ケロイド




デュエルディスクの改良は鬼柳に頼まれた事だった。
鬼柳曰く、勝負が付いて相手のデュエルディスクが使用不可能になる、というだけのペナルティでは満足出来ないそうで、以前から煙を上げる程の爆発を頼まれていた。そうして今、皆が寝静まった中でデュエルディスクの改良をしているのだが…指先がずしりと重い。頭も痛く、瞼も少しばかり重い…気がする。

そういえば此処の所、ロクに寝ていなかったかもしれない。

二日…三日…いやもっとか?ああわからないな。どれくらい寝てなかっただろうか。一人で小首を傾げ、結論が出ないので諦め、作業を再開する。
鬼柳に完成したデュエルディスクを見せたら、喜んでくれるだろうか。子供のようにはしゃぐ鬼柳を想像して、ああ可愛いな、と口元が緩む。鬼柳は嬉しい事があると人に抱き着くクセもあるので、色々期待していいだろうか。
…そういえば、以前通信機を完成させた時は「ご褒美だ」と言って色々してくれたな。恋人同士の特権を乱用して騎乗位からご奉仕、恥ずかしい言葉を言ってもらったり。またああいう事をしてもらいたい、とワクワクしながらドライバーの作業を進める。
だが、考えに反して手からぼろりとドライバーが落ちた。吃驚して掌を見るが、なんら支障はない。首を傾げて、瞬きをする。いきなり体が怠さを訴え、そこで漸く「ああ自分は眠いのか」と気付いた。

気にせずドライバーを拾い上げようとして、しかしぐらりと揺れる体に舌打ちをする。体は眠いのかもしれないが、脳はそうでない、寧ろ鬼柳の乱れた姿を想像して血流が巡りに巡っていた。早くデュエルディスクを完成させて色々したい。とまで考え、ふと冷静になる。

こんな体調不良で鬼柳とシて、果たして鬼柳を満足させられるだろうか。いいや答は否だ。
第一こんなフラフラでは俺が満足できる訳がない。
よし、と頷き、俺は工具入れに工具一式を入れて部屋に帰った。今日はもう寝よう。




次に乗り込む地区の情報収集をしていたら、帰りが遅れてしまった。途中見付かって、軽く暴力沙汰にはなってしまったが…まあそこはチームサティスファクションのリーダーをなめるな、という話だ。殴り倒して来てやった。しかし殴られた左頬がいやに痛む。

あー遊星に慰めてもらいたい。どうせ遊星はまた夜更かししてるんだろーし。

トントンと小走りで階段を登り、荒れた室内をぐるりと見回すとそこに遊星はいなかった。普段ライトを点けて床に座る遊星はいなくて、バラバラに置かれている筈の工具は工具入れに収まっている。分解途中のデュエルディスクも綺麗に置かれ、俺はがっかりした。しかしすぐに、あの遊星が睡眠を取ったのだと理解する。
眠かったのか、と適当に考えて室内に入った。

(あー…ほっぺた痛ぇー…)

遊星になでなでして欲しい。となんだか淋しい気分になる。しゅんと頭を垂れ、どかりと痛んでいるソファに座った。手の甲で頬を摩る。そうしながら正面にある柱を見て、なんとなくぼんやりと今朝の事を思い出した。

クロウに会いに来た子供達のなかで、女の子が一人、あの柱にぶつかってしまった。その子は額が腫れてしまっていて、うるうると目を潤ませて、まあ俺はなんとなく遠くからそれを見ていたのだが…遊星はそれに気付いて頭を撫でてやったのだ。それからクロウに伝え、少女とクロウは額を冷やしに向かった。

……それだけ。たったそれだけだ。なんとなく、思い出して胸がきゅーっとなる。
遊星に頭を撫でて貰いたい。遊星に頭なでなでして、頬に慈しむように優しく触れて貰いたい。遊星は優しい、そこが好きだ。…たまに変態っぽくなるけど、あれは愛されてる証拠だと…まあ、言い聞かせてる。

「………遊星」

ぽつり。名前を呟くと更に歯止めが利かなくなる。遊星に撫でて貰いたい。
大丈夫か?痛むのか?そう心配そうに俺の頬を撫でる遊星は簡単に想像がつく。すぐにして貰いたい。でも。

(……遊星は、寝なきゃなぁ…)

遊星は此処の所ずっと寝ていない。俺が見ている限りでは、全く寝ていない。
三日前に体を重ねた際は散々に愛されてしまって俺は気を失ってしまったのだが、目が覚めた時には遊星はパソコンの修理作業をしていて、起きた俺に爽やかな笑顔で手を小さく振ってくれた。あれは寝たとしても数時間だろう。

だから今回、自ら寝に行ったのだとしたら、遊星は静かに寝かせなければならない。今回を逃せば次遊星がいつ寝るかわからないから。寝かせないと、近日遊星は体調不良で倒れてしまうだろう。

「……ゆーせー…」

ぽつり。また名前を呼ぶと、異様に愛しくて泣きそうになった。軽い嫉妬もあるのかもしれない。俺は今朝の遊星が少女の頭を撫でている場面を思い出すと、泣きそうになってしまう。痛む頬を摩った。情けない。俺は、リーダーなのに。




夢は見ないくらいに熟睡していた。と思う。はっきり言えない理由は、俺がいきなり起こされたからである。久しぶりのベッドは、どんなにバネが軋んでいようとどんなに毛布が薄かろうが素晴らしい寝心地だった。
腹部に感じる重みと、それから人の気配。名前を呼ぶ声。
うっすらとしていた意識が次第にはっきりして、俺を強行手段で起こした主を見上げた。

「………鬼柳…?」

「…遊星」

俺の腹部に跨がって俺を見下ろす人物。それは俺の愛して止まない鬼柳京介だった。カーテン等もちろんない窓から差し込む月明かりに、鬼柳の薄白銀の髪が映える。黄色い瞳もとても美しくて、しかしその縁に浮かぶ涙に俺は吃驚した。

「鬼柳、」

「遊星起こしてごめんな…本当にごめん、でも俺今遊星に構って貰えないと…狂っちまいそうでよ…」

ぎゅうと腹部の服を掴まれる。ボロボロ涙を落とし、鬼柳は顔を俯かせた。
何か、あったのだろうか。確か今日は情報収集に行っていたのだったか…情報収集中に何かあったのか?だったら、ついて行けば良かった。いやだが情報収集なんて鬼柳はしょっちゅうしているのだから、慣れている筈だ。そう何かある事もないだろう。それに俺が着いて行く、というと必ず拒否られる。

そこまで考えて、涙を流す鬼柳の頬へ目が行った。
腫れている。青紫色になって。ざわりと胸元が騒いだ。

「……鬼柳?」

「っ……遊、星」

優しく鬼柳の頬に手を添え、たじろぎながら見下ろす鬼柳を見上げる。

「…頬、殴られたのか…?」

「…っ…」

言い、頬を優しく撫でた。すると鬼柳は瞬間的に表情を歪め、更にボロボロと泣き崩れる。俺の胸元に顔を埋め、酷い嗚咽を繰り返した。

「…っ遊、星…おれ」

「……痛かったか…?可哀相に……」

俺の胸元に顔を埋める鬼柳。体制的に頬は撫でられないので、頭を撫でて遣る。嗚咽を整えようとする鬼柳に、「大丈夫だ」「可哀相に」と繰り返し言った。その度に、うん、と弱々しく返して頷く鬼柳。ああ可愛い。誰かは知らないが、こんなに可愛い鬼柳の顔に腫れるほどの拳を喰らわせた輩を半殺しで許せる気がしない。鬼柳が情報収集中にやられたのだとして、つまりそれは次の制覇する地区の奴だろう。ああ殴り倒してやるのが楽しみだ。にしても腹が立つ。

「……遊星好き、今日はかなり実感したんだ…」

「……鬼柳」

「遊星愛してる……俺今日、頑張ったからさ…褒めてくんない?」

甘えるように俺の胸元を指先で撫でる。可愛いらしく笑い、鬼柳は俺の鼻先まで接近した。
痛そうな頬をゆるゆると撫で、その掌をそのまま鬼柳の頭へと置く。さらり柔らかい音のする髪ごと頭を丁寧に撫でた。

「…偉いな、鬼柳。愛してる」

鬼柳は俺の言葉を聞くと嬉しそうに笑う。それから俺の隣にごろりと寝た。どうしたのかと寝返りを打ってそちらを向くと、鬼柳は楽しそうに俺の入っている布団に入る。

「遊星、一緒に寝ていいか?」

「……構わないが、だが…」

だが、と言うと鬼柳は首を傾げた。俺はその先の言葉を思案して、言わないで止める。
正直眠気は吹っ飛んだ。で、だ。今目の前に無防備な、しかも何故か異様に俺に甘えたな鬼柳が居る。同じベッドで寝ている。据え膳食わぬはなんとやら、だ。
これは襲っても同意上になるだろう。なるに決まっている。

「……鬼柳」

「ん?なんだ遊、星……?ちょ、え…?」

ニコニコと笑顔で返した鬼柳。しかし次第に表情を歪める。
俺が布団を被りながら鬼柳に覆いかぶさったからだろう。事態を理解したのか、俺の意図を理解したのか、鬼柳はみるみる顔色を悪くして布団から出ようとした。
なので鬼柳の両肩を上から両手で抑え、身動きを封じる。鬼柳は焦ったように口を開いた。

「っ……ダメだ遊星、お前は寝ないと…倒れちまうだろ…!?」

「大丈夫だ」

「なんでそんな、くそ…だぁもうっ…畜生っ」

なんで俺こんな奴が恋しくなったんだ畜生、と何度も繰り返す鬼柳。ああ可愛い。痛そうな頬に短いキスをすると、鬼柳はびくんと体を震わせてから少しばかり大人しくなった。

「………畜生…」

「…鬼柳…?」

「……い、っかい…だけだからな」

苦そうな表情だが、頬は赤い。ああだからなんでそんなに可愛いんだ。目茶苦茶にしたくなる。
一回で満足出来るだろうかと疑問を抱きつつ、俺は鬼柳の頭を撫でて服を脱がしに掛かった。



***



遊京で夜這い話、とのリクエストでした!なんだか夜這いらしさがあまりなくてすいませーんorz

書いてる途中で、満足町滞在中の遊星×鬼柳にしようかと思ってしまってなんだか完成が伸びました…(;^ω^)

あと、ころころ視点変わるのはこのジャンルだと初めての試みでした。書きやすいのですが、読みにくかったらすいません…(^ω^)


では、リクエストありがとうございました!作成、楽しかったです!







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