優しく口を揃えて返してくれた。



***



デスドラゴンを慰めたり、ビーストと散歩したりする鬼柳先生、とのリクエストだったのですが…すいません…!かなり酷い仕上がりに!orz

どうしてシリアスにしてしまうんだろう…リクエストからかなり脱線してしまいました…ごめんなさい!苦情は受付ております!orz

とりあえず、デーモンとデスドラゴンとビーストを贔屓してしまいました。書きやすい子達を優先した結果です(^ω^)
性格とかかなり勝手にやりましたが、まあもろもろの箇所は見逃してやってくだしあ!

そしてこの鬼柳さんはビバ☆遊星要らず、です(・ω・´)

では、リクエストありがとうございました!







小説置場へ
サイトトップへ


 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -